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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

Suriya'n-Fantasy-World

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共に在る理由 -28-

共に在る理由 -28- (ハルヒ&芙裕美)

納得できない様子の蘭花を置いて、鏡夜はそれ以上、何も弁解せずに席を立った。
慌てて蘭花が彼を追いかけようとしたその直後、悪夢の光景が……。


* * *

ホスト部の部員達が連絡を取り合って大騒ぎしていた日曜日。

頭の中のファンが壊れて止まってしまったようで、
暗く沈んだ思考がまとわり付いて、
全く頭が働かない状況の中、
ぺたりと絨毯の上に座り込んでクッションを抱え、
ぼんやりし続けていたハルヒのもとに、一本の電話が掛かってきた。

今度は父親からでも、鏡夜からでも、非通知の着信でもない。

アドレスには登録はしていない固定電話の番号だったが、
その番号には見覚えがあった。

「……はい、藤岡です」
『こんにちは、ハルヒさん。矢堂です』

その上品な声を聞いて、ハルヒは無意識に姿勢を正した。

「ふ、芙裕美さん」
『お休みのところ、ごめんなさいね。今、お忙しいかしら』
「い、いいえ」

鏡夜とのことですっかり疎かにしていたが、
橘が気を利かせて連絡してくれたとはいえ、
金曜の約束を自分がすっぽかした状況は変わっていない。

「先日は急に申し訳ありませんでした」

姿も見えないのに、ハルヒは思いっきり頭を下げる。

『いいえ。その件については、きょ……、
 鳳さんの方から、ご連絡頂きましたから、何も問題はありませんわよ』
「本当は、自分からちゃんとお詫びしなければならなかったのに、
 すっかり失念していました。申し訳ありません」
『いえいえ、別に私は気にしていませんから、そんなに恐縮なさらないで』

平謝りのハルヒに対して、ふふふと優しく笑う芙裕美は、
どうやらそれほど怒ってはいないようだ。

『ところでハルヒさん、もしご都合よろしければ、
 明日、月曜日にもう一度お食事の席を設けようと思うのですけれど、いかが?』
「明日……ですか」

芙裕美の申し出を、ハルヒはすぐに受けることはできなかった。

昨日、父が来てくれて、作ってくれた食事を食べたきり、
ハルヒは何も口にしていなかい。
そして明日になれば、事務所に出社してまた一週間が始まる。
そんな日常すらも苦痛に思っている状態で、
まともに人と話しができるかどうかも判らなかったから。

『やっぱり、少々、急すぎるお誘いだったかしら……』

本当は断りたかった。

けれども、ハルヒのほうで、突然約束をキャンセルしておいて、
お詫びの電話すらしていなかったというのに、
再び芙裕美のほうからセッティングしてくれた機会を、
こんなに残念そうな声で言われては、断るわけにはいかなかった。

「いいえ……大丈夫です。お伺いします」

* * *

翌、月曜日。

芙裕美とは六時にロワグランホテルで待ち合わせをしていて、
ハルヒはタクシーで向かう途中だった。

交通事故、ですかねえ」

今までずっと無口だった運転手が、
反対車線に溜まった車の列を見ながらそう呟いた。

「そう……みたいですね」

ハルヒも窓から進行方向を眺めると、
大勢の人だかりと、丁度到着したばかりなのか、
救急車から、救急隊員が忙しなげに降りているのが見える。
事故のために、救急車の居る片側二車線のうち、
一車線が通行止めになっていて、
時間帯も夕方だったことも併せて、交差点付近は大渋滞だ。

「お客さん。この渋滞じゃなかなか、動かなそうだから、
 ちょっと回り道してもいいですかね?」

直進すればロワグランホテルまでは最短距離だったが、
確かに、遠くの信号が青に変わっても、車が流れる気配がない。

「はい、お願いします」

ハルヒが頷くと、運転手は交差点手前で脇道を左に曲がった。

交通事故……。

ハルヒは、少し前に法廷で、
交通事故の刑事裁判に立ち会ったことを思い出していた。

被告人は58歳の男性で、被害者は30歳の女性と子供が一人。
男性は事故の直後にパニックを起こし、その場から逃走。
幸い被害者は軽い怪我で済んだものの、
被害者の救助をしなかったということで、検察側からの求刑は二年。
結局、執行猶予は付かず、若干刑期は短縮したもの、実刑判決が出ることになった。

あと二年で定年退職というときになっての悪夢。

被告人の男性も、まさか自分が法廷に立つことになるなんて、
思っても見なかったのだろう。
最後に言い訳のような陳述をして、その後がっくりと肩を落としていた。

ほんの少しの注意力が欠けただけで、
普通の生活をしていた普通の人の、その後の人生が狂ってしまう。
弁護士をしていると、そんな状況に始終遭遇する。

自分は、これから一人で、
ずっとこの世界で生きていくのかな。

遠ざかる救急車のサイレンを聞きながら、
ハルヒは自問自答していた。

弁護士になろうというきっかけは、
母親の面影を追い求めていたからだった。
でも、弁護士という仕事に就きたいと思えたのは、
ずっと自分を支えてくれた父親の姿を見てきて、
自分はもっと強くなりたい、困った人を助けたいと考えたからだった。

将来の目標が決まってからは、
他人に迷惑をかけないように、自分が手助けをすることだけ考えてきた。
それは何も仕事だけのことではない。

プライベートな付き合い、例えば鏡夜とのことにしたって、
彼の心の痛みを少しでも和らげてあげたいと思って、
傍にいようと決めたのだから。

それが、彼に手を離されて、感じるこの寂しさに心は揺れる。

彼に見守られていた一年。一緒にすごしたこの二ヶ月。
目を開けて、手を伸ばせば、そこに鏡夜がいてくれる。
そして、彼の惜しみない優しさの中で、
自分が鏡夜を支えているのではなく、
いつの間にか支えられているのは自分のほうだ、ということに改めて気付く。

この先、自分は、本当に一人で生きていけるのかな。

六時ぎりぎりに、ようやくホテル前についたハルヒは、
入り口の手前で不意に足を止めた。
三日前の金曜日、遭遇した鏡夜の姿を思い出して。

思えば、あんなに激しく言い合いをしたのは
初めてではなかっただろうか。

いつも遠慮ばかりしていたから、
喧嘩らしい喧嘩なんて、それまでしたこともなく、
そこから発展して、自分は不用意に鏡夜の心を暴いてしまって、
……結局、別れることになってしまった。

あの夜を思い出すと、自然と涙が目に溜まってくる。

最上階のレストランまでは、
高速エレベーターであっという間だった。
レストラン入り口に到着し、矢堂の名前を出すと、
従業員に窓際の席に案内される。

「こんばんは、ハルヒさん」

豪華なシャンデリアの下で、窓際の席に先に座っていた芙裕美は、
ハルヒの姿に気付いて、椅子から立ち上がってにこりと笑った。

「お忙しいところ無理に誘ってしまって、ごめんなさいね」
「いえ、こちらこそ。途中で道が渋滞していて遅くなりました。
 先日も、急にキャンセルしてしまって申し訳ありません」

ここ数日ずっと考え事ばかりしていたせいか、
芙裕美に会うのが随分久しぶりに思えてしまったが、
さらに不思議なことに、彼女の笑顔が誰かを思い出させる。


今一番考えたくないのに、どうしても考えてしまう「誰か」。


「……ハルヒさん」

丁寧にお辞儀をして、上手く笑顔を作って挨拶したと思っていた。
そのハルヒに向かって、突然、芙裕美からハンカチが差し出される。

「これ、お使いになって」
「え……?」
「だって、ハルヒさん。泣いていらっしゃるから

指摘されて初めて、ぽたぽたと流れ落ちる自分の涙にハルヒは気付いた。

「す、すみません、こんな……」

慌てて自分のバッグからハンカチを取り出そうとすると、
芙裕美が近づいてきてそっと涙を拭ってくれた。

「なにか、辛いことでも?」
「……」

そのハンカチを受け取ったハルヒは、
小さく横に首を振って、目頭を押さえてなんとか涙を止めようとしていた。

「まあ、お座りになって」

おろおろしながら、ハルヒを席に座らせると、
芙裕美も向かいの席に座った。

「……お見苦しいところをお見せしました」
「なんだかこちらこそ、ごめんなさい。
 弁護士さんは、大変なお仕事ですものね。
 仕事で辛いことがある日なんて、本当は彼氏と過ごしたかったかしら?」
「いえ……その……」

二人が席についたところで、待ちかねていたように、
給仕がやってきて赤ワインをグラスに注ごうとする。
思わずワイングラスを手にとってしまうと、芙裕美がくすくすと笑う。

「グラスは置いたままでいいのよ、ハルヒさん」
「あ、そうなんですか……こういうの全然知らなくて……」

アルコールは苦手だったから、
ハルヒは口の中に含む程度だけワインを飲む。
続けてカラフルなアンティパストが二人の前に運ばれてきて、
ナイフとフォークは外側から、と、優しく教えてもらって、
ハルヒはぎこちなく料理に手を付けはじめた。

「彼とはまだ喧嘩中?」


かちゃん。

つい、ハルヒはナイフを滑らせてしまって、
皿とナイフが当たる無作法な音を立ててしまった。

「喧嘩中ではなくて……その……」

高級な料理なのは分かったが、不思議と味が感じられない。
精神的なものが、肉体的な身体の感覚も麻痺させてしまっているようだ。
一口食べたところで、ハルヒは溜息をつきつつナイフとフォークを置いた。

「……もう別れたんです」
「え?」

芙裕美は上品に食を進めていたが、
ハルヒのその告白に不可解な表情をした。

「別れた?」

小さな音が会話に割り込んで聞こえたのは、
芙裕美が聞き返してきた丁度その後。

ぶるるるる。

椅子の背もたれと背中との間に、
挟むように置いていたバッグの中から、その音は聞こえてくる。

「す、すみません、電源を切っていなくて……」

本当なら鞄ごと預けておくのが礼儀だったのかもしれない。
さすがに着信メロディが鳴るような設定には普段からしていなかったが、
携帯電話のわずかな小さな振動音でさえ、
この落ち着いたレストランの中では場違いに思われた。

「お仕事のことかもしれませんし、どうぞ、お出になって」
「本当にすみません」

表示は『公衆電話』となっている。
通話ボタンを押すと、聞こえてきた声は意外な人だった。

『ハルヒ?』
「お父さん?」

いつもなら、バーで勤務をしている時間帯のはず。
その時間に父からの電話が入ったことにハルヒは驚いて、
やや大きな声で切り替えしてしまった。

近くの席の客がちらちらとこちらを見ている。

「お父さん、どうしたの?」

咄嗟に口を手で覆うようにして、声を落としながら返事をすると、
蘭花はなんだかとても慌てた様子で捲くし立ててきた。

『ハルヒ、あんた、今どこ!?』
「どこって、いま依頼人の方と会ってて……」
『とにかく、あんた、今すぐ鳳総合病院に来なさい!』
病院って……お父さん、何かあったの?」

病院、という単語に反応して、向かいの席の芙裕美が、
眉を寄せて心配そうな顔でハルヒの様子を伺っている。

『鏡夜君が……』

その名前に、ずきっと心臓が痛くなったのは一瞬のこと。

次に聞こえてきた父親の言葉に、
鏡夜に対する後ろめたい気持ちは、全て吹き飛んでしまった。



『鏡夜君が交通事故に巻き込まれて、今、病院に運ばれたところなの!』



鳴り響くサイレンの音。

……何?

ロワグランホテルに向かう途中でみかけた救急車。
その時、耳にしたサイレンの音が蘇る。

……今の言葉、何?

すぐには父の言葉の意味が判らなくて、
ハルヒは、言われたことをなぞっていく。
一つ一つゆっくりと、自分に言い聞かせるように。



「鏡夜……先輩が……交通事故……?」



* * *

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