『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
* * *
がたん。
病室の扉が閉められて、遠ざかっていく光と馨の気配に、
ハルヒはほっと安堵の息をついた。
「鏡夜先輩、疲れませんでした?」
二人が早速かけつけてきてくれたのは嬉しかったのだが、
光も馨も、鏡夜を元気づけようとしているのか、
いつにも増してハイテンションになっていたから、
二人の話相手をして休むことができていなかった、
鏡夜の体調のことが気になっていたからだ。
「……まあ、多少な……。
ところで、あいつら随分長いこと落書きをしていたようだが、
何か変なことを書いていないだろうな?」
「ええと、そうですね……」
恐る恐るハルヒがギブスの表面を見てみると、
そこには文字は一つもなく、
代わりにイラストがいくつか描きこまれていた。
「えっと、クマちゃんとか、ウサちゃんとか、
ポメちゃんとか、ピヨちゃんとか。なぜかハロウィンのカボチャとか。
なんだかとってもファンシーなギブスになってますよ」
「なんでまたそんなイラストを……」
口の端をちょっと歪めながら、
何の嫌がらせだと、ぽつりと呟いた鏡夜に、
ハルヒは小首を傾げてうーんと唸った。
「これは私の想像なんですけど。
多分、皆が傍にいるから頑張れって励ましてるんじゃないですか?
素直じゃないし、二人とも」
「なるほどな……」
「鏡夜先輩、疲れてると思いますし、もう寝てくださいね」
「お前こそ、昨日の夜からずっといるんだろう?
今日はもう家に帰ったらどうだ?」
「そうですね……それじゃあ……『先輩が寝たら帰ります』ね?」
「……ん? どこかで聞いた台詞だな?」
「あの時のお返しですよ」
ハルヒが鏡夜の左手を握ったまま、窓の外を見ると、
空はとても綺麗に、夕焼けの赤一色に染まっていた。
「先輩、帰る前に何かして欲しいことあります?」
「そうだな……そういえば、空調が若干寒いかな。
少し窓を開けてくれないか?」
「あ、わかりました」
夏の残り香がまだ強く残る八月の終わり。
窓を開けた途端に、もっと熱気を感じるかと思いきや、
夕闇の迫る夏の風は意外に心地よく、
窓の隙間から吹き込んでくる空気が、
窓際に置かれた花を小さく揺らしていく。
「いい匂いだな。なんの花だ?」
その風に乗せられて、
花の香りがぱあっと室内に広がってゆく。
「向日葵と霞草と……あとは、この花は、ええっと確か、
サンダーなんとかっていう花で、馨が選んだって言ってましたよ。
黄色くてちっちゃいカワイイ感じの……」
「サンダーソニアか?」
「あ、それです。すっごく綺麗ですよ」
「馨が自分で選んだって?」
「ええ」
「それは、なかなか面白い趣向だな」
「ですよね。向日葵って学校の中庭とかに植えられてるイメージがあるので、
それをお見舞いの花束に使うって珍しいですよね」
「……」
ハルヒの言葉に対して、
鏡夜は何故か、微かに笑みを浮かべている。
「……まあ……そういうことにしておくか……」
最後の言葉がぼんやりとした口調だったのは、
もう彼の意識が夢の中に入りかけていたからだろうか。
何時の間にか鏡夜は静かな寝息を立ててしまっている。
「……先輩、そろそろ帰りますね」
鏡夜がすっかり眠ってしまったことを確認すると、
ハルヒは鏡夜の左手を布団の中に戻してあげて、
音を立てないように慎重に窓を閉めた。
「また、明日来ます」
鏡夜の怪我の状態には、まだ不安なところもあったけれど、
せめて、今はゆっくり休んで良い夢を見て欲しいと、
そんなことを願いながら、ハルヒは静かに病室を後にした。
* * *
続