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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

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三つめの宝物 -27-

三つめの宝物 -27- (鏡夜)

酔い潰れる前に、蘭花に追及された「ハルヒへの裏切り行為」について、
その意味に、ようやく気付いた鏡夜は……。


* **

数ヶ月前。

ハルヒに別れを告げた後、
ほとんど睡眠をとれておらず、
注意力が散漫になっていたこともあって、
左右をろくに確認せず、青信号に変わった直後の横断歩道を、
蘭花から逃げるように急いで渡ろうとした際、
信号無視で(正確にいうと変わり際に)突っ込んできた車と接触し、
鏡夜は、かなり大掛かりな手術を受けることになった。

その翌日、暗闇の中。

自分の左手を握り締めてくれた彼女の手は、
とても暖かくて、柔らかくて、
その手の温もりに導かれるように、意識は静かに覚醒した。

今でもあの感触は、
まるで昨日のことのようにはっきりと覚えている。

「鏡夜君。あの日、ハルヒが過呼吸起こして倒れたって、知ってた?」
「ハルヒが、倒れた?」
「君が交通事故のに会ったて電話で伝えたら、
 息ができなくなって、レストランで倒れたんだって。
 ちょうど、君のお姉様と食事をしてたみたいで、
 介抱してくださったみたいなんだけど。
 ハルヒか、君のお姉様から聞いてない?」
「……」

あの日、目を覚ました自分に彼女は泣きながらこう言った。


『自分は、昨日、先輩の事故のことを聞いて、
 胸が苦しくなって、息もできなくなって、
 先輩が居なくなってしまったらどうしようって、
 もし二度と話ができなくなってしまったらどうしようって、
 そう考えたら胸が痛くなって、動けなくて』


彼女の涙混じりの声も、手の感触と同じくらいに鮮明だ。

『息が出来なくなった』みたいなことは、
 言われていたように思いますけれど、それ以上のことは、何も」
「そっか。やっぱり、未だ細かいことは伝えてなかったのね。
 君が退院するまでは心配かけたくなかったのかしら」
「それで、ハルヒは……失礼、ハルヒさんは大丈夫なんですか?」
「君が意識を取り戻してからは、一回も症状は出てないみたいよ」
「そうだったんですか……」

二度目の……いや、母親から数えれば三度目。
自分の周りから大切な人がいなくなってしまうという悲しみ。

一歩間違えれば、鏡夜がその三人目になるところだった。

その不安を与えてしまったことが、彼女に対する裏切りなのだと、
蘭花にはっきりと指摘されて、
鏡夜は改めて自分の浅はかな行動を悔やんでいた。

「僕は、ハルヒさんに辛いことを、また思い出させてしまったんですね」

彼女に別れを告げた直後、自分が事故にあったことで、
彼女に『あの春の悪夢』を思い出させてしまった。

それが二回目の裏切りだというのなら、納得もいく。

もちろん事故の直接の原因は、
無理して交差点に進入してきた運転手にあるとしても、
周りに全く注意を払わずに、
ただ蘭花の追及から逃げようとした自分の行動にも十分責任はある。

彼女を幸せにしてやりたいのに、
どうしていつまでも自分は、彼女を苦しめてばかりいるのだろう。


『あいつ』ならきっと、こんなことには……。


「鏡夜君はもう少し、自分自身を大切にしたほうがいいと、あたしは思うけど」
「僕自身を大切に……?」
「ねえ、鏡夜君分かってる? あの子にとって今の鏡夜君は、
 『環君があっての鏡夜君』ではないのよ?
 あの子は本当に、一生懸命考えたわ。
 君が手術している間も、君が眠っている時も、
 ずっと君の側にいて、そして決めたの。
 これからは、君という人間の側にいるって。
 ちゃんと君自身だけを見つめて、
 君自身のことだけを考えて、
 そしてようやくあの子なりの、新しい『幸せ』を、見つけようとしてるのよ」
「……」

その幸せは、彼女が掴むことのできた、
『本来の幸せ』とは違うもの。

自分の出来る全てを捧げても、どれだけ時間をかけようとも、
同じ幸せを彼女に与えることは決してできない。


それは、俺には一生行けない場所にしかないものだから。


「それは理解してるつもりです。
 僕は彼女に対して、環のようにはなってやれませんが、
 でも、出来るだけ努力して、僕なりに彼女を幸せにしていこうと……」

それでも、彼女がこれから生きていく世界の中で、
自分を選んでくれるというのなら、出来る限りそれに応えていきたい。

例え、彼女を『そこ』へは連れていけなくても……。


『この場所』にいる限りにおいては、
『一番』といえる幸せを、自分は彼女に与えたい。


「バカね。謝る必要なんてないでしょ」

そんな決意を口にしたら、蘭花に鼻で笑われてしまった。

「君は環君みたいにはなれないってことに、
 負い目を感じてるようだけど……むしろ、違うからこそ良いんじゃない?」
「違うから……?」
「ええ、そうよ」

蘭花は少しだけ目を細めると、
こちらを見守るような、温かい笑みを浮かべてこう言った。



「誰かの『代わり』じゃないからこそ、あの子は今、君と一緒に居るんでしょ?」



* * *

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