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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

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共に在る理由 -35-

共に在る理由 -35- (ハルヒ&鏡夜)

事故に遭った直後、鏡夜が心に思ったのは、ハルヒに会いたいという純粋な気持ち。
真っ暗な闇に包まれた世界の中で、仄かに伝わる温かさに、彼は彼女の名を呼んだ……。


* * *

手術を担当した医師から病状の説明を受けたあと、
安堵と絶望が織り交じった心を抱えて、
ハルヒは鏡夜が眠っているベッドの横の椅子に座っていた。

病室へ運ばれてから、一向に気付く気配のない彼の姿を、
もうかれこれ、三十分以上見つめていただろうか。

コンコンとノックの音が聞こえてきた。

「ハルヒ。鏡夜君の容態も安定しているみたいだし、
 もう遅いから、今日のところは一旦戻って、また明日来ましょうか?」

病室の外で、芙裕美と会話をしていた蘭花が、
遠慮がちに病室の扉を開ける。

「ううん。帰らない」

ハルヒは父の言葉に首を振った。

「でも手術の後だし、先生は、すぐに目は覚まさないだろうって……」
「でも、今は、先輩の傍に居たい」

蘭花は困ったように背後の芙裕美を振り返った。

「蘭花さん。今はハルヒさんと鏡夜さんを、
 二人っきりにしてさしあげましょう。
 病院の方には私から付き添いのこと、話をしておきます」
「……すみません」

ナースステーションの方に向かう芙裕美を見送った蘭花は、
病室に入ると、ハルヒの背後に立った。

「ハルヒ。『鏡夜君の傍にいたい』というのが、
 今のあんたの、一番したいことなんだよね」
「……うん」
「誰かの傍にいたいってことがどういう意味か、分かる?」
「意味?」

もともと、自分が彼の傍に居た意味は、
傷ついた心を抱えていた鏡夜が、それを強く望んだから。

けれど、今、自分が彼の居たいと思うのは、
その時と同じ気持ちだろうか?

「それは、先輩がいなくなっちゃったらって思ったら、
 すごく怖くなって、理由なんてよくわからないけど、
 ただ今は傍に居たいって……それだけで……」

背後から、ハルヒの両肩に蘭花は優しく手を置いた。

「誰かの傍に居てあげることと、自分から傍に居たいと思うことは、
 同じように見えても、少し違うわよ?」
「え……?」
「もしその違いが分からないなら、細かいことは考えずに、
 今自分がしたいと思うことを、ただ素直にやってみなさい」

ハルヒを勇気付けるように蘭花はにこりと微笑んだ。


「そしたら、きっと答えは見つかるから」


* * *


朝……?


東南向きの窓から、朝の光が病室内に入ってきて、
いつの間にか眠っていた、ハルヒの意識を覚ましていく。

ベッドサイドの椅子に座って、
ベッドの端にもたれていたハルヒが身体を起こすと、
おそらくは夜中の巡回中に、看護師さんが掛けてくれたのだろう、
ハルヒの肩を覆っていたタオルケットが、ぱさりと床に落ちた。

タオルケットを畳んで壁際の棚に置き、
ハルヒはベッドの横で、改めて彼の姿を見回した。

手足や頭に巻かれた白い包帯。右腕につながった点滴。

見れば見るほど痛々しかったが、
やはり、両眼を覆う包帯が、一番胸に詰まる。

彼が、失明するかもしれない、という事実。

もっとも、担当医の話では、
可能性があるだけで、確実なことでは無いと言っていたけれど。

「……ん……」

壁の時計が八時を回ったくらいだろうか。
包帯の下の頬が微かに動き、鏡夜が小さなうめき声を上げた。

「先輩!」


気付いた?


彼は、唇を僅かに開いて、何か言いたそうな様子で、
首を微かに左右に動かしている。

「鏡夜先輩!」

鏡夜の両腕は、点滴や脈拍などの測定のためか、
布団から外に出されていたが、
まだ、身体を動かすことができないのだろう、
腕を持ち上げることもできないようで、
鏡夜はもどかしそうに、首を傾けている。


ハルヒは思わず、彼の左手を握っていた。


その反動で、鏡夜の指先がほんの少しだけ動いたが、
それ以上は力が入らないらしい。
ハルヒがその手をぎゅっと握り締めると、鏡夜がゆっくりと口を開いた。

「……ハルヒ?」

鏡夜が彼女の名前を呼ぶ。
二度と聞けないかもしれないと、思っていた彼の声。

ここで、泣き声なんて聞かせたら、
不安にさせてしまうだろうと考えて、
ハルヒはぐっと涙を飲みこむと、努めて明るい声で鏡夜に返事をした。

「はい、鏡夜先輩」

そして彼の指先を温めるように摩ってやる。

「夢、か?」

ぽつりと零れた鏡夜の疑問を、ハルヒは穏やかに打ち消す。

「夢じゃないですよ。自分は、ここにいます」

今、彼が自分の顔を見えなくても、
この声と、この指先で、自分の存在を伝えようとしていると、
握り締めた鏡夜の手に、若干力が戻ってきたようだった。

「ハルヒ」

名前を再び呼ばれて、それから、ぐっと左手を握られた。

その指にいつもの力強さは無かったけれど、
今の鏡夜の状態で、自分の手を握り返してくれたことだけで、
ハルヒの目には涙が溜まってくる。

「俺は……どうして……?」

まだ、朦朧としているのだろうか、
鏡夜の口調は、かなりたどたどしい。

「交通事故に巻き込まれたんですよ。覚えていませんか?」
「……事故……ここは?」
「鳳総合病院です」

ハルヒは鏡夜を驚かせないように、
出来るだけゆっくりと、蘭花から聞いた事故の様子や、
自分がロワグランホテルで連絡を受けて駆けつけたこと、
三時間にも及ぶ手術のことなどを順に説明していく。


もっとも、今の鏡夜に傷の状態を、
詳しく伝えることだけは出来なかったけれど。



「……っつ」

不意に、説明の最中、鏡夜が左腕を持ち上げたので、
ハルヒは手を離してしまった。

しかし、すぐに痛みに顔を歪めた鏡夜は、
ぱたりとシーツの上に腕を投げ出した。

「無理に動かしちゃ、駄目ですよ」

ハルヒはそう注意すると、離してしまった左手を、もう一度握ろうとした。

「ハルヒ……今は……事故からどれくらい……経ってるんだ?」
「え?」

鏡夜の言葉にハルヒの動作はぴたりと止まる。


「周りが……とても暗いが……今は……夜中なのか?」


* * *

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