『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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僕がハルヒのことを好きになったのは、
ただ見た目が可愛いってだけじゃなくて、
自分の周りの人のことを、すごく良く見ていて、
的確にその人の本質を見抜いてしまう、
時折見せるハルヒの鋭さに惹かれたからだと思う。
まだ、殿はおろかホスト部の先輩達だって気づいていなかった、
光と僕、一人一人の個性をいち早く見抜いてくれたのもハルヒだったし。
でも、ハルヒは自分以外の人のことには鋭いくせに、
(まあ、他人に鋭く自分に疎いという意味では殿もそうだったんだけど)
自分に関係することには急に鈍感になってしまう。
時々、わざとなんじゃないかって思うくらいに。
「いつから……」
殿がフランスに研修旅行に行ってた(という嘘をついてた)ときに、
僕はハルヒを遊園地に連れて行ったことがある。
その頃、ちょうど僕と光はハルヒをめぐって大喧嘩になっていて、
ハルヒはそんな僕らを真剣に心配してくれていた。
あの時、僕はハルヒに好きだと伝えたけれど、
すぐに光を引き合いにだして、その場をごまかしてしまった。
ハルヒも僕の行動を変だとは思っていたようだったけど、
それ以上に深く考えている様子もなかった。
だから、僕のハルヒへの気持ちは、
おそらくずっと、ハルヒに気付かれることは無いだろうって思ってた。
でも、それは光のためでもあったから、
それならそれで仕方ないって今まで自分を納得させていたのに、
ハルヒが突然謝ってきたから、僕は本当にびっくりしてしまった。
「いつから、気付いてたの?」
余りに予想外の言葉に、
頬が引きつってしまって上手く笑顔を作れない。
「多分、環先輩と付き合いだしたときから、かな」
僕が覚えている限り、ハルヒと殿の話をするのは、
ハルヒが大学を卒業する直前に、国際電話をかけたときに、
殿がハルヒの卒業式に出席予定らしいとか、
そんな他愛のない話が最後だったと思う。
もちろん、飛行機事故の後で、
僕らからハルヒに殿の話題を振るなんてことは、
ハルヒの傷ついた気持ちを考えれば、できるはずもなく。
「高校の時に、環先輩が熱を出して寝込んだ時のこと、覚えてる?」
「えっと、確かホスト部でお見舞いに行った時のこと?」
「そう。あの時にね。帰り際に、実は環先輩にキスされたんだよね」
「……え? キス!?」
「あ、もちろん、おでこに……だったんだけど」
そう言いながら、ハルヒは視線を落として、
シンクの底に転がった花瓶を起こすと、もう一度蛇口を開けた。
「あれから、なんだか自分の心が穏やかじゃなくなったっていうか、
環先輩に会うと、なんだか熱っぽくなったり、
胸が苦しくなったりするときがあって……。
まあ、ただの風邪かな、って思ってたときもあったんだけど。
本当に具合が悪くなったりもしたし」
微かに笑うハルヒの前で流れ落ちる水は、
花瓶の中で水泡をぐるぐると回して、
光を乱反射しながら、次第に中を満たしていく。
「でも、環先輩から告白されて、一緒にいようってことになって、
付き合いだしてから、その時のことを話すことがあって。
そしたら環先輩は、その時の気持ちを、
『お父さんとして可愛い娘にちゅーしたくなったんだ』
って、ずっと思いこんでいたらしいんだよね」
殿の話題は、僕らの心の悲しい部分を呼び起こしてしまうけれど、
同時にその思い出はとても温かくて柔らかい。
「ああ、なんかそれ、すっごく分かる気がする。
殿って、ほんと、そんな感じだったよね」
おそらく、ハルヒの前で真っ赤になって説明していただろう、
当時の殿の様子を想像したら、固くなっていた僕の心も解れてきた。
「でも、そんなに無自覚だったのに、
殿のほうからハルヒに告白したんだったよね」
「うん。なんかね、環先輩言ってた。
鏡夜先輩に色々と指摘されて、本当の理由に気付いたって。
だから、環先輩は私に告白しようと決意したんだって」
蛇口から流れ落ちる水は、さっきと変わらないはずなのに、
不思議と今度は水の音は気にならなかった。
「鏡夜先輩が殿に何を言ったか、殿から聞いた?」
ううん……と首を振りながら、
ハルヒは手を伸ばし、溢れそうになっていた水を止めた。
「男と男の話だから……とか言って、それは結局教えてもらえてないんだけど、
でも、それを聞いたときに思ったんだよね。
馨や光にも同じようなことをされたことがあって、
高校のときには、それをぼんやりと見過ごしていたけど、
あの時、馨や光は、一体、私のことをどう思っていたのかなって」
徐々に水面は穏やかになって、
蛇口から滴る一粒二粒の水滴が、小さく波紋を作っていく。
「それで、気付いたんだ?」
「なんとなく……だったけどね。さっきまでは」
「……でも、僕の気持ちに気付いたうえで、それを今、謝るってことは……」
僕はハルヒの横顔を見ながら、
自分に言い聞かせるように呟いた。
「僕や光の気持ちは、やっぱり受け入れてもらえないってことなんだね」
ハルヒは僕の横で黙ったまま、
ちょっとの間、何か考えていたようだった。
「私は……」
それから、顔を上げると、にっこりと僕に笑ってくれた。
「馨も光も、私にとって、すごく大切な人だと思ってるよ」
僕と光に変に気を使うといった感じでもなく、
ハルヒは自分の思っていることを、
なんの脚色もせずに、そのまま素直に口にしてくれたように思えた。
だからこそ、僕の心に響く。
「それでも、僕らじゃ駄目なんだね」
ハルヒは僕の意地悪な質問に、
ちょっと困ったように少し眉を寄せたけど、それから黙って頷いた。
「ハルヒはさっき、ちゃんと説明してくれるって言ったよね?」
僕らのことは選ばないと、はっきり頷かれた後で、
この時の僕は最後の悪足掻きみたいに、
ハルヒに質問を繰り返していたけれど、
でも、僕はハルヒを困らせようと思って、
そんなことをしていたわけじゃなかった。
「うん。聞きたいことがあれば、ちゃんと答えるよ」
僕は、ただ、ハルヒにちゃんと言って欲しかったんだ。
誰かを好きになるという気持ちを、
その相手に受け入れてもらえない時に、
なんとなくお互い有耶無耶にして、
自然消滅のように最初から無かったことしてしまうことは簡単だ。
「それじゃあ、教えてハルヒ」
単に冗談だったんだよと、誤魔化してしまえば、
告白の気恥ずかしさもなくなって、断られた後のぎこちなさもなくなって、
全てが『表向き』元通りに、何食わぬ顔で君の隣に立つことができる。
以前と変わらない『友達』として。
見えないところで涙を零すことがあっても、
表面的には、お互いに一番負荷が少ない方法だから、
どうしても気持ちが楽な方に逃げたくなってしまって、
僕はかつて、君への気持ちを誤魔化した。
でも、それじゃダメなんだ。
君を好きになったことは、とても大切な僕らの心の一部。
それなのに、全て単なる過去の思い出に、
この想いを自然と消し去ってしまったら……。
僕らがこんなにも、君を好きになった意味がない。
「ハルヒが僕らよりも鏡夜先輩を選んだのはどうして?」
だから、ハルヒには、はっきりと言って欲しかった。
ハルヒが僕らを選ばずに鏡夜先輩の傍にいることを選んだ理由を。
そして、きっと……、
君がくれるその言葉こそが、僕の心に最後の火を灯す。
この想いを最後のひと欠けらまで、綺麗に燃やし尽くすための火を。
* * *
続