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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

Suriya'n-Fantasy-World

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三つめの宝物 -26-

三つめの宝物 -26- (鏡夜)

誕生日前日に、意識を失うほど飲ませておきながら、翌日、誕生日プレゼントを届けに来た蘭花。
何故、蘭花は鏡夜にプレゼントを渡しにきたのか……?

* * *

ハルヒさんの写真ですね。子供の頃の」

蘭花からの思わぬ誕生日プレゼント。

渡された白い封筒の中には、
鏡夜達と出会う前のハルヒの写真が十数枚入っていて、
鏡夜はそれを封筒から取り出し、一枚一枚めくっていく。

「特に可愛く映ってるのを選んで、焼き増ししてきたのよ。
 ……今度は……ちゃんと鏡夜君が持っておきなさいよね」
「今度?」

鏡夜が写真を繰る手を止めて顔を上げると、
蘭花は首をすくめて寂しそうに笑っていた。

「前に提供した写真は『環君にあげちゃった』って、君、言ってなかった?」
「……ああ、それは」

鏡夜は眼鏡の位置を直してから、
再び写真に視線を落とした。

「少し悪ふざけをしましてね」
「悪ふざけ?」
「ええ。ホスト部で海に行った時に、
 話の流れで『ハルヒさんの弱点を探そう』ということになりまして。
 勝った者に、ハルヒさんの写真を賞品として出すということに」

あの夏の日、夏の夜。嵐の一夜に轟く雷鳴。
……思えばあれが『全ての始まり』だった気がする。

自分にとっても、環にとっても。

そして。


おそらくはハルヒにとっても。


「そんなことがあったの?
 あの子、全然学校のこと話してくれないから」
「ええ。それで、その勝負に勝ったのが環だったんです」

勝者は居ないと思っていたあの日の勝負。

けれども、あの日の夜、
環はハルヒの弱点をちゃんと見つけていた。

見つけていたにも関わらず、
ハルヒのためにとずっと黙っていて、
鏡夜がそれを知ったのは、
その後、夏休みに入って、
ハルヒがバイトしていた軽井沢のペンションに、
部員皆で押し掛けた時のことだ。

「へえ? 鏡夜君が環君に負けるなんて珍しいのね
「……」

あいつに勝ったと思うことなんて、
本当は今まで一度もなかったのだけれど。

得てして、他人に与えている印象というものは、
自分の思いとは裏腹なものらしい。

「僕は参加してないですからね」

鏡夜は写真を見つめながら、
あの日のことを思い出して、小さく笑った。

「どうして鏡夜君は参加しなかったの?」
「答えを知ってる人間が参加するのも不公平かと思いまして」
「あら、あの子の雷嫌いを知ってたってこと?」
「ええ、事前のデータ収集で」
「……ねえ、前から思ってたんだけど、
 鏡夜君のその恐ろしいまでに正確な情報はどこから得てるわけ?」
「それは企業秘密です……ああ、これは、琴子さんですか?

鏡夜の目に留まったのは、
病室で撮られたらしい一枚の写真だった。

それまで見ていた十数枚は、
ハルヒが一人で映っている写真が多かったのだが、
鏡夜が気になった写真は、
蘭花とハルヒと、そしてもう一人、端正な顔立ちの女性が一緒に映っていた。

病室のベッドの上で、上半身を起こして微笑んでいる、
ハルヒに良く似た黒髪の女性。

左右から彼女を挟むようにして、
蘭花と、幼いハルヒがベッドサイドに腰掛けて、
三人とも、とても楽しそうに笑っている。

「ええ。まだ琴子が身体を起こせるときにね、
 看護師さんに頼んで撮ってもらったの。よく撮れてるでしょ?」

見るだけで暖かい家庭の空気が伝わってくる、
なんとも素敵な写真を見て、
鏡夜は、つい自分の子供の頃と比べてしまっていた。

「とても良い写真ですね」

お世辞などではなく、心の底からそう思った。

記憶にないほど幼い時を除いて、
自分が家族と写真を撮るとき、
こんな風に自然な笑顔を浮かべたことなど、一度もなかったからだ。

ハルヒからは常々、
鏡夜の家族の話をもっと聞かせて欲しい、
と、言われてはいるが、
上辺だけの笑顔で着飾った形だけの家族写真は、
本当の笑顔の価値を知った今となっては、
できれば彼女には見せたくない。

「それね。三人で最後に撮った写真なの」
「……最後?」
「琴子はいつも笑顔を絶やさない、明るく優しい人だったけど、
 その分、負けず嫌いで頑固なところもあってね」
「ハルヒさんと似てますね」
「そっくりよ。負けず嫌いな分、
 落ち込んだり、悲しんだり、悩んだり、
 そういった素振りを人前で見せることを、
 いつもすっごく嫌がってて、
 『弱っていく自分の姿は写真に残さないで欲しい』って、
 ずっと、あたしに言ってたの。
 だから……それが最後の一枚
「そんな大切な写真を、僕がいだたいてよろしいんですか?」

この写真の中に映っているのは、
暖かな柔らかい家族の思い出の一コマ。

幼い頃の彼女の写真をもらえるのは、
純粋に嬉しかったけれど、
明らかにこの三人から見て、自分は異質な部外者なのに、
こんなに大切な、しかも最後の家族団らんの写真を、
自分がもらってしまっていいものかと思う。

それに。

「蘭花さんは僕に怒っていたはずでは? 確か昨日の夜は……」

遠い闇の中にうずもれた昨日の記憶を必死にかき回して、
沈殿している断片をすくいあげようとする。

「裏切りがどうとか……すみません、
 あまり覚えてないんですが。
 僕がハルヒさんのことを二回裏切ったとか……言われたような気が」
「あら、そこは覚えてたのね。ええ、私は確かにそう言ったわよ」
「それは……『ハルヒさんと別れようとしたこと』とは別に、
 もう一つ『別の裏切り行為があった』ということですか?」
「もうっ! 君は本当に頭がいいくせにニブイわね!
 というか、天然っていったほうがいいのかしら?
 二回目の裏切りがなんなのか、その写真を見ても分からない?
「この写真を見て?」

蘭花とハルヒと琴子が映っている写真。

これと、蘭花が言うところの、
『ハルヒに対する裏切り行為』とが、
どういう関係があるというのか?

さっぱり検討が付かず、浮かぬ顔をしていると、
はーあ、と、大袈裟に蘭花に溜息を吐かれてしまった。

「あのね、鏡夜君。
 あの子は『大好きだった母親』を子供の時に亡くしてるの」
「それは知ってますが……?」
「そして『初めて好きになった人』も突然の事故で失ってる」
「……ええ、それも分かって……」
「全然、分かってないわよ、君は!!」

蘭花はガラスのテーブルにも構わず、
天板に拳を荒々しく叩きつけた。

「よ~く考えてみなさいよ。
 君は一週間前まで、 『どこ』『何を』してたわけ?」
「どこで何をって、交通事故にあって入院を…………」

と、ここまで答えて、
自分の言葉に背筋がすっと寒くなった。

そうだ。

自分は交通事故にあって……。

「お分かり? 鏡夜君」

一歩間違えれば、命を失って、
二度と、彼女の手を握れなかったかもしれない。

そんな危険な状態に自分がいたことを思い出す。



「君は『三人目』になるところだったのよ。
 それがあの子に対する裏切りでなくてなんだって言うの?」



* * *

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