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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

Suriya'n-Fantasy-World

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共に在る理由 -37-

共に在る理由 -37- (鏡夜&ハルヒ)

眠りについた彼が、無意識に掴んだ左手を見て、
二か月前、彼が自分に傍にいて欲しいと言ってくれた、本当の理由にハルヒは気付く……。


* * *

傍から見れば、少々ルーズに思われていたかもしれないがが、
本来ならすぐに片付けるべき炬燵を、
ここ数年は、春先まで出しっぱなしにすることが多くなっていた。

何故か自分の家ではなく、
わざわざ鏡夜の家で炬燵に入りたいという、
はた迷惑な親友のために。

「環。素朴な疑問なんだが」
「ん?」
「お前とハルヒが付き合い出して、数か月経つと思うが……」

人の家の炬燵を借りるなら高級茶菓子を持参しろ、
という鏡夜の言葉にも耳を貸さず、
環は、また下町で購入したらしい庶民菓子を沢山持参して、
炬燵の上に説明を交えつつ嬉しそうに並べている。
もうすぐ高校も卒業だというのに、
相変わらず顔を輝かせては楽しそうに話をしている。

「そろそろ、ハルヒはお前のことを、はっきり好きだと言ってくれたのか?」
「いや、それは、その、なんだ、それがだな」

耳まで真っ赤になりながら、環は炬燵の布団を
肩までたくし上げて顔を埋めた。

「最初に告白したときに……、
 『自分の気持ちはまだ良く分かりませんが、
 付き合うというのは、一緒にいるってことですよね。
 別にそれは構いませんよ』とか言われてから、まだ具体的な進展はないんだ」
「誕生日やバレンタインデーは一緒に過ごしたんじゃなかったのか?」
「お、俺はちゃんと言ったんだぞ! 
 『そういう記念日は、恋人同士は一緒に過ごすものらしいぞ』って。
 そしたら『自分達は正式に恋人同士なんでしたっけ?』と、ざっくり言われて、
 あとは、今は三年生は受験シーズンなんだから、
 そういう大事な時期に、自分達だけ遊んでるわけにはいかないだろうと、あっさり却下で……」

環の回答に、鏡夜は間抜けた顔をして言葉を失い、

「あははは」

それから、鏡夜は大声で楽しそうに笑い出した。

「相変わらずか。その反応は、いかにもハルヒらしいな」
「笑うな。鏡夜!」

炬燵の向かい側で、ふてくされた環は、
天板にアゴをのせてぷくっと頬を膨らませている。

「ハルヒの性格上、自覚させるま先は長そうだが。ま、せいぜい、頑張れよ」

再び澄ました顔に戻った鏡夜の方を、
向かいに座る環が、上目遣いにちらちらと見ている。

「なんだ?」

湯のみを手に取ろうとしていた鏡夜が不審に思って聞き返すと、
環は何だかすっきりとしない表情で、逆に鏡夜に質問してきた。

「鏡夜。本当に良かったのか?
「何の話だ?」
「いや……」

いつも人の顔を真っ直ぐに見て話をする環にしては珍しく、
視線を横に逸らして、何かを言い澱んでいる。

「そ、そうそう。お前はハルヒの『お母さん』なのだから、
 娘に彼氏がいるというのは心配じゃ……」
「その家族設定は、高校時代の単なるお前の妄想だろう」

へらへらと作り笑顔を浮かべて、勢いよく喋りだす環の様子は、
本当に言いたいことは別にあるけれども、敢えて別の話題を振った、と、
明確に言っているようなもので、分かりやすい。

鏡夜は一口お茶をすすると、ふーと溜息をつく。

「大体、父親ならともかく、
 母親が娘の恋愛に干渉するという、その論理が分からん」
「そ、それは、そうなんだがな。その、俺は鏡夜が……」

環が本当に鏡夜に言いたいことは、何となく予想がついていた。

おそらく、環は不安を感じているのだろう。
鏡夜の心の中にある、ハルヒに対するささやかな感情に。

「あくまでお前の妄想で例えろ、と言うのなら」

だが、気付かせるつもりは毛頭ない。
この感情は、環とハルヒ、二人にとっては邪魔なだけだから。


「母親は娘の幸せを願うものじゃないか?」


向かい側に座る環が、はっと息を飲んで顔を上げた。

「鏡夜……」
「ま、俺は傍で見物させてもらうことにするよ。
 お前がハルヒを本当に幸せにしてやれるかどうか、な」

鏡夜がにやりと意地悪く笑ってやると、
やっと安心したように、環も笑顔になった。

「ありがとう、鏡夜」

そして、鏡夜は大切な想いが納まった心の中の宝箱の、
開きかけた封を、自ら閉じることにしたのだ。


高校卒業前の、ある冬の一日に。


* * *

心の奥深くに本当の想いが沈んでしまう、
それには二つ理由がある。

一つは。

明かすこともできず、かといって消し去ることもできない感情を、
それならば誰からも見つからないように、深く深く埋めてしまおうとするため。

鏡夜がかつて、彼女の幸せのために、
ハルヒへの想いを閉じ込めたときのように。

そして、もう一つの理由。

それは自分でも気付かないほど儚い想いが、
心の中に存在する、その他の強い感情に場所を取られて、
無意識に隅の方に押しやられてしまうため。

心の端に取り残された真実は、確かに自分の心の一部であるはずなのに、
何もきっかけがなければ、一生気付かないで終わってしまうこともある。

ほんの小さな真実。

心の隅っこに追いやられてしまった心の欠片を、
その場所に押し込めている自分の中の別の感情自体もまた、
自分の心の真実の一側面であるが故に。

「……」

遠くで誰かが泣いている声がする。
これは夢なのか現なのか。

「なんで……」

自分が起きているのか寝ているのか。
周りが暗くて、時間もどれくらい経ったのかも分からない。
指先にぽたぽたと冷たいものが落ちてくる感触と共に、
ハルヒの声が聞こえてくる。

「なんで、今まで黙って……」

鏡夜に語りかけているのか、独り言なのか。
愛しい彼女の、すすり泣く声に突かれるように、
夢の中に沈みこんでいた鏡夜の意識は揺さぶられる。

……何故、泣く?


最近、自分は、ハルヒの泣いているところしか見ていないきがする。
本当は、彼女の笑顔だけが見たいというのに。
彼女が笑っていられるように、これ以上苦しめないように、
自ら離れることを選んだというのに。

……何故、お前は笑ってくれない?

「どうして……泣いている……ハルヒ?」
「あ……」

一度夢の中に堕ちようとした意識が、完全には覚醒しきれてなかったから、
掠れた小さな声しか出せなかったが、
それでも彼女の耳に届いてくれたらしい。
ハルヒの小さな声が聞こえた後、すっと指先の温もりが消える。

「すみません、起こしてしまって……自分は、その……」

がたんと椅子の足が床と擦れる音が聞こえる。

「……待て……ハルヒ……」

鏡夜の指先が空を切った。

「……何も言わずに……行くのか……?」

何も触れることのできない指先に残る感触は、
零れた彼女の涙の跡の冷たさ。
さっきまで確かに感じていた、ベッドの脇にいるハルヒの気配は、
もうそこには無かったけれど、病室の扉の開く音はしなかったと思う。

「……ハルヒ?」

微かに聞こえてくる息遣いに、
まだ彼女が病室の中に居ると分かる。

「……ハルヒ、どうした?」
「全部、自分の所為だったんですね」
「……?」

おそらく病室の入り口前にいるのだろう、
少し離れたところからハルヒの声が返ってくる。

「先輩が、自分に傍に居て欲しいっていってくれて、
 それからずっと一緒に傍に居てくれたのは、
 あの日、自分が先輩の手を握って、
 自分の方から、鏡夜先輩を必要としたからだったんですね?」

それは、小さくゆらめく希望の炎。

「何故、それを……?」

あの日、鏡夜が握り締めたその手を、
眠りに落ちた彼女はいつのまにか強く握り締めて、
自分の前で、穏やかな寝顔を見せてくれた。

そして鏡夜は、騎士が姫に忠誠を誓うが如く、
彼女の手の甲に接吻して、
彼女が環への想いも超えて鏡夜を必要としてくれること、
その微かな希望を拠り所に、彼女の傍にいようと決めた。

「なんで、ずっと黙っていたんですか。
 自分がもっと早く本当の気持ちに気付いていれば」

ハルヒ、違う。

「先輩を苦しめることも無くて」

ハルヒ、言うな。

「先輩がこんなふうに事故に会う事だって……」

それ以上、続けるな。

「全部、自分が…」
「お前は、何も悪くない」
「で、でも!」

環のことを今でも愛している彼女の様子に嫉妬して、
本当は自分のことだけ見て欲しいと考えている醜い感情に、
自己嫌悪することはあっても、
それは全て、鏡夜の気持ちの問題だったから、
見破られてしまったとしても、それはそれで構わなかった。

「確かに、あの日、お前は……俺の手を握ってくれた……だが……」

けれど、彼女が自分の手を握ってくれたことだけは、
どんなに自分が傷つこうと、どれほど周りに誤解されようと、
一生、胸の内に秘めておこうと思っていた。

「俺は……お前に……それを言うつもりはなかった。
 ずっと……黙っているつもり……だった……だから、お前が……悪いわけじゃない」
「でも……」

ハルヒは悪くないのだと、そう言葉を続けても、
彼女は鏡夜の行動を理解できないようで、
困惑したような小さな声が、彼にこう問いかけてきた。


「どうして黙っていたのか、理由を……聞かせてもらえませんか?」


* * *

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