『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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三つめの宝物 -11- (鏡夜)
娘を奪われた父親の、自棄酒に付き合えというのが、鏡夜に対する至上命令。
蘭花は、店のメニューを全制覇するつもりだと言い出して……。
* * *
このバーに置いてあるアルコールメニューを、全種類制覇する!
と、蘭花が宣言した途端、
今まで美鈴のテンションに引き気味だった光と馨が、
手の平を返したように、美鈴に向かってちやほやと話しかけ始めた。
「美鈴っち、このワイン、すっごい美味しいじゃん!」
「さすが、美鈴っちが選んだだけあるね」
「ほんと~!? 美鈴、う、れ、し、い~♪」
蘭花の攻撃の余波を食らわないように、
二人は明らさまに美鈴を盾に使っているわけなのだが、
メニューを膝の上で広げていた蘭花は、
特にそれを突っ込むこともなく、光と馨に優しく声をかけた。
「あら、光君と馨君はいいのよ? 美鈴のお客様なんだから。
だけど、鏡夜君はあたしのお客様なんだから、
今日は、ちゃ~んと、最後まで、きっちり、付き合ってもらいますからね?
さぁてと。まず何から行こうかしら」
「蘭花さん、あの」
「なあに?」
「僕に拒否権はないのは分かりましたけど、選択権も無しですか?」
鏡夜のことを、曲がりなりにも『客』というからには、
こういうドリンクメニューは、
客である自分が決めるべきものではないだろうか?
「当、然、よ!」
しかし、メニューに視線を落としたままの蘭花に、
きっぱり言い切られてしまった。
「そう……ですか」
どうやら、ハルヒのことを泣かせたこと、の落とし前をつけるために、
今日は、蘭花の気の済むまで、
蘭花の指示通りに酒に付き合うしかないようだ。
これは、大変なことになったな……。
渋い表情の鏡夜の横で、
蘭花は嬉々とした様子でメニューを選んでいる。
「そういえば、鏡夜君ってお酒は強いの?」
「僕ですか?」
立場上、社交的なパーティーなどに呼ばれる機会も多いため、
そういう場でワインが出された時などに、
原産地を言い当てられる程度の教養はあったし、
以前は、自宅で多少飲むこともあった。
「特に好んで飲むというほどではありませんが、
仕事上の付き合いでは、それなりに嗜みますので、
まあ、一般的な強さだとは思ってますが……」
とはいえ、入院していた数ヶ月間はもちろん、
退院して一週間ほど経つが、
未だ一滴もアルコール類は口にしていないので、不安は大きい。
それに、こういう夜の商売をしている蘭花のほうが、
どう楽観的に見積もっても、自分より酒には強いだろう。
自分は果たして無事に家に帰れるのだろうか?
「じゃ、さっそく、日本酒から行こうかしら~♪」
「……蘭花さん、いきなり日本酒ですか?」
「何よ。あたしのチョイスに何か問題があって?」
「い、いえ……喜んで頂きます」
飲み始めから、アルコール度数の強い日本酒を勧めてくるあたり、
こちらを悪酔いさせたいという意図が見え見えではあったが、
しかし、今日は蘭花に詫びを入れるために、
呼び出しに応じたわけだから、
蘭花の一方的な攻撃から、逃げるわけにはいかない。
蘭花が怒っているのは全ては自分の責任。
彼女に無理矢理告白して、
一緒にいてくれといった事も。
すれ違う心に耐えかねて、
自分から別れるといった事も。
閉ざされた扉の奥で一人、
彼女を泣かせてしまった事も。
彼女をそこまで悲しませたにも関わらず、
けれども、どうしても、
彼女への想いは消せなくて、彼女を手離せなかった事も。
全ては未熟な自分の責任。
だから、どんなに理不尽な要求であっても、
今日は、蘭花の気の済むまで、付き合うしかない。
自分はこれから、蘭花にとって一番大切な『宝物』を、
譲ってもらおうと思っているのだから。
そのためには、詫びを入れるのとは別に、
どうしても、蘭花にはっきり伝えておかなければならないことがある。
「蘭花さん」
勧められるまま、ニ、三杯、グラスを空にしてから、
鏡夜は話を切り出すことにした。
「酔いが回る前に、一つ、お願いしておきたいことがあるんですが」
* * *
続