『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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三つめの宝物 -10- (鏡夜)
新宿の某歓楽街をイメージして執筆。あんまり奥の方は行ったことないんですけど、
表通りは一般人でも普通に出入りできる繁華街、という印象……大人になったら行ってみてください(笑)。
* * *
バーの一番奥にあるボックス席に案内された鏡夜、光、馨の三人は、
鏡夜の隣に蘭花、向かい側の席には美鈴、
美鈴の両隣に光と馨が座るという位置で席につくことになった。
「今日は『両手に花』ね~。爽やか兄弟に囲まれて、美鈴っち、し、あ、わ、せ♪」
美鈴は両サイドの二人と腕を組んで上機嫌の様子だ。
「な、なんで美鈴っちが、ずっといるわけ?」
蒼ざめている光に、美鈴は軽やかに答えてみせる。
「だって、今日はあたしも、一緒にお相手させていただくことになってるから。
光君、馨君、そして鏡夜君。よ、ろ、し、く、ね♪」
「えっ!?」
そんな向かいの席の様子を茫然と見つめながら、
鏡夜は小声で蘭花に問いかけた。
「蘭花さん、これは一体?」
「あたしは『友達を呼んでもいい』とは言ったけど、
あたしが『一人で接待する』とも言って無いわよ?
鏡夜君がこの店に、あたしと関わりの無い人間を連れてくるわけないし、
……で、光邦君は今、海外にいるでしょ?
光邦君がいないのに崇君を一人を助っ人で呼ぶとは思えないから、
鏡夜君が誰かを連れてくるなら、きっと光君と馨君だろうって予想してたの。
三対一じゃ流石に不公平じゃない?
だからこっちもヘルプを頼んどいたのよ。ねえ、美鈴?」
「そうよう。だから今日は皆でじゃんじゃん飲んで、思いっきり騒ぎましょうね!」
光と馨は、美鈴の手から逃れようともがいていたが、
いかに見た目は『女性』でも、中身は『男性』の力で、
がっちり腕を固められているために、それもままならない。
光と馨は、ぴくぴくと頬を痙攣させながら、鏡夜に助けを求めてきた。
「鏡夜先輩、俺こんなの聞いて無いよ……」
「そうだよ。いくら僕らが鏡夜先輩に借りがあるからって、
鏡夜先輩が接待されるのをフォローするだけじゃなくて、
僕らまでがっつり接待されるなんて……」
光と馨がぶつぶつ不満を口にすると、
二人の真ん中に座っていた美鈴が、
突然うわあっと叫んで、二人から腕を離すと、自分の顔を両手で覆った。
「久しぶりのあたしとの再会を、
光君も馨君も喜んでくれないなんて……美鈴っち、悲しい!」
美鈴はしくしくと大袈裟に泣き真似する。
「あ、あのね。美鈴っち、いきなりそんなこと言わなくても……」
「そ、そうそう。僕らも美鈴っちに会えてすごく嬉しいよ?」
「そんな言葉だけじゃ、美鈴、信じられない~」
あまりのテンションの急落ぶりに、
双子が左右から必死にフォローするのだが、
美鈴は俯いて両手で顔を覆い、首を横に振って泣き続けるばかり。
「たく……一体俺達にどうしろっていうんだよ」
早くも諦めモードの光と、
「ね、美鈴っち、そんなことないからさ。泣き止んでよ」
なんとか美鈴を宥めようと頑張っている馨を、
向かいの席で蘭花は口を挟むこともなく涼しい顔で見守っている。
「それじゃあ……美鈴のお願い聞いてくれる?」
ようやく泣き声は止めたものの、未だ顔は覆ったまま、
指の隙間を開けて美鈴がちらっと馨を見上げた。
「お願いって?」
「美鈴、泣いたらなんだかすっごく喉が渇いちゃった。
何かお飲み物頂いてもいいかしらぁ?」
「そんなの、好きに飲めばいいじゃん」
「ま、折角だから、俺も何か飲もうかな。
美鈴っち、何が置いてあるの?」
「えっとね。うちは、日本酒、焼酎、ウイスキー、
ワイン、スパークリングワイン、カクテル、ビールなどなど、
各種取り揃えてるわよ。えっと、ドリンクメニューはこっちに……」
「…………おい。光、馨」
美鈴の話術に完全に飲まれている光と馨を見かねて、
鏡夜は向かい側から一言忠告をしてやることにした。
「念のため言っておくが、こういう店で接待の相手が飲む酒は、全部客持ちだからな」
「え、そうなの?」
「あ~ら、鏡夜君。君は、あまりこういう夜のお店は来ないと思っていたのに、
なかなか博識なのね……もしかして本当は遊び慣れてるとか?」
蘭花は、いかにも疑わしい、と言わんばかりに、
薄目になって顔をしかめ、ずずっと鏡夜のほうに身体を寄せると、
鏡夜の肩にもたれかかって低い声で囁いた。
「まさか! こういうところは初めてですよ」
「本当に?」
遊び人にハルヒを渡すわけにはいかないとでも思っているのか、
蘭花の視線は怖いくらいに真剣だ。
「単なる『一般常識』です! 僕も一応今は、サービス業に携わってますし、
それから今日蘭花さんにお招き頂いたので、ちょっと予習をしただけで……」
「ふうん。なるほど。ま、信じておいてあげましょうか。
あ、そうそう、馨君。うちには最高でも、
一本十数万円程度のボトルしか置いて無いし、
サービス料も適正価格しかいただかないから、
心配することはないと思うわよ。馨達にとってはそれくらいお安いものでしょ?」
「あ、そんなものなんだ?
一体いくらふっかけられるんだろうかって心配したけど、
その程度なら問題ないか」
この台詞を聞いて、美鈴は嬉しそうに馨に抱きついた。
「きゃー。ありがとう~馨君! じゃあ、美鈴はスパークリングワインが飲みたいから、
こちらボトルで入れて頂いてもい~い?
これは今月出たばかりの冬の新作ワインで、
ヨーグルトフレーバーでとても爽やかで美味しいの」
「ちょ、ちょっと美鈴っち、分かったから離してってば!」
「……まあ、美鈴っちの選んだのでいいんじゃない?
俺も馨も、安いお酒の味は全然分かんないから」
なんとか美鈴を自分から引き離そうとしている馨と、
そんな馨の悶える様子を苦笑いで見つめながら、
自分にも飛び掛られてはたまらないと、
美鈴と身体一つ分、間を空けるように座り直す光。
常日頃、一本数十万するような、ワインを飲んでいる身としては、
この店程度のメニューで支払いができなくなる、ということはないだろうが、
それにしても、来店して数分立たないうちに、
ボトルまで巻き上げ……いや、注文させてしまう話術には、純粋に感心する。
「さて。光君と馨君は美鈴に任せて、
あたし達は二人でゆっくり飲み明かしましょうねえ」
ボックス席についてからというもの、
蘭花は通路側から、鏡夜を奥に押し込めるように、
ぴたりと膝をくっつけて座ってきたので、
なんとなく妙な気分になるというか、
この状況にどう対応したらいいか分からなくて、
鏡夜はほとほと困り果てていた。
「あの、蘭花さん。そろそろ今日呼び出した訳を教えてくれませんか?
僕をこんなところに呼び出して、
お詫びって、僕は一体何をしたらよろしいんですか」
とりあえず、本題に入ることで、
一刻も早くこの場から逃げ出したいと鏡夜は考えていたのだが、
「『こんなところ』って、ちょっと言ってくれるじゃない。
一応、うちの店は、そんじょそこらのオカマバーとは違うのよ。
常連さんの紹介がないと入れない一見さんお断りの店なんだから。
その上から目線の発言、ムカつくわねえ」
「す、すみません」
鏡夜の質問は、蘭花のプライドをちくりと刺激してしまったらしい。
「ま、あれよ。今日ここに呼んだのは、
鏡夜君の退院祝いと一日早い誕生日祝いを兼ねて、
ぱーっと楽しんでもらおうと思ったのよ」
「僕の退院祝いと誕生日祝いのため、だったんですか」
もしかして。
『ハルヒを泣かせた落とし前をつけろ』
というのはただの脅しで、
蘭花さんは、本当はこちらを気遣って、
今日のこの場を設けてくれた、ということだろうか?
…と、若干警戒心をを解きつつあった鏡夜の油断していた耳に、
「そういうことで、今日は『朝まで』飲み明かすわよ!」
続く蘭花の言葉がガツンと再び圧し掛かる。
「え……朝までって……、こういう店の24時以降の営業は、
風営法で禁止されているはずでは?」
「あら。流石は鏡夜君。そういうこともしっかり押さえているわけね。
もちろんお店の営業時間は鏡夜君の言う通りよ。
だから、24時にお店を閉めた後は、
あくまで友人同士のプライベートな飲み会として、この場所を借りて、
朝まであたしに付き合ってもらう、ってことになるわね」
「あ、あの、蘭花さん? ちょっと待ってください。
その、蘭花さんのお酒にお付き合いしたいのはやまやまですが、
僕は明日仕事があって……」
「鏡夜君?」
ぴくっと眉の端をあげた蘭花は、
鏡夜の腕を掴み、自分の腕を絡めると、
鏡夜に顔を近づけて、間近でぎろりと睨みつけた。
「いいこと? 君は、あたしの大事な大事な一人娘を、
あんなにも悲しませて、そのくせ結局最後には、
見事にあの娘を奪っていってくれたんだから、
せめてものお詫びのしるしとして、
娘を奪われた父親の自棄酒に、付き合う義務があるんじゃないかしら?」
「自棄……酒……ですか?」
「そうよ! それにね。あたし前から一度やってみたかったことがあって」
「何をですか?」
「これよ!」
蘭花は鏡夜に絡めていた腕を外すと、
テーブルの上のドリンクメニューを手に取って、
メニュー冊子を開き、鏡夜の面前にその紙面をばっと示した。
「うちのドリンクメニューの全、制、覇♪」
恐るべき蘭花の宣言は、
向かいの席の光も馨の耳にも届いたようで、
横ではしゃぐ美鈴の言葉はそっちのけで、
二人は蘭花と鏡夜の様子を窺っている。
「…………は!?」
「も、ち、ろ、ん、鏡夜君にも、
全種類のお酒をあたしと一緒に付き合ってもらうわよ?」
「…………それはつまり……あれですか……、
これから、この店のメニューにある酒を全部、僕に飲め……と?」
「ピンポーン。大正解!!」
メニューを膝の上に置き、パチパチと拍手をして喜ぶ蘭花。
「ソフトドリンクを除いたカクテルから日本酒まで全部よ」
「あの、蘭花さん……」
「鏡夜君。ま、さ、か、あたしのお酌を断るなんて野暮なこと、
し、な、い、わ、よ、ねえ?」
「……」
メニューの欄にずらりと並ぶ酒の種類をみて、
それを全て飲んだ自分の姿を想像した鏡夜は、
まだ一滴もアルコールを口にしていないのに、
早くも気分が悪くなってきてしまっていた。
「うふふ。今までに鏡夜君の酔った姿なんて、
一度も見たことないけど、
これだけのお酒を飲んだ後で、君がどうなっちゃうか見ものだわ~」
* * *
続