『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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共に在る理由 -33- (ハルヒ&鏡夜)
手術室の前で、鏡夜の無事を祈りながらも、彼に対する気持ちに混乱するハルヒに、
蘭花は、今何をしたいか、ただそれだけ考えなさいと諭す。そして手術室の扉が開く……。
* * *
何時も眼鏡で素顔を隠しているから、
裸眼でいる鏡夜を見ると、見慣れないからか、妙に緊張する。
彼が眼鏡を取ってくれるのは、
自分にキスをする時と、自分の隣で眠る時。
キスされる時には、恥ずかしさから、
毎回、直ぐ目を閉じてしまって、
くすりと微かに笑う彼の声を聞くばかり。
彼の顔をゆっくり見ることができるのは、
自分の部屋に彼が泊まった翌朝、
ハルヒの隣で眠りこんでいる彼を見る時くらいだ。
鏡夜がハルヒよりも先に起きていることはまず無かったし、
凶悪に寝起きの悪い彼を、無理矢理起こすこともできなかったから、
なかば強制的に、ハルヒは彼の寝顔を見ることになってしまう。
そう、一緒に、隣で、寝ている……んだよね。
同じベッドで眠るという前科は既にあったものの、
あれは、ある種、突発的な事故のようなものだったから、
付き合い始めた最初の週末に、ハルヒの家に泊まるとなったとき、
キス以上のことはしないと宣言した鏡夜は、
あろうことか「床で寝る」と言い出した。
「駄目ですよ。先輩がベッド使ってください。
毎日仕事で疲れてるんですから。自分が床に寝ます」
と言っても、客用の布団があるわけでもなく、
クッションを集めて床に敷いて、その上にタオルケットを掛けるだけの寝床だ。
さすがにその様子を見て、ベッドサイドに腰掛けた鏡夜は眉をひそめた。
「お前こそ、そんなところで寝る気か」
「布団がないんですよ」
「だから、お前がこっちを使えというのに」
「先輩は駄目です」
といった調子で、結局、譲り合いになった挙句、
最後にハルヒが強引に、鏡夜がベッドを使うように押し切ったのだが、
「電気、消しますね」
パチリと壁のスイッチを押して照明を落とし、
ベッドの傍に戻って、床のタオルケットを手にとった瞬間に、
部屋着の裾を背中のほうに引っ張られた。
「え?」
ハルヒの身体を、鏡夜が腕を絡めて引き寄せて、
そのままベッドの中に倒れ込む。
「早い話が、こうすれば解決じゃないか?」
ハルヒと額同士をくっつけて、にっこり笑う彼の顔を見て、
どきどきしてしまう自分が、少し悔しくなる。
美しい彼の黒い瞳。
「あ、あの、鏡夜先輩……」
「これ以上は何もしない、と言っただろ?」
緊張するハルヒを落ち着かせるように、おでこに一度口づけると、
おやすみ、と囁いて、鏡夜は彼女を抱いたまま、ゆっくりその瞳を閉じた。
* * *
「私は今、鏡夜先輩の傍に居たい」
三時間にも及ぶ、長い手術が終わって、
ようやく、手術室前の扉が開いた。
「鏡夜先輩!!」
開けられた扉の奥に見えたのは、
ストレッチャーの上に横たわる鏡夜の姿と、
それを押す青い手術着の看護師が二名。
「鏡夜さん!」
芙裕美も病棟からこちらに戻ってきていて、
扉の外へ押し出されるストレッチャーに近寄ろうとする。
「すぐに個室へ搬送しますから、付き添いの方は、そちらにお越しください」
待ち構えていた白い制服の看護師二人が、
ストレッチャーを引き継いでエレベーター前へ押しながら、
その内の一人がそっけなく答える。
看護師の言葉には、まったく飾り気が無かったけれど、
その言葉は重要なことを意味していた。
すなわち。
彼が、生きているということ。
布団から出ている首筋や、頭には、
白い包帯やネットが巻かれて痛々しい。
さらに、額から眼球の上にかけては、
包帯に巻かれて顔が半分以上隠れてしまっていたから、
彼の表情はよく見えなかったけれど。
「よかっ……た……」
ハルヒは一気に力が抜けてその場に座りこんでしまった。
手術室を出てきた担当医師の話によれば、
全身の打撲や裂傷のほかに、
腹部への衝撃で内臓も一部損傷していたということで、
それが、手術の長引いた原因らしい。
細かい傷や処置の話は、専門用語が多くて、
ハルヒにはよくわからなかったけれど、
手術が成功した、ということだけは分かった。
「鏡夜君、助かって良かったね、ハルヒ」
「うん……」
座り込んだハルヒを支え起こす蘭花も、
ハルヒと同じように安堵の表情を浮かべていたが、
しかし、その中で芙裕美だけは、
神妙な面持ちで、黙りこくったまま医師の話を聞いていた。
全く返事をしない芙裕美の様子が気になって、
ハルヒが表情を伺うと、その顔に笑顔がない。
「先生」
芙裕美は凍った表情のまま問いかけた。
「弟の容態のこと。はっきり仰ってください」
医師は芙裕美の質問に即答をためらっている。
「まだ、鏡夜先輩は危険な状況なんですか?」
ハルヒもそう医師に問い詰めたが、
その不安については、医師ははっきりと否定してくれた。
もちろん、術後の経過はまだ予断を許さない部分はあるらしいが、
比較的容態は安定しており、
右足の骨折が完治すれば、また普通に歩くことも可能だという。
「……ですが」
安心できる言葉を並べたあとに、
担当医は、不意に逆説の言葉を付け加えた。
「ですが、それとは別に後遺症が残る可能性があります」
「後遺症?」
医師は淡々と事実を告げる。
「眼鏡の破片で角膜が損傷しているのと、
頭部へかなり大きな衝撃があったことが推察されますので、
視神経に異常が生じる可能性が考えられます」
「角膜……視神経……?」
専門的な身体部位の用語とはいえ、
さすがにこの辺りの単語はハルヒにも聞いたことがある。
「もちろん100%確実なことではありませんし、
あくまで可能性が高いということですが」
医師の説明に、その場に再び蘇る不気味な緊張感。
「つまり視力低下か……」
ぞわぞわと、身体を這い上がる寒気に、
ハルヒの身体は、ぶるりと震える。
「最悪の場合には、失明の恐れがあるということです」
* * *
続