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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

Suriya'n-Fantasy-World

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共に在る理由 -25-

共に在る理由 -25- (蘭花&鏡夜)

蘭花が馨に電話をしたことで、ホスト部の部員達は、
鏡夜とハルヒに何かあったのではないかと大騒ぎ。そして週が明けて月曜日……。


* * *

今年は梅雨が来ないのだろうか。
雨の降る気配の無いままに、一気に暑くなり始めた六月下旬。

夏用のファンデに切り替えないと
化粧崩れが気になるわ、なんて、ぼんやりと考えながら、
そろそろ出勤の準備をしようかと思っていた矢先、
軽やかに着メロが流れてきて、
蘭花は充電台に置いてあった携帯電話を手に取った。

『お久ぶりです、蘭花さん』

聞こえてきたのは懐かしい声。

「あーら。鏡夜君じゃない、ほんとお久しぶりね。
 最近すっかり顔を見せてくれなくて、寂しいわ。
 たまには遊びにきて頂戴よ」
『申し訳ありません。今、仕事が忙しくて』

かつて、娘が所属していた桜蘭高校のホスト部の部員達は、
皆が皆、名家の子息で、社会人になった今、
その家業を継いだり仕事を手伝ったり、
忙しい日々を過ごしていると、たまにやりとりするメールで知っていた。

中でも鏡夜は、鳳グループ傘下の、
二、三社の役職を兼ねているということで、
土日昼夜を問わず働いていて、特に忙しいと聞いている。

「別に、もう学生じゃないんだし。
 接待がてら、お店に遊びに来てくれてもいいのよ?」

お店、というのは蘭花の勤務するオカマバーのことで、
さすがに鏡夜も、うっと言葉に詰まる。

『……それは、機会がありましたらその内に』

やや照れたような声で答えるのが微笑ましい。

『ところで蘭花さん。今日はご報告したいことがありまして。
 今、お時間は大丈夫ですか?』
「ええ。今日は同伴もないし大丈夫よ。で、何かしら?」
『実は、先週の土曜日に、環の墓参りに行きまして……ハルヒさんと一緒に
「ハルヒと、環くんのお墓へ?」
『はい』

環の葬式に、ハルヒが出席することはなかった。
そして当然その後、墓参りに行く様子もなかった。

そんな娘のことを、父親としてずっと気にかけていたけれど、
ハルヒの受けたショックを思うと、
無理矢理、環の墓参りに行けとは言えなかった。


この一年間、ずっとあの子が避けていた場所。


「そう……やっと、あの子、環君の前に行けたのね」
『ええ、それで、その後で……』

琴子が先に入ってしまって以来、娘と二人で生きてきて、
ずっと自分の傍にいてほしいと思っていたりもしたけれど。


『僕はハルヒさんに告白しました』


でも、いつかは、こんな日がくると思っていた。
そしてその時は、きっと自分は恥も外聞もなく、
取り乱してしまうんだろうな、なんて考えていたけれど、
不思議なことに……鏡夜の言葉を聞いて怒りも驚きも感じなかった。


ああ、ようやく、ここまで辿りついたんだ。


そんな思いの方が、驚きよりも強く溢れてきたから。

「……それで、あの子、なんて?」
『環のことを愛してると』
「そう……」
『でも』
「でも?」

聞き返すと、今度は蘭花にも予想外の答えが返ってきた。


『それでもいいから、傍にいて欲しいと、
 僕はハルヒに……ハルヒさんに言いました』



ハルヒのことを支えているようで、
本当はすがり付いていたのは鏡夜の方にも見えた、あの時。

「……鏡夜君、それって……あの子、鏡夜君のことは……」
環のことは一生忘れられないかもしれないけれど、
 それでもいいなら傍にいてくれる
と、ハルヒさんは僕に言いました』

ハルヒの肩を、反射的に握ったあの時から、
もう鏡夜の心は決まっていたのかもしれない。
あとは、自分の心を伝えるタイミングを図っていただけ。

その決意は理解らないではないけれど、
でも、その思いはあまりに悲しすぎはしないだろうか。

「鏡夜君、判ってる?」

ハルヒの気持ちはまだ環のところにあるまま。
蘭花のように、亡き妻との思い出を自分なりに消化して、
それを大切な宝として持ち続けているわけじゃない。

今のハルヒの心は、環のことだけで精一杯で、
それ以外のことを受け入れる容量は無い状態で、
それでも一緒いるなんて。

「きっと今、君が想像しているよりも、ずっと大変なことだと思うわよ?
 他の人を想う女性を、しかもその相手がもういない状況で愛し続けるのよ。
 亡くなった人の思い出は綺麗すぎるから……、
 それを抱えていくことは、頭で思っている程簡単じゃないわよ」

ハルヒの幸せだけを考えるなら、
きっと鏡夜が傍にいてくれたほうがいい、と思う。
そのほうが、ハルヒの心が癒される希望も生まれるだろうから。

でも、それはあまりに不確かな希望だ。

いつくるのかわからないその日のために、
鏡夜が自分を犠牲にすることは正しい道だろうか。

「あの子が本当に環君のことを乗り越えられるのか、
 それは、いつになるかも判らないし、
 鏡夜君の気持ちは、一生、受け入れてもらえないかもしれない」

生半可な決意で、こんなにも重要なことを決めて欲しくなかった。


「それでも、あの子の側にいる、鏡夜君に、その覚悟はあるのかしら?」


蘭花の質問に答えるのに、
鏡夜は殆ど間を置かなかったと思う。


『僕はハルヒさんを心から愛していますから』


年を取ったせいか、どうも涙脆くなってしまったらしい。
これだけ説いても全く揺らぐ気配のない鏡夜の言葉に、
蘭花は知らず知らずのうちに涙ぐんでいた。

「本当にいいのね。この道を選んで」
『はい』

くどいくらいに、もう一度、蘭花が念を押しても、
鏡夜の決心は変わらないようだった。

そっと涙を押さえると、
蘭花はすうっと息を大きく吸い込み、
それから不意に、電話口に怒鳴りつけた。


「大事な娘をどこの馬の骨かもわからない奴になんてやれないわ!」


突然の蘭花の豹変っぷりに、


『…………は?』


なんとも間抜けた声を出す鏡夜が可笑しくて、
蘭花はくすくすと笑い出した。

「やあねえ。冗談よ。ほら、昼ドラとかだと大体こういう展開でしょ?
 『娘さんをください』って言ってきた彼氏に向かって、
 父親が言う、お決まり文句ってやつ」
『…………はあ』

さっきまでの真剣な言葉とは、手のひらを返したように、
おちゃらけた調子に代わってしまった蘭花に、
鏡夜はついてこれていない様子だ。

「ま、鏡夜君相手にそんなことを言うつもりはないわよ。
 だって、ずっとあの子を見守っていてくれた君だものね」

わざとらしい演技は止めて、そう、優しく声をかけると、
鏡夜もやっと落ち着いたらしい。

「鏡夜君、あの子をよろしくね」
『……はい』

流石に鏡夜も、内容が内容だけに少し緊張していたらしい。
堅かった声がようやく柔らかくなったので、蘭花の目元も自然と和む。

「あ、でも、ちょっとまって鏡夜君。
 これもお決まりかもしれないけれど、
 これだけはハルヒの父として言わせてもらうわよ」

蘭花は、電話を切ろうとした鏡夜を引き止めて、
父親として最後に釘を刺しておくことにした。


「ハルヒを泣かせるようなことがあったら、
 いくら鏡夜君でも許さないわよ。それだけは覚えていてね」



そんなことは言われるまでもないと、
ふっと笑った鏡夜の声には余裕すら感じられた。


『はい、お約束します』


* * *

……と、あの時は自信たっぷりに言ったくせに、鏡夜君たら。

八月第三週の月曜日、午後三時。

バーへの出勤前に鏡夜に一言二言、
いや、場合によっては、もっと怒りをぶつけてやろうと、
ハイヒールの音を高らかに響かせて、
蘭花は鏡夜の働いているという、オフィスビルの前に立っていた。

お堅いスーツ姿の人間が多数出入りするその空間で、
蘭花が着用している真っ白のスーツは、
胸元が開いてボディラインがくっきりとした水商売用の派手なデザイン。
繁華街ならともかく、この場ではかなり浮いて見えるようで、
通りすぎる社員や来客が、ちらちらと、値踏みするような不躾な視線を送ってくる。

そんな周りの空気なんて意にも介さず、
蘭花は、ふんっと鼻を鳴らすと、
入り口の自動ドアを通り抜け、正面の受付カウンターに近寄った。

「鳳鏡夜をお願いできるかしら?」

見た目で女装している男、ということは分かるだろうが、
あくまで蘭花が丁寧に、上品に、にっこり笑いかけると、
受付嬢も日ごろの訓練の賜物か、
接客用の当たり障りない笑顔を浮かべて、丁寧に聞き返してきた。

「失礼ですが、お客様のお名前は?」
「蘭花よ」
「……は?」
「は? じゃないのよ、源氏名よ、げ、ん、じ、な。
 この格好見れば分かるでしょ?」

会社に源氏名を名乗る女性、
……というか女装の男性が来るという事態は、
流石にマニュアルでも研修でも教わっていないことだろう。
受付の女性社員の笑顔が引きつったのが分かる。
接客に関してはプロである蘭花にしてみれば、
これくらいのことで表情を変えているようでは相手にならない。

「ええと、蘭花様、ですね。それで、アポイントのほうは……」
「そんなものあるわけないでしょ?
 とにかく、さっさと鳳鏡夜を出しなさいよ。いるんでしょ?
 蘭花って言えばわかるから」
「しかし、アポイントもない方をお通しするわけには……」
「さっきからぐだぐだ五月蝿いのよ、あなた。
 いーい? 鏡夜君とあたしは、た、だ、な、ら、ぬ、関係なのよ。
 アポなんて必要ないんだから。いいからさっさと繋ぎなさい」

蘭花が、気の弱そうな受付の若い女性に、
ここぞとばかりに猛烈な勢いでくってかかっていると、
ビルの前に何台かの車が止まり、
そこから降りた背広姿の人間が、数人連れ立ってビルの中に入ってきて、
その中心に、長身端麗、一際目立つ容姿の男が居るのが見えた。

「あーら。呼び出してもらうまでも無かったようね。丁度良かったわ」

受付に背を向けると、その人物の進行方向に歩み寄って、
蘭花は腕組みをして立ちはだかった。

「……蘭花、さん?」

目の前に意外な人物が現れて、
鏡夜は信じられない、といったように目を瞬いている。

「どうして蘭花さんが、ここに?」
「どうしたもこうしたもないでしょう。
 私が来た意味、わからないとは言わせないわよ、鏡夜君?
「……」

眼鏡の位置を直しながら、鏡夜が心底困ったような顔をしているのは、
会社で騒がれるのが嫌だったのか、
それともハルヒと別れた直後に蘭花に会うのが嫌だったのか。

しかし、今の蘭花に鏡夜の立場を思いやる気は毛頭ない。

「ちょっとそこまで、顔かしてもらうじゃない」

親指を立てると、首をくいっと捻って、指先で外を指し示す。

「藤岡様、あの……」
「橘」

周囲も何事が起こったのかと、興味津々で遠巻きに様子を伺っている、
そのざわざわとした落ち着かない空気の中で、
蘭花と鏡夜を取り成そうと、橘が慌てて間に入ろうとしたが、
鏡夜はそれを、片手を上げて押し留めた。

「皆には、先に会議を始めておくように伝えてくれ。報告はあとで受ける」
「……鏡夜様、よろしいので?」

鏡夜はちらりと腕時計に目をやった。

「蘭花さん。あまり時間は取れませんが、
 ビルの向いに喫茶店があります。そこで良いですか」
「ええ、結構よ」

ハイヒールを履いた蘭花よりも、鏡夜は目線はやや上にある。
そんな些細なことにも苛々としながら、
通りの向かい側に渡る横断歩道の信号待ちで、
隣に並んだ鏡夜を横目で見上げて、蘭花は皮肉たっぷりに話しかけた。


「逃げない心意気だけは認めてあげるわよ?」


鏡夜は前方の赤信号を見つめながら、
何を考えているのか読めない無表情のままで、
嫌になるくらい冷静に答えてきた。


「別に逃げるつもりはありません」


* * *

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