『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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春の光に風馨る -14- (馨&光)
ずいぶん長い間、光と鏡夜を二人っきりにしてしまっていることを、
若干、不安に感じながら、馨とハルヒが病室へ戻ると……。
* * *
「……で。光は一体、何をしてるわけ?」
病室に戻った僕とハルヒは、
中で繰り広げられている光景に唖然としていた。
「いいところに帰ってきた。ハルヒ、光を止めてくれ」
鏡夜先輩が困ったように溜息をつく横で、
光が鏡夜先輩の右足のギブスに、
縦横無人にボールペンで落書きをしている。
「あー光ばっかりずるい。僕も書く!」
二人が喧嘩してるんじゃないか、なんて心配は、
どうやら僕の杞憂だったみたいだ。
「……って、ペン持ってないや。ハルヒ、なんか持ってない?」
「持ってても貸さないし、光も止めてよね」
「べつにいーじゃん。どうせ後は外すだけなんだしさあ」
光はハルヒに怒られても、
にやにや笑いながら手を止めようとはしなかった。
「仕方ないな。ハルヒが貸してくれないなら、
看護師さんから借りてこようかな。ということで、はいハルヒ、これお願い」
そう言って、僕はひょいっとハルヒに花瓶を押し付けた。
「ちょ、ちょっと馨まで!」
僕がナースステーションから油性ペンを借りて、駆け足で戻ってくると、
諦め顔のハルヒの前で、光はとても楽しそうにペンを走らせていた。
「俺としては、ハルヒ画伯の絵を披露して欲しかったけど。なあ、馨?」
僕は光の隣に椅子を引きずってきて、そこに座ると、
ペンのキャップを取って、まだ手付かずの白い部分にペン先を乗せた。
「そうだね。光。僕らにあの天才的な芸術性を真似するのは無理だよね」
「……どうせ自分は絵心がありませんよ」
好きなようにふざけはじめた僕らに対して、
文字通りまな板の上の魚といった感じで、
どうすることもできない鏡夜先輩の口からは、ただ溜息が漏れるばかり。
「まあまあ、鏡夜先輩。たまには、いじられる側の立場でもいいんじゃないの?」
「そうそう。からかわれて困る鏡夜先輩ってのも、僕はかわいいと思うし」
「お前らな……」
こんな機会は滅多にないとばかりに、
光と僕はギブスの上にきゅっきゅっとペンを走らせていたから
鏡夜先輩もついに諦めることにしたらしい。
「……そういえば、ハルヒ。一つ気になっていることがあるんだが」
「何ですか?」
「俺のオフィスの場所を蘭花さんに教えたのはお前か?」
鏡夜先輩の言葉はハルヒに向けられたものだったけれど、
僕はびくっと手を止めて、横に座っている光を見た。
光もマズい話題になってしまった、という顔で僕を見ている。
「あ、そういえば事故の時に、うちの父と一緒だったんでしたね」
「出先から帰ってきたら、蘭花さんがロビーにいらっしゃってな。
まあ、蘭花さんの格好が格好だったから社内中の注目を浴びてな……」
「それは……ご迷惑を……。
でも、私は特に何も言ってませんよ?」
「ふうん……そうか。お前が言ってないとすると……?」
鏡夜先輩が考えを巡らせている間に、
僕の手や背中に、じわじわと変な汗が滲み出る。
鏡夜先輩に気付かれる前に、
自分から言ったほうがいいってことは分かっていたんだけど、
どう言ったらいいのか、切り出すタイミングが掴めない。
「な、なんだか喉が乾かない? 薫」
光もどうやら僕と同じ気持ちだったらしく、
僕に目配せしながら光は立ち上がる。
「そ、そうだね。何か下の売店で買ってこようか?」
とりあえず一旦この場から逃げ出して、
体制を整えようと考えてた僕らの背中を、
鏡夜先輩の声が……とても『穏やかに』呼び止めた。
「光、馨」
表面的には恐ろしいくらい丁寧な口調の中に、
これほど鮮やかに有無を言わさない圧迫感を織り込めるのは、
鏡夜先輩くらいなんじゃないだろうか……?
鏡夜先輩の声のもつ強制力に、
僕らの足は病室の入り口で縫い止められて、
カラクリ人形のようにぎこちなく後ろを振り向くと、
いつも、眼鏡の下からこちらを鋭く覗く視線は、
今日は包帯に隠されていて見えないはずなのに、
何故か鏡夜先輩の周りには……。
いつも以上にはっきりと黒々としたオーラが……見えた気が……した。
「お前らには『全く関係のないこと』かもしれないが、
出勤前の蘭花さんがうちの会社の受付で俺を呼び出したことで、
それが妙な噂になって広まるかもしれないが、
俺は、全く、気にしてないから……ね?」
……この後、流石に自白せざるをえなくなって、
僕は必死で鏡夜先輩に蘭花さんからの電話を黙っていたことを謝り倒した。
光もハニー先輩やモリ先輩の助言のこととかを説明して、
僕の行動をフォローをしてくれたんで、
それで、なんとか鏡夜先輩に許してもらえたんだけど。
「蘭花さんが馨のところに電話を入れたのも、
俺が原因ということもあるからな、
オフィスを教えたことを責める気はないが、
まあ、退院したら……、
黙っていた分の借りは、きっちり返してもらうからな?」
「あ、あははははは」
帰り際に鏡夜先輩から、しっかり釘をさされてしまったから、
光と僕はもう焦り笑いを浮かべるしか出来なくて、
そんな僕らの様子にハルヒはぷっと吹き出して、
くすくすと、とても楽しそうに笑いながら、僕らを見送ってくれた。
* * *
続