『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
三つめの宝物 -23- (鏡夜)
鏡夜の誕生日当日。昼時に会社にやってきた蘭花から、
鏡夜は写真の入った封筒を、誕生日プレゼントとして渡されて……。
* * *
予想外の誕生日プレゼントを、
予想外の人物からもらうことになった、24回目の誕生日の夜。
「鏡夜様。それでは私は明日から休暇をいただきますが、
くれぐれも、どこかにお出かけになるときには、
相島か堀田をお呼びになってください」
仕事は全て片付いて、彼女の家に向かう車中、
何度目になるか分からない忠告を受けて、
鏡夜はうんざりした顔で目を細め、
運転席の橘の背中を見やった。
「橘。お前もいい加減しつこいぞ。
何度同じことを言えば気が済むんだ」
「こればかりは何度でも言わせていただきます」
「……」
鏡夜の交通事故を境に、更に過保護に磨きがかかった橘の様子に、
鏡夜は思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「まあ、ハルヒは外に出かけることが好きなタイプでもないし、
仮に出かけるとしても近所のスーパーくらいだろう」
それに、鏡夜自身だって、
本来はパソコンの前で夜更かしするインドア派だから、
出歩くことがそれほど好きというわけでもない。
高校時代に誰かさんに連れ回されたお陰で、
日本全国の観光名所や名物には、
やたら詳しくはなってしまったが、
自分にとってのメリットが絡まない限り、
積極的に外に出ることは、むしろ『嫌い』というほうがいいだろう。
それでも環の所為で、
半ば強制的に調べることになってしまった旅行の知識が、
今、鳳グループのリゾート部門を引き受けている自分にとってみれば、
かなり役に立つものになっている。
当時、環が、それほど深いことを、
考えていたとはおよそ思えないが、
何も計算なくして、結局、自分のその後につながるような経験を、
知らず知らずにさせてもらえたということを、
仕事をする中で思い知る度に、なんだか少し口惜しい。
「スーパーというと……やはり、
徒歩でお出かけになるのでしょうか?」
「まあ、駅前のスーパーだろうから、当然そうなるだろうな」
「それはいけません! やはり、私、休日を返上して……」
「そうはいっても、今度の連休は家族で旅行に行くと言ってなかったのか?」
「ですが、やはり外を徒歩で出歩かれるとなると、
相島と堀田だけでは不安が残ります。
どうしてもとおっしゃるなら、
やはりプライベートポリスを藤岡様のマンション周囲に増員して……」
「大袈裟なことはハルヒが嫌がるからやめろ」
ただでさえ、そういうことには、
細心の注意を払っていると言うのに。
「しかし、折角退院なさったのに、また同じようなことがあったら、
私は鳳家にも藤岡様にも合わせる顔がございません」
スーパーに行くだけで大袈裟な、とは思ったが、
このままだと橘は本当に家族旅行を取りやめてしまいそうだ。
「……わかったわかった。
出かけるときには、どんなに近場でも、
ちゃんと車を呼んで出かけることにしよう。
それなら、お前も安心だろう?」
鏡夜は仕方なく、橘の言を聞きいれることにした。
「ハルヒも高級車でスーパーに乗りつけるのは嫌がるだろうからな。
まあ、この連休はゆっくりハルヒの家で過ごすことになると思うぞ」
「そうしていただけると、私も安心してお休みをいただけます」
ようやく、心配性の橘も納得してくれたようだ。
信号が赤に変わって、
車は交差点の一番前に止まった。
この信号を左折して、
大通りを10分ほど進めば彼女のマンションに到着する。
もうすぐ着く、とメールで連絡を入れておこうと、
鏡夜は携帯を取り出して画面を開いた。
「こんなことをハルヒに話したら、
うちのスタッフの過保護さを笑われそうだな」
メールを打ちながら、独り言のつもりで呟いた言葉に、
「そうはおっしゃいますが、鏡夜様」
橘がすかさず口を挟んできた。
「まだ例の調査も終わっておりませんので、
軽率な行動だけはくれぐれも」
「……だが、それは……」
『あと20分ほどで着く』と、短いメールを打ち終わり、
送信されたことを確認して携帯を閉じると、
鏡夜は顔を上げ、少し不満そうな顔つきで首を傾げた。
「それについては、
今のところ変わった事実は出てきていなかっただろう?
それとも何か動きでもあったのか?」
「いえ。今までご報告した以上に新しい情報は入ってきておりません。
しかし 敬雄様は 偶然にしては少々、
出来すぎではないかとお考えのご様子です」
「ふうん……少し気の回しすぎだとも思うがな……」
「敬雄様は、心配しておられるのですよ。鏡夜様を」
「……心配?」
数ヶ月前、交通事故に遭った後、
初めての長期入院生活を経験する中で、
鏡夜にとって意外だったのは、
仕事に追われ忙しいはずの父親が、
かなり頻繁に見舞いにきてくれたことだった。
もちろん、自分自身、父から嫌われているとは思っていないし、
親子関係はまあまあ円満なほうだと思うが、
父親が、地位とか名誉とか世間体とか、
そういった外面以外のことで、
自分のことを気にかけてくれるとも思っていなかったので、
見舞いに訪れる父の様子に、鏡夜は密かに驚きを覚えていたのだ。
「あの人にも、そういうところがあるものか?」
「それは親にとって子供は何より大事な宝ですからね。当然かと思われますが」
「当然ねえ……」
経済的損得が絡まない、肉親の情なんてものは、
うちの父親にはおよそありえない気もしていたが。
「鏡夜様も父親になれば、お分かりなると思いますよ」
自身が子持ちであるからか、
橘は、いつになく自信たっぷりに頷いている。
上から目線で物を言われている気がして、
その態度は少々気には触ったが、
人の親になるということは、
自分には全く経験の無いことだから、
そういうものか、と頷くしかない。
「鏡夜様。それからもう一つ申し上げたいことがあるのですが」
「まだ、何か心配があるのか?」
「いえ、その、藤岡様の……ハルヒ様のお父上のことで」
「蘭花さんがどうした?」
「鏡夜様からお伝えしづらいのであれば、
私の方から藤岡様に、
もう会社のほうにはいらっしゃらないように、
申し伝えても構いませんが、いかがいたしましょう?」
今日の昼に、突然会社を訪れた蘭花に対して、
橘は終始不満そうな態度を見せていた。
蘭花との約束のことを公にするつもりは全くないが、
少なくとも橘にだけは、本当の事情を説明しておかなければならないと、
鏡夜は思っていたのだが、
何んだかんだ、取引先を回ってバタバタとしていたために、
すっかりタイミングを逃してしまっていた。
「ああ、あれはいいんだよ。
なにしろ俺は『蘭花さんの恋人』だからな」
「は? 鏡夜様が、藤岡様の……こ、恋人?」
橘の素っ頓狂な返事と同時に信号が変わり、
慌てて橘はアクセルを踏み、ハンドルを左へ切った。
「くくく。そう慌てるな。実は、蘭花さんに頼んでいることがあってね」
動きだした車の中で、
慌てふためく橘の様子に笑顔を浮かべた鏡夜は、
彼女の家に向かう道すがら、
橘に詳しい事情を説明しておくことにした。
* * *
続