『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
三つめの宝物 -2- (鏡夜)
誕生日前日。退院直後で体調が万全でない鏡夜は、その夜に入っていた予定をキャンセルして、
早めに帰宅しようと考えていた。そこへ、電話がかかってきて……。
* * *
珍しく、ハルヒの父、蘭花から電話がかかってきたので、
鏡夜は驚いてしまって、咄嗟に腕時計を確認した。
時刻は午後二時四十分。
「蘭花さんどうなさったんですか、こんな時間に。お仕事の方は?」
『ん~、もうちょっとしたら家を出るところよ。
私のことより、鏡夜君、一週間前に退院したばかりでしょう?
体調の方は大丈夫なの?』
「まだ本調子とは行きませんけれど、なんとかやってますよ」
『あまり無理はしないでよね……な~んて言っても鏡夜君には無駄かしら。
鏡夜君は根を詰めるタイプだもんね。ハルヒと一緒で』
「ハルヒと……ハルヒさんと同じかどうかは分かりませんが、
まあ、自分が今できることは、精一杯やりたいですから」
『ふうん。相変わらず優等生な発言ねえ』
何だろう?
明らさまに責められているわけではないのだが、
蘭花の言葉の端々が、どことなく棘棘しているように感じて、
鏡夜は首を傾げた。
「あの、蘭花さんそれで、ご用件は?」
数ヶ月前に、鏡夜が「ハルヒと別れる」という選択をした時には、
蘭花を本気で怒らせてしまったこともあったが、
ハルヒと一緒にいると決めた今、
蘭花を不快にさせる理由は、もう無いはずだ。
『あ、そうそう、それなんだけど。鏡夜君、ハルヒから聞いたわよ?
明日は鏡夜君のお誕生日なんですって?』
「ええ、そうですが。それで、わざわざお電話くださったんですか?」
『……だって、今年の11月23日は金曜日だから週末三連休になるじゃない?
だからこの週末は、ハルヒが家に帰ってくるんじゃないかと思って、
ハルヒにさっき電話したのよ。
そしたら前日が鏡夜君の誕生日だって言うじゃない?
父親としては悔しかったわ。
なんでも「明日は二人で一緒に過ごす」んですって?』
「予定ではそのつもりですが」
なるほど……そういうことか。
蘭花の機嫌が悪い理由がやっと理解できて、
鏡夜は、電話の向こうの蘭花に失礼にならないよう、
笑い声を堪えつつ、口元を緩めた。
「折角の連休に、ハルヒさんをお借りしてしまって申し訳ありません」
やはり、彼女の父である蘭花には、
きっちり礼儀は尽くしておくべきだろう。
鏡夜が素直に謝ると、蘭花の大きな溜息が帰ってきた。
『はあ。そうやって娘は「他人の物」になっていくのねえ。
父親としては寂しい限りだわ』
「……すみません」
娘を取られる父親の気持ちは、さぞ寂しいものだろうと、
実感はできなくても想像に難くない。
『ま、そのことはいいんだけど、実は、あたしの用事はそのことじゃないのよ。
……まあ、少しは関係するのかもしれないけれど』
「え?」
ねちねちと嫌みでも続けられるのかと思いきや、
意外な発言に驚く鏡夜に、蘭花の笑い声が聞こえて来る。
『うふふ。ねえ、きょ、お、や、君?』
蘭花の声が突然、「猫撫で声」とでも言えばいいだろうか、
甘ったるい、客に甘える時の様なものに変わった。
「はい、なんで……しょう……か?」
優しく柔らかい声のはずなのに、
何故か寒気を覚えるような、異様な迫力を感じて、
当惑する鏡夜の耳に、蘭花の台詞が届く。
『君。何かあたしに、「し忘れてること」なあい?」
* * *
続