『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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* * *
「さ、湿っぽい話は終わりにして、ガンガン飲むわよー!!」
蘭花の号令と共に、酒のボトルが次々と席に運ばれてくる。
「さあ、鏡夜くん、ぐいっとぐいっと!」
「は、はあ……」
まだまだ余裕がありそうな鏡夜を、
明らかに潰しにかかろうと、
蘭花が異常なほどのハイペースで酒を勧めてくる。
鏡夜が少しでもグラスを空けようものなら、
数秒後には別の酒が運ばれてくるのだ。
まったくキリがない。
「ちょ、ちょっと、蘭花さん。流石にペース早すぎなんじゃ……?」
向かいの席の馨は、その様子にすっかり呆れ顔だ。
「そんなことないわよ。鏡夜君は私より全然若いんだし、
もっともっとイケるでしょー?
光君も馨君も遠慮せず、もっとじゃんじゃん飲んでいいのよ?」
「……あははは、僕らは別に……あ!」
蘭花の言葉に苦笑いをしながら首を振っていた馨だったが、
突然、ふっと顔を下に向けると、
ジャケットの内ポケットから携帯電話を取り出し、画面を確認しはじめた。
「ごめん、何度か着信入ってたみたい。
鏡夜先輩、ここじゃちょっと騒がしいから、外行ってくる」
「そんなことを言って、馨。
お前だけ逃げる気じゃないだろうな?」
「や、やだなあ……そんなことしなっいって。
人質に光置いていくし。美鈴っち、光をよろしく!」
「おっけ~。あたしにまかせといて♪」
「ちょっと待てよ、馨!
外に行くなら俺も連れてけって……うあっ!」
馨に付いていこうとした光を、
美鈴の太い腕がぐいっとひっぱり戻す。
「光君は、あたしと一緒にお酒飲みながら、馨君を待ってましょうね~♪」
「か、馨ぅ!!」
ごめんごめんと謝りながら、馨が席を外した後、
一人で美鈴の相手をしなくてはならなくなって、
光の飲むペースが、少々速くなったような気がする。
とはいえ、ただただ蘭花の攻撃に、耐え続けるしかない鏡夜には、
光の様子を構ってやれる余裕は全く無かったのだが。
ちょっと電話をしに出ていった割には、
馨はなかなか戻ってこなかった。
その間、際限なく強制的に飲まされ続けたせいで、
流石に気分が悪くなってきたな……と考えていた矢先。
「どーして、きょーやせんぱい、らったろ!!」
突然、光が大声を出して鏡夜に絡んできた。
「……光?」
「きょーやせんぱいらんて……なりかんがえれるら、
ぜんっぜん、わかんらいし……まおうらし……はらぐろいし、
ぜっらいおれろほーが……いいおとこらのに……」
なんと、鏡夜よりも早く、
光のほうが完全にできあがってしまったらしい。
「お……おい、光? ……お前……かなり酔ってないか?」
「なにいっれるんら? おれは、よっれらんれないろ!!!」
頻りに「酔ってない」と繰り返す光だったが、
目は座ってるし、全く呂律が回っていないし、
明らかに悪酔いしてしまっている。
「おれだっれ……はるひろこと……ずっとずっとすきらったのに、
ろーして……きょーやせんぱいが……えらばれるんらよ」
鏡夜と光は、細長いテーブルを挟んで、
向かい合わせに座っていたのだが、
光は、舌足らずな様子で不満を言いながら、
美鈴の手を振り払うと、
コの字型にテービルをぐるりと囲んでいるソファーを伝って、
鏡夜の隣にふらふらと回り込んできた。
「れっらい、はるひのこと、いつもみたいに、
なんか……うまいこといっれ……だましたんら。
ひどい、ひどいよ……うわあああああん」
ついに、光は鏡夜の肩にしがみついて、
わーわーと大きな声で泣き始めた。
「ごめーん、遅くなっちゃった……って、光、酔っ払っちゃった?」
アルコールが回り始めてきた所為で曖昧な感覚ではあるが、
馨は優に三十分以上席を外していたと思う。
ようやく電話を終えて、席に帰ってきた馨は、
光の様子をみてやれやれと溜息をついた。
「……知らなかったが、光は『泣き上戸』だったのか?」
「そう……みたいだね。
光がこんなにお酒が弱いなんて、僕も知らなかったけど。
ごめん、美鈴っち、水もらえる?
……ほら、光、ちょっとこっちきて、これ飲みなよ」
「うう。かおるぅ~。おれにはかおるだけらよ~」
馨が帰ってきたことに気付いた光は、
再びソファーの上を這うようにして馨の側に戻ると、
今度は馨に抱きついて、しくしくと泣き始めた。
「……それにしてもいけ好かないわね。
鏡夜君、全然お酒強いんじゃない。
もうちょっと乱れてくれれば良かったのに」
未だに、表向き冷静な様子の鏡夜を見て、
蘭花はとても悔しがっている。
だが、光のように無様に酔っ払って、
理性を飛ばしてしまうようなことだけは、絶対にお断りだった。
恥も理性も全て捨てて、自分の本心を曝け出す。
そんな格好悪い姿を見せるのは『彼女』の前だけで十分だ。
鏡夜は蘭花に気付かれないように、
ちらっと、腕時計で時間を確認する。
店に来たのは20時過ぎだったと記憶しているが、
時計の針は間もなく23時になろうとしていた。
「……蘭花さん。流石に飲みすぎのような気がしますし、
そろそろ勘弁してもらえませんか?」
「そんなこと言っちゃって、まだ余裕がありそうじゃなーい。
まだ11時よ? お店の営業時間も終わってないのに、もう帰るつもり?」
「ですが、店に来てから二時間ほど経ちますし、
もう、充分お付き合いしたかと思うんですが……」
「いーえ! 全然足りないわよ。ほら、もう一杯!
今度はウイスキーで勝負よ! ロックにする? それとも水割り?」
父親の自棄酒に付き合う、という趣旨が、
完全に『飲み比べ』に変わってしまっているようだ。
「……では、ストレートで」
アルコールが入った所為か、若干暑くなってきた気がして、
ネクタイを緩めながら、鏡夜は渋々頷いた。
「あら、なかなか通な飲み方をするのね」
蘭花はウイスキーを、
グラスの底から指二本分の高さまで注いで鏡夜に手渡すと、
もう一つ別のグラスにミネラルウォーターを注いで、
鏡夜の前に静かに置いた。
「味と香りが薄まるのが嫌なんですよ。
まあ……父からの受け売りですけどね」
* * *
続