『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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三つめの宝物 -30- (蘭花)
蘭花さんの大事な宝物を奪ってすみません。混濁する意識の中で、鏡夜は蘭花に謝罪した。
しかし、当の蘭花は、ハルヒを奪われたとは全く思っていなくて……。
* * *
涼二君。
私のことについては、
何か、あなたに言い残そうなんて思ってないわ。
だって、「最期に……」なんて言い始めたら、
このまま治らないなんて、そんな弱気なことは駄目だって、
あなたはきっと、私に怒るんでしょうから。
だけど、涼二君。
一つだけ言わせてくれるかしら。
どんなにあなたに怒られても、
これだけは、今、ちゃんとお願いしておきたいの。
それは、私達の『宝物』こと。
あの娘のことを、どうかよろしくね。
いつの日か、あの娘のことを、傍で「守ってくれる人」が現れるまで。
*
時は進んで、11月22日昼前。
仕事で普段から飲み慣れている蘭花にとっても、
昨日(今朝?)は少々深酒だったようで、
電車の中で、あくびをすること数回。
二日酔いで気持ちが悪い、なんてことは流石にないけれど、
普段の出勤よりも、かなり早めに家を出たので、寝不足気味だ。
環状線の横向きの座席に腰かけると、
規則正しい電車の揺れに、うとうと、視界も自然とぼやけてきて、
つい、うっかり乗り過ごしそうになりつつも、
窓の外の目的地の駅名に、はっと気付いて、
電車の扉が閉まりきる前に、慌てて電車を降りた。
ターミナル駅の人ごみの中を、
普段なら、デパートなどの商業施設が立ち並ぶ出口に向かうところ、
今日は、反対の改札、オフィス街につながる出口に向かう。
蘭花の普段の生活パターンでは、
滅多に使わない改札口だったけれど、
数ヶ月前に散々迷ったこともあって、
二度目の今日は、すんなり目的地まで行くことができた。
人生経験豊富な蘭花でも、
気後れするほど大きくて綺麗なオフィスビル。
ここが本日の訪問先、鏡夜が勤める会社の一つだ。
「これはこれは、藤岡様。本日は、どのようなご用件でございましょう」
前回は、頑として突っぱねられ続けた受付嬢を、
今日はすんなりクリアして、
指定された階でエレベーターを降りると、
見慣れたサングラス姿の男性、
鏡夜の付き人であり、秘書業務からボディーガードまでこなす、
橘が待ち受けていて、丁重な挨拶を受けた。
とはいえ。
言葉使いこそ丁寧そのものだが、
内心は、蘭花が訪問してくることを不快に思っているようで、
鏡夜専用の役員室に案内する際も、
明らかに渋々といった様子だ。
鳳家のスタッフとして、
厳しい訓練を受けているはずの橘であれば、
どんなに気に食わないことがあろうとも、
隠そうと思えばいくらでも隠せるだろうに、
敢えてそれをしないのだから、その心中は察して余りある。
「で、蘭花さん。本日のご用件は……。
昨日、何か忘れたことでもありましたか?」
部屋に入ったら入ったで、鏡夜の方は、
不快な様子こそないものの、
一体何をしに来たのかと、警戒心いっぱいにこちらを伺ってくる。
その彼に、ずいっと突き付けた封筒は、
昨日、渡しそびれてしまった誕生日プレゼント。
「……『写真』……ですか?」
封筒の中身は、大切な娘、ハルヒの写真が十数枚。
そのほとんどが、鏡夜の誕生日プレゼント用に、
予め焼き増ししておいたものだったが、
一枚だけ、別格のものがあった。
それは、今朝になって、急遽追加することにした写真。
ハルヒと、琴子と、そして蘭花。
三人一緒に撮った、最後の家族写真。
もともと二枚だけしか現像してないそれは、
一枚はハルヒに渡し、もう一枚はアルバムに整理していたのだが、
それを、アルバムの台紙から外して、そのまま封筒に入れてきた。
「ええ。それが、私から君へのプレゼントよ」
何故、新しく焼き増しせずに、
アルバムの写真をそのままプレゼントしたかと言えば、
他の写真と違って、これと同じ写真を焼き増しすることは、
二度と出来ないからだ。
以前、ハルヒが、高校で鞄を池に落としてしまい、
(当時の鏡夜君からの報告では、ちょっとした嫉妬のようなものだったらしい)、
同じ写真を新しく欲しいと言われた時、
「ネガは遺品整理のときに失くしてしまった」と伝えた。
でも、それは嘘。本当は失くしたんじゃない。
この写真のネガは、あの日、
琴子の遺体と一緒に燃やしてしまったのだから。
* * *
続