『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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春の光に風馨る -11- (光&鏡夜)
鏡夜は光に話し始める。環の事故の知らせの後、自分が無意識ハルヒの家に向かっていたこと、
それから一年、傍で見守っていたこと、そして……ハルヒがまだ環のことを忘れていないことを。
* * *
ハルヒは殿のことを忘れてないだって?
「何言ってるんだよ。鏡夜先輩」
殿のことをハルヒが忘れていないってことは、
まだ、ハルヒは殿のことが好きだって言ってるのと同じことだ。
もちろん、鏡夜先輩は酷い怪我をしている状況だし、
鏡夜先輩のことが好きだとか嫌いだとか、
そういう感情抜きでも心配して寄り添うことはできるのかもしれない。
でも、殿のことをまだ想っている状態で、
あんなに優しい雰囲気で、鏡夜先輩の手を握ることができるんだろうか。
鏡夜先輩は何か思い違いをしているんじゃないかな。
今の鏡夜先輩には、ハルヒの表情が見えないから……。
「光。お前はハルヒがこの一年、何に苦しんでいたか知ってるか?」
鏡夜先輩に言われた言葉が信じられなくて黙っていると、
鏡夜先輩が急に話題を変えて、僕に質問をしてきた。
「……それは、殿が急にいなくなったから、
それがショックで……殿のことをずっと忘れられなかったからでしょ?
僕だって、馨だって、鏡夜先輩だって、
ハニー先輩もモリ先輩も、皆、辛い思いをしてるじゃない。
なんで今更そんな当たり前のことを聞くのさ」
鏡夜先輩の話はどうも回りくどくて、
真意がなかなか見えてこなくて気持ちが悪い。
「俺もずっとそう思っていた。
だから、環の事をまだ愛しているというハルヒに、
環はもう居ないんだと……責めたこともあった」
「……は?」
もう、どこにもいない。
僕もハルヒに、何度そう言いたくなったか分からない。
どんなに、願っても、もう二度と会えない。
だから、早く殿のことは忘れて、目の前の僕を見て欲しい。
何度、言葉が口を滑りそうになっただろう。
でも、僕は、言わなかった。
ハルヒのことが大好きで、ハルヒを傷つけたくなかったからだ。
なのに。
「そんなことをハルヒに言ったの? そんなの最低じゃん!」
殿の事故のときに鏡夜先輩が、
記憶が曖昧になるくらいに傷ついていたことを明かされた時には、
僕の胸は痛くなって、鏡夜先輩に同情もしたけれど、
今の言葉は、再び僕の怒りの感情を突き起こして、
僕の胸の奥をちりちりと焼いていく。
「……確かに、そう言われても仕方ないだろうな」
鏡夜先輩にしては珍しく素直に自分の非を認めたけど、
それでも僕の苛々は治まらなかった。
僕がずっとずっと言いたくて、
それでも心に溜めていた一言を、
鏡夜先輩がハルヒに遠慮なく押し付けたことが僕は許せなかった。
いくら鏡夜先輩自身の心が追い込まれていたんだとしても。
「それって、もしかして、去年の……、
ハニー先輩の家でのパーティのときに言った?」
「……ああ……よく、わかったな」
「だって、あの日、ハルヒも鏡夜先輩も二人とも何か変だったもん。
考えてみれば、あの日以来、
ハルヒはホスト部の集まりに顔を出さなくなったんだよね。
あれは、鏡夜先輩の所為だったんだ?」
「……そう、なるんだろうな」
僕が苛々した気持ちを隠さずに、
チクリチクリと鏡夜先輩を追求してるというのに、
鏡夜先輩は淡々と返事をするだけだったから、
僕は、本当に頭にきて、ひくっと唇の端を震わせた。
認めない。こんなの。
鏡夜先輩の今回の事故は、
不運なことだったのかもしれないけれど、
もしもこの状況を逆手にとって、
鏡夜先輩がハルヒを強引に自分の傍に置こうとしているんだとしたら。
……俺は……。
「だが、ハルヒが苦しんでいたことは、実際にはそうじゃなかった」
僕がいよいよ鏡夜先輩に、
ハルヒのことで宣戦布告しようかと決意した矢先、
鏡夜先輩の言葉に出鼻を挫かれてしまった。
「何、それ。どういうこと?」
「ハルヒは、俺の告白を……環のことを忘れられないからといって一度断ってきた。
だが、本当はハルヒは、環が忘れられなくて、
苦しんでいたというわけじゃなくて……、
ハルヒは……環のことを……『忘れてはいけないんだ』と、俺に言ってきた」
包帯で隠されていて、鏡夜先輩の表情はよく分からなかったけど、
鏡夜先輩の声の伸びが、なんだか少し震えているような、
安定していないような、そんな感じがしたから。
「忘れてはいけないって、それって……」
僕は鏡夜先輩の左手にふっと視線を落とした。
「ハルヒが自分で自分を追い込んで、それで苦しんでたってこと?」
「そうだ」
僕の前の前の鏡夜先輩の左手は、強く握り締められたままだった。
「光。一つ聞かせてくれないか」
「え?」
「もしお前が、俺と同じような立場にいたら、
同じようなことをハルヒに言われたら、お前ならどういう言葉をかけてやれた?」
いつか、殿のことを忘れてくれればいい、
そんな淡い期待を抱いたとして。
もしも、僕がハルヒに好きだと告白して、
けれど、当のハルヒは、
殿のことを忘れられないんじゃなくて、
忘れちゃいけないって重たい義務を自分自身に背負わせて、
僕の心を拒絶してきたら。
その時、僕が、ハルヒに言ってあげれられること……?
「答えられないのか?」
「ば、馬鹿にしないでよ!」
答えを出せずにいる僕を、
鏡夜先輩が見下したように言うものだから、
僕は意地になって怒鳴ってしまった。
今度は、僕にも鏡夜先輩の狙いは分かった。
鏡夜先輩自身が、ハルヒに何を言ったのかを明かさずに、
まず僕にその答えを意地悪く聞いてくるのは、
僕がハルヒのことを「今でも好きだ」と鏡夜先輩に宣言したからだ。
忘れてはいけない。
鏡夜先輩がそのハルヒの本当の苦しみに気付いたときに、
先輩がハルヒに伝えることができた一言が、
きっとハルヒの心を解くきっかけになったんだろう。
だから鏡夜先輩は僕を試しているんだ。
僕の、ハルヒに対する心がどれほどのものか。
負けたくない。
僕はハルヒのことが本当に大好きだ。
殿とハルヒが付き合っていたときだって、
二人のことを応援する気持ちの裏で、
本当はずっとずっとハルヒのことを想っていた。
僕が初めて好きになった特別な女の子。
僕の方が鏡夜先輩よりも、
ずっとずっとハルヒのことを大事に想ってるはずだ。
「俺なら……」
だから、鏡夜先輩が答えを出せて、
僕に見つけられないものがあるなんて。
そんなの、絶対に認めない!
「俺なら……ハルヒの気持ちを考えずに、
強引に思いをぶつけたりなんて、絶対にしないよ。
だから、俺は、そんなに自分を責める必要はないって、
そうハルヒに言ってあげると思う。
すぐには伝わらなくても、何度でも、言うよ。
ハルヒに届くまで、諦めずに、何度でも。
そしてハルヒが殿のことを思い出にしてくれるまで、
俺ならそう言ってハルヒを見守り続ける」
「……なるほど」
小さく溜息をつきながら、鏡夜先輩は僕の言葉に頷いた。
「確かにそれは一つの方法だとは思うし、
間違いとは言わないが、だが……それじゃ、駄目なんだよ、光」
一度は頷いたくせに、鏡夜先輩ははっきりと僕の言葉を否定してきた。
「何が駄目なんだよ!!」
一刀両断の物言いに怒りを覚えて立ち上がった僕に、
鏡夜先輩は、事故の後の満身創痍の弱弱しさなんて、
全くも感じさせないほど、力強く言い放った。
「今のハルヒと一緒にいるのは、お前には無理だよ」
* * *
続