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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

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共に在る理由 -34-

共に在る理由 -34- (鏡夜&ハルヒ)

鏡夜の手術は無事成功し、彼が生きていることに安堵するハルヒ。
しかし、医師から、後遺症の恐れがあるとの事実を聞かされ……。


* * *

まだまだ話し足りないような蘭花を置いて、
さっさと席を立って外に出た鏡夜は、目を細めて前方の赤信号を見つめていた。

『今の君。一年前とはまるで別人よ』

別人、ね……。

蘭花の鋭い指摘に、一瞬、心を隠しきれないかと思った。

『まだ、あたしは納得してないわよ』

高校の頃から何かと親しくしていた蘭花に、
軽蔑の眼差しを向けられることは流石に心に堪えて、
鏡夜の胸の奥にじくりと不快感が広がる。

それでも、本当のことを明かして、
ハルヒが再び自分を責めて、心を閉ざしたりしてしまうことを考えれば、
こんな自分の痛みなんて、いくらでも我慢することができるように思えた。


たとえ、彼女の心を護るために、
彼女から離れることを選ばざるを得なかったとしても。



ぼんやりと信号待ちをしている鏡夜の身体を、
じわじわと疲労感が包み込んでいく。

ここ二日ほど、ろくに眠っていなかったせいか、
精神的にも肉体的にも限界が近づいてきているところに、
排ガス交じりの生暖かい空気に触れたせいもあって、
少し気分が悪くなってきた。

なんだか……疲れた……。

ほどなく信号は青に変わり、
鏡夜は、後から追いかけてくるであろう、
蘭花に引き止められることが無いように、
急いで横断歩道を渡ろうとしていた。

その、渡り始めに、不意に目眩に襲われて、
ぐらりと歪む世界の中で、一瞬。

そう、ほんの一瞬だけ、鏡夜は目を閉じた。

車が突っ込んできたのはまさに、その時。
辺りに響き渡る、全身に寒気が走るような、大きな音。

激しい衝撃の後、鏡夜には、
上下左右の感覚が全くわからなくなってしまった。

最後に見えたのは、視界の端を掠めていく、紫色の空の欠片。

焼け付くような痛みと共に、視界は黒く閉ざされて、
体中の感覚が全て麻痺し、全身が鉛のように重く、
指先一つも動かすことが出来なくなって、
唯一残された聴覚だけが、周囲のざわざわした音を拾ってくる。

「鏡夜様!!!」

橘の声がとても近くで聞こえた。
こんな風に大声で自分の名前を叫ぶ橘の声は初めて聞いたように思う。

それにしても、どうして、身体が思うように動かないのだろう?
上から何か重いものが、体中を押さえつけてしまっているかのようだ。

「鏡夜様、しっかりなさってください! 鏡夜様!!」

ちゃんと聞こえている、と言うことを伝えたくても、
声を出すことができない。

なんだか……とても……眠い。

今すぐに意識を手放してしまいそうなほどに、
頭が重くて、どいういわけか、とても眠くて、
鏡夜の頭の中は、徐々に白濁としてきた。

……ハルヒ。

眠る前にもう一度だけ。

お前の声を聞きたい。
お前の笑顔を見て、お前を抱きしめて……。

その朦朧とした意識の中で、
鏡夜の脳裏に浮かぶのはハルヒのことだけ。

……馬鹿げてる。

別れを言ったのは、自分からのはずなのに。
覚悟も決めていたはずなのに、
これからは、彼女に傍にいてくれなんて、
願ってはいけないと分かっているはずなのに……。

どうしてだろうな、ハルヒ。

消そうとしても消しきれない感情が、心の芯から湧き上がってくる。


今、お前に無性に……会いたい。


やがて、唯一残っていた感覚も、
風に流されるように小さく微かになっていって、
音の消えた世界の中に、自分の存在が徐々に溶けていくような、
そんな不思議な感覚の中。


鏡夜は全ての意識を手放した。


* * *

暗い。

どうしてここはこんなに暗い……?

鏡夜が最初に感じたのは、
痛みよりも先に、何故辺りがこんなにも暗くて、
何も見えないのかということだった

一体、何があった?

頭の中は少しずつ覚醒してきていたけれども、
身体の重さと、視界の暗さに、
自分に何が起きているのか、
鏡夜にはすぐ認識することができなかった。

自分が横になって寝ているらしい、ということはわかった。
けれども、起き上がろうと力を入れてみようとしても、
身体を動かすという感覚が全く掴めない。

ここは、何処だ?

「……ん……」

もどかしい自分の身体に少し苛立って、
小さな呻き声をあげながら、辺りを伺おうとすると、
首を微かに左右に動かすことだけは出来た。

一体、俺は、どうなって……。

不安に包まれる鏡夜の身体に、不意に、優しい感覚が伝わってきた。


何だ……?


真っ暗な視界の中で、自分の左手を優しく包む温かさ。
その、唯一感じる感触をきっかけに、鏡夜の全身の感覚が、少しずつ戻り始める。


誰、が……?


鏡夜は、その誰かの手を掴もうとしたが、
まだ力を上手く入れることができない。

そこに居るのが誰なのか。

鏡夜が握れない代わりに、その誰かは、
彼の左手の指先を摩るようにして、強く握り締めてくれて……。




答えは、その温もりだけで十分だった。




「……ハルヒ?

彼の声に応えて、優しい声が聞こえてきた。

「はい、鏡夜先輩」

目の前を覆う暗闇は、まだ続いていたけれど、
何も見えなくても、自分の傍にハルヒがいることは分かる。

、か?」

彼女の存在があまりに信じられなくて、
そう呟く鏡夜の耳元にハルヒの声が被さってくる。

「夢じゃないですよ。自分は、ここにいます」

その言葉に安堵した鏡夜は、微笑みを浮かべて。

「ハルヒ」

再び彼女の名を呼んだ鏡夜は、まだ力が入りきらない指先に、
今、持てる精一杯の力を注ぎこんで、彼女の手を握り返した。

* * *

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