忍者ブログ

『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

Suriya'n-Fantasy-World

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


春の光に風馨る -15-

春の光に風馨る -15- (光&馨)

ずっと気になっていた、蘭花からの電話の件も鏡夜に謝ることができて、
ようやくいつもの調子に戻った光と馨は、見舞いを終えて病院を後にした……。


* * *

鳳総合病院から自宅に帰る車内で、
鏡夜先輩と二人きりになった後に話したことを馨に報告すると、
馨は、あ~やっぱり、と小さく頷いた。

「僕が心配してた通りだったってわけね」
「別に意味なく喧嘩したわけじゃないよ?
 なんか俺も鏡夜先輩も、簡単に引くに引けなかったっていう感じでさ」
「まあ、光も鏡夜先輩も性格が『攻め』だからねえ」

そんなことを言って僕をからかう馨は、
なんだか洗顔後みたいにさっぱりした表情をしている。

花瓶を取りに行く間に、
馨もハルヒからこれまでの経緯を一通り聞いたと言っていた。

僕だけじゃない。馨だってハルヒのことが大好きだったはずだ。
なのに、馨はもうはっきりと、
自分の心に決着をつけているみたいに見えた。

僕だけ、置いてかれちゃったのかな。

今日、鏡夜先輩の気持ちを知って、
ハルヒと鏡夜先輩の二人が一緒にいることも、
一応、納得はできたけれど、
その心の裏側にぴったりと張り付くように、
どこか「自分は負けてない」って考える気持ちも残っていた。

「俺には……殿のことを『忘れなくていいから傍にいろ』なんて、
 ハルヒに多分言えないと思う。
 けど、本当に俺は鏡夜先輩に一生敵わないのかなあ」
「う~ん、どうだろう……?
 今はあの二人の間に割って入れる隙はないかもしれないけど」

夕暮れが闇の中に消えていくぼんやりとした空の色を、
頬杖を付いて車窓から見上げていた馨は、
僕の視線に気づいて、にっと微笑んだ。

「まあ、光がすっきりしないところが残ってるなら、
 隙を待ってもいいんじゃない?
 僕はハルヒも鏡夜先輩も好きだけど、一番大事なのは光だから、
 納得いくまで、僕は光をちゃんと応援してるからね」
「馨……」

* * *

それから、僕と馨は時には一緒に時には別々に、
仕事の合間に鏡夜先輩のお見舞いに通った。

鏡夜先輩の怪我は順調に快方に向かっていて、
たとえ、ハルヒについてライバル関係だといっても、
(状況的には鏡夜先輩のほうが数段上手なんだけど)
鏡夜先輩が元気になってくれることは、
そういう気持ちとは無関係に素直に嬉しかった。

そして、事故から約一ヶ月後、
鏡夜先輩の両目の手術がいよいよ行われることになった。

手術当日にはどうしても仕事の調整ができなくて、
病院にいけなかった僕は、
手術の翌日の夜、ハルヒに電話を入れていた。

「あーハルヒ? 俺、俺」
『……オレオレ詐欺?
「って、お前、いきなり酷くねえ?
『分かってるよ、光でしょ? どうしたの?』

ハルヒが冗談を言えるくらい余裕があるのを考えれば、
手術の結果はなんとなく予想がついた。

「鏡夜先輩の様子どう? 昨日、鏡夜先輩の目の手術だったんだろ?」
『うん。手術自体は成功したって先生が言ってた。
 でも、どれくらい視力が戻るかは、
 実際包帯をとって見ないとわからないみたい。来週には取れるって』
「そっか。ちゃんと治ってるといいね」
『そうだね』

ハルヒと話し始めると、ついからかいたくなって、
結局はふざけた中身の無い会話で終わってしまうのが、
いつもの僕の態度だったけど、
今日はなんとか真面目な話を保てている気がする。

「ああ、そういえば……ちょっと話は変わるんだけどさ」

鏡夜先輩の怪我の様子を、
ハルヒから聞いている途中で僕はふと思い出したことがあった。

「ハルヒって弁護士だったよね?」
『何を言ってるの、今更』
「あはは、そうだよね。でさ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
『なあに?』
「あのさー。『共犯』って言葉あるじゃん。これってどういう意味?」

それは、僕が鏡夜先輩のお見舞いに行ったときに、
鏡夜先輩がぽろりと零した言葉だったから、
僕にとっては十分理由のある質問だったんだけど、
ハルヒにとっては、いきなりのことで、
僕が一体何を言い出したのか、さっぱり意味が分からなかったらしい。

『……随分と唐突な質問だね』

ハルヒの呆気に取られた声が返ってくる。

「ごめん、ごめん。別に、大した意味はないんだけどね」
『……ふうん』

ハルヒは僕の質問を変に思っているみたいだったけれど、
律儀にちゃんと答えてくれた。

『えっと「共犯」っていっても、細かい意味は色々あるけど、
 多分一般的にいうなら、
 二人以上の人間が共同して犯罪を実行すること、だよ。
 ……って、何か馨と悪いことしようって企んだりしてないよね?』

ハルヒが変な方向に僕の意図を疑ってきたから、
僕は慌てて否定する。

「いや、そういうことじゃないって。本当にちょっと気になっただけ」
『ふうん、まあそれならいいんだけど……、
 で、普通は、人って自分の行動にしか責任ってとらないでしょ?
 でも共犯だとそれが違うのね』
「何が違うの?」
『ええと……一部行為の全部責任の原則っていって……、
 どういうことかっていうと、自分以外の共犯者がしたことも、
 自分自身がしたこととして、責任をとるってことになるんだよね』

鏡夜先輩は、殿に対しては、
ハルヒと自分は「共犯」みたいなものだって言った。

「それってつまり、他人がやったことでも自分のこととして考える、ってこと?」

鏡夜先輩は、ハルヒと同じ痛みを抱えてるとも言ってた。

『まあ、簡単にいうとそんな感じかな?』

鏡夜先輩が、共犯だって表現したのは。
ハルヒと一緒にいることが殿に対して後ろめたいとか、
そういうことじゃなくて……、
ハルヒの心の傷を、鏡夜先輩が、
自分のものとして理解できるっていう意味だったのかな……?

『もちろん逆も成り立つよ』
「逆?」
『うん。自分がしたことは共犯の相手自身がしたことになって、
 そして、お互いにそうなることに認識がある。
 意思の連絡があるんだから、そういう意味では他人とはいえないと思うけど、
 これが「共犯」ってことかな』

相手の痛みを自分のものって考える。
そして、そのことを、互いに受け入れている。
それが鏡夜先輩の意味している『共犯』って関係だとしたら。

ハルヒは、どうなんだろう?

鏡夜先輩の心の痛みを、ハルヒ自身の痛みとして、
同じように感じているんだろうか?

「……そう、なんだ……」

一年前の春。

僕らは大学を卒業して社会に出て大人になったはずなのに、
まだまだ人の心というものはよく分からない。
こんなに悩むのなんて、学生時代だけだと思ってたのに、
大人になってもこんなにも迷い続けるのはどうしてなんだろう。

『光が法律のこと私に聞くなんて初めてだよね。
 本当に、やましいことはないの? 
 何かあっても、私が弁護できるかは分からないよ?』
「それはないって。大丈夫。ありがと。参考になったよ」
『どういたしまして。で、聞きたいことってそれだけ?』
「あ、いや……実はさ……」

コツコツ。

ハルヒにお礼を言ってから、僕が本題を切りだそうとした時、
僕の部屋の扉がノックされた。

「あ、ハルヒごめん。ちょっと待ってて」

ノックの主は馨だった。

扉の隙間から電話をしている僕の姿を見て、
馨は一度、扉を閉めようとしたんだけど、
僕は携帯を押さえつつ、馨のことを呼び止めた。

「ごめんね、馨が帰ってきたから」
『大丈夫だけど、光、さっき何か言いかけなかった?』
「あ、そうそう……それで……、
 実は鏡夜先輩の手術のこと聞いて考えたことがあって」

「いいことって?」と言いながら、
僕が座っていたソファーの隣に腰掛けた馨に、
僕はにやりと笑いながらウインクしてみせた。

「それで、ハルヒに一つ頼みがあるんだけど聞いてくれない?」
『犯罪だったら手を貸さないよ?』
だーかーらー違うって! 鏡夜先輩の目の包帯が取れる日に、
 ちょっと、やりたいこと思いついたんだよね」
『やりたいことって?』

馨は、僕が一体何を言い出してるんだろう、って、
不思議そうに首を傾げながら、僕の話を聞いている。

「あのさあ、ハルヒ。お前、まだ『あれ』持ってる?」


* * *

PR
06 2025/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31

プロフィール

HN:
Suriya
性別:
女性

バーコード

<<春の光に風馨る -16 Fin.-  | HOME |  春の光に風馨る -14.5->>
Copyright ©  -- Suriya'n-Fantasy-World --  All Rights Reserved
Designed by CriCri / Top-Photo by Suriya / Background-Photo by 壁紙職人 / Powered by [PR]
/ 忍者ブログ