『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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共に在る理由 -3- (鏡夜&ハルヒ)
自分に優しく接してくれる鏡夜に対して、ついつい遠慮をしてしまうハルヒ。* * *
高い高い壁の向こう側。
やっと乗り越えて、本当のお前の心を見ることができたあの日。
俺の目の前で眠りについたお前は、
無意識に俺の手を握り締めて離さなかったのに。
どうして、もっと素直に俺を必要としてくれないのだろう?
* * *
鏡夜は若干、機嫌が悪かった。
「……まあいい。今日は夜に会食があってそっちに行けそうにないが、
とにかく、あまり無理はするなよ」
電話を終えた鏡夜は、一度大きく息を吐き出すと、
再びパソコンの画面に目を転じて、本格的にメールの処理にとりかかった。
そこには先ほどまでハルヒと電話をしていたときの、柔らかな表情はもう無い。
今日も相変わらずスケジュールは夜までびっしりで、
その中でも今夜行われる、医療関係者の集う会食が厄介に思われた。
天気予報が当たるようならば、なるべく早くに切り上げて、
彼女のマンションに行ってやりたいところだが、
一人で処理できる業務は別として、他人が主催する行事となると、
なかなか思うように調整できないのが、現在の鏡夜の立場だ。
そんな中で、自分の一日の動きを計算して、
どうにかしてハルヒのところに行ってやれないかと、
鏡夜はあれこれ思案していたというのに、
受け手のハルヒは、そんな鏡夜の気持ちを知ってか知らずか、
相変わらず自分を表立っては頼ろうとしない様子だったので、
鏡夜の気分も萎えてしまう。
「お前はどうして……」
お前はどうして、未だに俺を頼ろうとしない?
いくら忙しくても、お前が望むのなら、
お前のためにいくらでも時間は割いてやるのに。
喉元まで湧き上がってきた言葉を、
必死で飲み込んで電話を切った後は、
なんともいえない後味の悪さが、胸の中に広がる。
傍にいてくれればそれだけでいいと、そう言ったのは自分だ。
彼女の環への想いを考えれば、
自分に遠慮する気持ちも判らなくはない。
判らなくはないが、
それにしたって、余りに一緒にいる甲斐がなさ過ぎる。
もともと無欲な性格の彼女は、
ここ二ヶ月、鏡夜の傍にいても、何か願うことは皆無だったから、
さすがの鏡夜も、どうしていいのかわからず、
かといって、こんなことを誰に相談するべきかもわからずに、
ただただ機嫌を下降させていた。
それに。
鏡夜の気分を下げる理由は、実はハルヒのことばかりではない。
目の前の机の片隅に置かれているもの。
パソコンや新聞や資料、仕事に関連した物以外の……。
「まあ、鏡夜さん。また増えているんじゃなくて? お見合いの申し込み」
「…………姉さん?」
部屋の入り口を見ると、そこには鏡夜の姉、芙裕美と、
その後ろに恐縮した様子で立っている橘の姿が見えた。
どうやら、芙裕美に押し切られて部屋に通してしまったらしい。
普段冷静な鏡夜も、意外な人物の来訪にぎょっとする。
「芙裕美姉さん、どう……したんですか。
こんな朝早くに、しかも会社に来るなんて」
「だって、鏡夜さん、最近お帰りが遅いから、
実家に帰っても全然会えないし、
お仕事中だって殆ど外出していらっしゃるでしょう?
だから、朝一番だったら鏡夜さんに会えると思って」
「何か急用でも?」
「ええ! 鏡夜さん、最近お仕事が忙しくて、
疲れていらっしゃるんじゃないかと思って、
気分転換に、昨日、下町で発見した美味しいお菓子を、
是非召し上がっていただこうと思って、お持ちしましたのよ!」
橘が、芙裕美が持参したらしい和菓子とお茶を運んできて、
来客用のテーブルの上に並べてくれて、
それを見ながら芙裕美はソファーに腰かけた。
「何の用かと思えば……」
しかし、鏡夜は依然として窓際のデスクに座ったままだった。
「まだ続けているんですか? 庶民グルメマップとやらを」
姉が会社に現れたことには驚いたが、
どうやら大した用事でもなさそうなので、
鏡夜は適当に受け答えしながら、
メールのチェックを続けることにした。
「ええそうよ。でも、やっぱり一人では寂しくて。
そうだ! 今度鏡夜さんも是非ご一緒に……」
「前にも言ったかもしれませんが、そういう無駄なことは遠慮します」
「まあ」
鏡夜の冷たい口調にも、芙裕美は気圧されることもなく、
マイペースに柔らかな笑顔を浮かべている。
「私がグルメマップを続けているのは、
鏡夜さんのことを大事に思っているからですわよ?」
「どういう意味です?」
「だって、自分が好きな相手に美味しいものを食べてもらいたいって、
そう思ってグルメを追求することは無駄なことではないでしょう?
大好きな人にプレゼントを贈って、喜んでもらいたいって、
鏡夜さんだって、そういうことはあるでしょうに」
「そんなに簡単に喜んでもらえるなら苦労はしません」
「……」
処理しなければならない仕事を前に、
嬉々として話を続ける姉の言葉に、
つい、尖った答えを返してしまって、
そんな苛立った鏡夜の答えに、芙裕美は一瞬戸惑った様子だった。
だが。
「うふふ」
芙裕美は口元に手を当てると、楽しそうに笑いだした。
「やっぱり、そうだったのねえ。鏡夜さん」
「なんですか?」
「お見合いを断っているのは、
鏡夜さんには、もう、大切な方がいらっしゃるからなのね」
滑らかにキーボードを叩いていた鏡夜の指がぴたりと止まる。
……嵌められた。
いつも優しく穏やかな口調で話す、
のんびりとした性格の人と思っていたから、
はっきりいって完全に油断していた
しかし、いくら性格が大らかに見えても、
姉も自分と同じ鳳の血をひいているのだ。
「芙裕美姉さん、俺を嵌めましたね?」
鏡夜が不機嫌そうにじろりと姉を睨むと、
芙裕美は平然とお茶を飲んでいる。
「嫌ですわ。鏡夜さんたら、人聞きの悪い。
これは、弟を想う優しい姉心というものですわよ」
* * *
続