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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

Suriya'n-Fantasy-World

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共に在る理由 -6-

共に在る理由 -6- (ハルヒ&鏡夜)

持ち込まれる縁談は増える一方、恋人だと思っているハルヒにどう接していいのか分からない。
そんな悩みを抱えていたある夏の日、天気予報通り、夜になって激しい雨が降り出して……。


* * *

全ての始まりは、あの雨の夜。

あの雨の日に端を発して、鏡夜に聞かれてしまった数々の言動は、
彼の心の中でどのような意味に捉えられたのだろうか。

何気ない一言で、
こんなにも取り返しのつかない状況に追い込まれるなんて。

言葉というものは、なんて恐ろしいものだろう。

自分が意図していない、自分の意思とは違う、
それだけが別の生き物のように、心の中に蠢く。

全てを迂闊な言葉の所為にして、
彼に弁解しても良かったのかもしれない。

けれど、本当に胸を張って、そんなつもりじゃなかった、なんて言えるだろうか。

勘違いされても仕方ない、そんな言葉を発すること自体、
彼を、彼の愛を、彼の優しさを裏切っていたのではないのか。

全てのきっかけは、あの激しい雨の日の夜。
二人の間に流れていた穏やかな時間は壊れだした。

一緒にいると手を取り合ったあの時から、
僅かに……ほんの僅かに歪んでいて、
違う方向を向いていた二人の感情の線が、
前に進むにしたがって、やがてゆっくりと距離を離していった。
涙は止まらないけれど、もう元に戻すこともできない。


この別れは、最初から決まっていた結末なのかもしれない。


* * *

二週間ちょっと前の真夏の夜。
突然降り出した、激しい雨の日の出来事。

「参ったなあ……」

今日は、久々に終電に間に合って、
タクシー代が節約できると喜んでいたというのに。
最寄の駅の改札を出たところで、
バケツをひっくり返したような土砂降りの雨が、
傘も持たずに事務所を飛び出したハルヒの足を止めていた。

八月に入って、遅かった梅雨明けが、やっと来たと思いきや、この雨だ。

『ところで、お前、今日は天気が崩れるらしいから、早く帰れよ』

そういえば鏡夜から、夜半に雨が降るからと忠告されていたような気もする。

また、こんな時間に帰ったなんていったら、呆れられてしまうだろうか。

それもこれも自分を心配してのことなのだが、
鏡夜の口調を想像して、ハルヒは内心冷や冷やとしていた。

でも、まだ、これくらいなら大丈夫。

ハルヒはスーツの上着を脱いで、書類の入ったバッグが濡れないように包み込むと、
いよいよ強さを増す雨粒を、かいくぐる様に走り出した。
降り出してから、それほど時間が経っていないのに、
すでにアスファルトの上は水溜りが出来ていて、
地面に足が付くと水が跳ねて、パンプスの中まで浸み込んでくる。

大丈夫、まだ雷は聞こえないから、一人でも大丈夫。

スコールのようなこんな初夏の雨は、
同時に、ハルヒが大嫌いな「恐怖」を必ず連れてくるから、
まるで誰かに追い立てられるかのように、ハルヒは必死に家路を急いだ。

走り始めて数分で、すでに髪もシャワーを浴びたようにびしょ濡れで、
白いブラウスも、水に濡れた布が肌に吸い付いて気持ちが悪い。

急がないと……。

マンションの前にやっと辿り着いて、一息ついたハルヒは、
スーツのジャケットで包んだ鞄の中身、
仕事関連の書類が濡れてないことを確認して、ほっと安堵の溜息をつくと、
ロビー入って正面のエレベーターに乗り込んだ。

そして、足早に部屋の前まで歩き、キーケースを取り出したハルヒが、
鍵を差し込もうとした、まさにその時。
空間を切り裂く鋭い光が、突如、ハルヒの視界を覆った。

夜の闇を貫く激しい閃光、そして、殆ど間を置かずに轟く雷鳴。

「ひっ……」

小さく悲鳴を上げたハルヒは、思わず鍵を落としてしまう。

慌てて鍵を拾い上げ、鍵穴に差し込もうとするが、
手が震えてしまって上手く入らない。

数回カチカチと金属の音をさせて、
ようやくハルヒは鍵を開け、玄関に入って部屋の照明を付ける。

その瞬間に、再び強烈な稲光。

バッグとジャケットを玄関先に放り投げ、
靴を脱ぎ捨て揃えることもなしに、ハルヒは部屋の奥に駆け込んだ。
そして、濡れた服のままで、ベッドに駆け寄ると、
布団を手繰り寄せて、そのまま床の上に倒れこむ。

地響きのような、雷の音は、布団を深く被っても、耳元に届くから、
濡れた身体は冷え切っても着替えることも出来ずに、
ハルヒは身を縮めて耳を塞ぎ、
雷が通り過ぎるのをじっと待っているしかなかった。
轟音が鳴り響く度に、身体が突き刺されるかのような、
耐え難い恐怖が襲ってくる。

環、先輩……。

ちょうど今と同じ時期、過ぎし日の夏の思い出。
あの時、自分を抱きしめてくれた人は、もう、自分の傍にはいない。

そして。

『……まあいい。今日は夜に会食があってそっちに行けそうにないが、
 とにかく、あまり無理はするなよ』

鏡夜、先輩……。

自分の傍で、どういうわけか自分を愛してくれている鏡夜は、
いつも深夜遅くまで、仕事に没頭しているし、
今は特に忙しい時期のようだから、こんな些細なことで頼るわけにもいかない。

早く、終わって……。

ハルヒの願いとは裏腹に、雷はいよいよ激しさを増し、
そして一際大きな音が鳴り響いたかと思うと、
近くに落雷でもしたのだろうか、部屋の灯りが唐突に消えた。

暗闇に包まれた部屋の中、カーテン越しに、青白く光る雷が室内に侵食してくる。
ハルヒの身体はますます硬直し、がくがくと震えが止まらない。

随分と、弱くなってしまった、と思う。

昔なら、一人で居るほかに選択肢は無かった。
だから、どんなに怖くても一人で乗り切るしかないと
どこか諦めていた……それが当たり前だったから。

それが桜欄高校に入って、温かさを覚えてしまった。
お金持ちの常識しらずな人達だけど、
父親以外に、自分のことを真剣に心配してくれる、その優しさを知ってしまった。

だから、心のどこかで求めてしまう。
こんな日に、誰かに傍にいてもらうこと。

誰か……でも、誰に?

もう、環はいない。判っている。

自分が素直にその腕を掴んで、
すがることのできた、その大きな存在は、
世界中どこを探してもいない。それはもう……理解していることだ。

じゃあ、鏡夜は?

環の事故を知ったあの日、狂ったように泣いていた、
そんな、自分が落ち着くまで、ずっと抱きしめていてくれた人。
それから一年近く、環への想いに捉われて、虚空を彷徨った、
そんな、自分を見守っていてくれた人。


そして本当は、ずっと長い間……こんな自分を愛してくれていた人。


それなのに、自分は一体何をしているのか。
鏡夜に、きっと彼が一番欲しいはずの言葉も言えなくて……。

その時、雨の音に交じって、玄関の扉の開く音が聞こえた気がした。

「ハルヒ、いるのか?」

鏡夜、先輩? まさか、幻聴?

夢が醒めてしまうのが怖くて、ハルヒは布団から顔を出せずにいたが。
暗闇の中、徐々に近づいてくるのは確かな足音。

「全く、お前は」

夢じゃない?

おずおず見上げると、恐らく階段を走ってきたのか、
軽く息を上げている鏡夜が立っていた。

「いくらなんでも無用心だぞ、鍵もかけずに」
「だって…………ひっ」

再び鳴り響いた雷の音に、びくりと身体を震わせる。
鏡夜はハルヒの傍に腰を下ろし、彼女をそっと抱きしめる。
ハルヒは、涙ぐみながら鏡夜の胸に顔を埋める。

「今、帰ってきたところか?」

鏡夜は、ハルヒの、雨に濡れた服に気付く。

「遅くなるようなら連絡をしろというのに、仕方のないやつだな」

ああ、この人はどうして、表向きはそっけない風を装って、
二人きりの時は、こんなにも優しいんだろう。

ハルヒの首筋や、頭を優しく撫でながら、
鏡夜はハルヒをぎゅっと抱きしめてくれている。
冷えた身体に伝わってくる、彼の体温。

「落ち着け……もう、大分遠くなった」

遠くのほうでごろごろと、まだ音は続いていたが、
確かに光と音の時間差が、少しずつ延びてきた用に思う。
鏡夜の服を必死に掴んでいた、その力をやっと解くと、
ハルヒの耳元で、鏡夜がくすりと笑う声が聞こえた。

「で、落ち着いたか?」
「はい、なんとか……でも、先輩なんで……今日は仕事で来れないって……」
「別に、仕事が意外と早く終わったからな」
「そんな……見え透いた嘘は吐かないでください」

ハルヒの濡れた前髪を指で掻き分けるようにしていた
鏡夜の指がぴくりと止まる。

「昨日だって三時間しか寝てないって、今は忙しい時期だって、
 先輩、言ってたじゃないですか。
 それなのに、こんなことで時間を作って私のところにくるなんて
 そんな無理なこと、していただかなくていいですから」

あなたがどれほど私を愛してくれていても。

「俺が好きでやっていることだ。気にするな」
「そんなこと言われたって、気になります」

ただ、あなたの傍にいる以上に、私には何もできない。
あなたがくれるその愛情と、同じだけの想いを私は返すことができない。


だから、そんな優しい嘘は……要らない。


「だって先輩は知っているはずじゃないですか」

私が愛しているのは、あなたではないと。

「自分が環先輩のことを、まだ好きだって。それなのに……」
「ハルヒ、お前は」

戸惑ったような鏡夜の声が聞こえてくる。


「……俺に心配されるのが嫌なのか?」


雷も止んで、まだ停電が復旧しない暗闇が、
鏡夜の表情を覆い隠している。

あなただけを愛せないことは私の責任なのに、
そんな私が、あなたを独占するなんて許されることじゃない。

雷の恐怖と、鏡夜の過剰な優しさに、
高ぶってしまった癇癪にも近い感情は止まらない。


「そ、そうです! だって自分は、鏡夜先輩に
 心配してもらうようなことは、何もありませんから!」



だって、あなたに心配してもらえる、そんな権利は私には無いから。
そういう意味を込めて、ハルヒはこう鏡夜に言ったのだ。

「……お前」

しかし、ハルヒの言葉を聞いて、
鏡夜の声がそれまでの優しい口調から、急に、怒り満ちた声に変わる。

「……お前は、まだ……そういうことを俺に言うのか……?」
「え?」

返された言葉の意味が判らず、当惑するハルヒの前で
立ち上がった鏡夜に、ハルヒは二の腕を掴まれ身体を引き起されると、
そのまま乱暴にベッドの上に押し倒された。


「……鏡夜、先輩……?」



* * * 

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