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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

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三つめの宝物 -24-

三つめの宝物 -24- (ハルヒ)

鏡夜の誕生日の夜。部屋で彼を待つハルヒは……。


* * *

本当はもう少し早く帰ってきて、
ゆっくり食事の準備をしたかったけれど、
仕事というものは不思議なもので、
帰りたいときほど色々問題が起こるもの。

なんとか仕事に区切りをつけ、事務所を飛び出し、
家の近くのスーパーに駆け込み、
夕食の材料を買い込んで、
ハルヒがマンションに帰ってきた時には、
既に午後八時を越えてしまっていた。

今日の午後にもらったメールでは、
早くても九時前後にうちに来る……ということだったから、
予定通りで行けば、準備にはぎりぎりといったところだ。

テーブルの上には、
昨日の夜、メイからもらったワインが置いてある。

折角、終電間際にわざわざ届けてもらったものだったけれど、
アルコールをほとんど飲まないハルヒには、
赤ワインなら肉料理、白ワインなら魚料理ぐらいの知識しかなく、
どんな料理が合うのか、どうもイメージできなかったから、
とりあえず洋風なものならなんでもいいよね、と、
ビーフシチューをメインに、
サラダなどの簡単なオードブルを作ることに決めた。

こんなことを言ったら、
「もう少し気合を入れて準備をしろ!」と、
またメイに怒られてしまいそうだけど。

調理台の上に材料を広げて、
時計と携帯電話の着信を気にしながら、
手早く料理を作り、丁度、作業が一段落した頃、
携帯電話の着信ランプが光った。

『もうすぐ到着する』

というメールの文面を確認したハルヒは、
バスルームに向かい、
水道の蛇口をひねってお湯を張り始めることにした。

鏡夜が退院して仕事に復帰してから、
すでに一週間ほど経とうとしている。

本人曰く、足が少し痛む以外には、
体調面は特に問題ないということだったけれど、
鏡夜の性格からして、
「仕事に疲れた」なんて気弱なセリフを、
自分にすんなり打ち明けてくれるとも思えないし、
病み上がりにも構わず、容赦なく仕事が入ってることは聞いていたから、
先にゆっくりお風呂に入ってもらって、
それから食事のほうがいいかもしれない、なんて考えながら、
ぱたぱたと部屋の中を歩き回っていると、
インターホンの音が鳴った。

小走りに玄関に向かい、扉を開けようとしたとき、
ふと、あの日……、
彼が自分の前から立ち去ったあの日の夜のことを、
ハルヒは思い出してしまった。

思い返せば、彼の手を取ってから二ヶ月。

苦しいことも多かった。
無理していることも沢山あった。

それでも、あの時の私は「幸せ」だったのかな?

たとえ仮初めの時間でも。
いつ壊れるかわからない、ぎりぎりの緊張感の中でも。

二人でいる「苦しさ」に、気付かない内に少しずつ、
心は追い込まれていったけれど、
それでも、私は幸せだったんだろうと思う。


少なくとも、一人で居る[「寂しさ」は、
あの時の彼が、取り除いてくれたんだから。


けれど、「忘れなくていい」とまで言ってくれた、
彼の優しさがあまりに大きすぎて、強すぎたから、
全てを受け止め切れなくて、
ついに「さよなら」まで、彼に言わせてしまった……。

あの日の自分は、この扉の向こう側に、
一歩も足を踏み出すことができなかったけれど、
あれはもう、数ヶ月も前のこと。

あの日、ぴたりと二人を隔てていた扉。


今日は私が、この手で開ける。


さあ、どんな言葉で、彼を迎えてあげようか?

「お誕生日おめでとう」
……なんて、当たり前すぎかな?

じゃあ「あの時はごめんなさい」とか?
……でも、そんな言葉であっさりと片付けられる問題でもない気が……。

「おい」

考えがまとまらないままに扉を開けると、
玄関の向こうに立っていた彼は、
呆れたような顔でこちらを見つめていた。

「インターホンにも出ずに、
 そうやって無防備に玄関を開けるのは気をつけろ言っただろ?
 お前は本当に無用心だな」
「あ……そういえばそうですね。すみません」

照れ笑いを浮かべる私の頭を、
くしゃくしゃと撫でてくれる彼。

「悪かったな、遅くなって」
「いえ、自分もあんまり早く帰ってこれなかったので、
 全然大丈夫ですけど……」

シューズボックスから、
スリッパを取って床に揃えて置く。

「あのう、先輩」
「ん?」
「その……」

玄関の鍵を閉めるために、
一旦後ろを向いた、彼の背中を見て、
思わず口を突いて出た、言葉は……。



「おかえりなさい」






(Cf.「共に在る理由 -epilogue-」

事故の直後の、長時間の手術の間、
ずっと見つめ続けた冷たい手術室の扉。


今日もこれから、あの時と同じように、
その銀色の扉が鏡夜とハルヒを隔てようとしているけれど、
ハルヒはもうそれを、怖いとは感じていなかった。


だって、あの日とは違う。
今度は私の心はあなたと一緒に居ることができる。

あなたのその手の中の、小さな銀色の鍵に形を変えて。

「じゃあ、行ってくる」

すっかり落ち着きを取り戻した彼の声を聞いて、
ハルヒはやっと安心して手を離すと、力強く彼を送り出した。


「はい。行ってらっしゃい」





言った本人も驚いたのだから、
言われたほうは多分もっと驚いたことだろう。

「……」

振り返った先輩の顔は、
私が「恋人にしてください」って言ってキスをしたときと、
同じくらい、奇妙な表情になっていた。

まさか、こんな言葉が出てくるなんて、
全然思いもしてなかったけれど、
無意識に口について出た言葉は、
多分、これしかありえない、といえるくらい、
ごくごく自然な、心からの言葉だったと思う。

意表を突かれた言葉に、
ぼんやり呆けた様子だった鏡夜は、
すぐにはっと我に返って、その表情を笑顔に変えると、



「ただいま、ハルヒ」



そういって、こちらに近づくと、
おでこに一度キスをしてくれた。

* * *

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