『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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共に在る理由 -24.5- (ホスト部メンバー)
ハルヒの部屋を出た蘭花は、馨に電話をかけ、鏡夜のオフィスの場所を聞き出した。
その電話を受けた馨は……。
* * *
日曜日。嵐の前の静けさならぬ、各地の喧騒。
* * *
正午過ぎ、常陸院邸にて。光と馨の会話。
「光! 一大事だよ!」
「馨。どうしたの?」
デザイン会社との打ち合わせを終えて、
イタリアから日本に戻ってきて、やっと自宅に着いた光に、
馨が血相を変えてかけよってきた。
「ハルヒのパパさんが討ち入りを!」
「はあ? 何言ってんの? 馨」
「昨日、僕のとこにいきなり電話がかかってきてさ。
鏡夜先輩のオフィスの場所はどこかって」
「なにそれ。大体なんで馨に、
パパさんが鏡夜先輩のこと聞いてくるわけ?
そんなの鏡夜先輩に直接聞けばいいじゃん」
「だから、一大事なんだってば。
理由はわかんないけど、なんかものすごーく怒ってるみたいで」
クローゼットを開きながら、光はうーんと唸って首を傾げる。
「パパさんが怒るって……」
「ハルヒのこと以外に考えられないでしょ?」
光が帰ってくるまでかなり悩んで気疲れしたのか、
はあっと重々しい溜息をついて、馨はソファーに腰を下ろした。
そんな馨の様子を見ながら、
光は背広を脱いで、部屋着に着替え始める。
「でもさあ、馨。俺には鏡夜先輩が、
何かヘマするとは思えないんだけど。
無理矢理ハルヒに手を出すとか、そういうの在り得ないと思うし。
大体あの二人って、まだ付き合うとかまでいってないんでしょ?」
「殿のことがあるから、そう簡単には無理でしょ。
それは僕ら全員わかってることだけどさ。
だからこそ、心配なんじゃん。
なんでパパさんが、いきなり鏡夜先輩のとこに行こうとしてるか」
着替え終えた光は、困惑した表情の馨の隣に腰掛けて、
同じように溜息をついた。
「馨、とりあえず、そのこと鏡夜先輩に伝えておいたら?」
「……それはそれで、なんか怖いんだけど」
「まあねえ……鏡夜先輩って干渉されること嫌うタイプだしね」
「そうそう、しかも素直になれないタイプ」
自分達はどうなのか、ということはさて置いて、
二人は鏡夜の性格に対して散々考察を述べ合ったあと、
最終的に、二人だけでは答えを出せない、という結論に達した。
「とりあえず僕、ハニー先輩に相談してみる。何か知ってるかもしれないし」
「馨がハニー先輩にかけるなら、俺はモリ先輩にでも聞いてみようかな」
* * *
現地時間、早朝七時。(日本時間午後一時)
ヨーロッパ某国、軍事施設内にて。馨から光邦への国際電話。
『ハニー先輩』
「あ、カオちゃん。こんな朝からどうしたの?」
日本時間では正午になろうとしていたが、
時差の関係で、今、光邦が居るヨーロッパでは早朝だった。
教習中でなければ、寝ていたところだったかもしれない。
『ハニー先輩、どうしよう。
なんか鏡夜先輩がハルヒのパパさんを怒らせちゃったみたい』
朝の訓練の指導を終えて、顔を洗ったばかりの光邦は、
タオルでごしごしと顔を拭きながら、近くの椅子に腰かけた。
「鏡ちゃんがハルちゃんのお父さんを? どうして?」
『うん。昨日、僕のところに電話がかかってきて、
鏡夜先輩のオフィスは何処だって、なんかものすごく怒った声でさ』
「ふうむ……」
『ハニー先輩って、確か前、鏡夜先輩とハルヒのことで、
いろいろ根回ししてたじゃない? だから、何か知ってるかと思って』
「うーん。僕、最近ずっとこっちだからねえ」
こっち、というのは海外という意味で。
数ヶ月前からヨーロッパ諸国を次々と回っているために、
ほとんど日本に帰っていないのが、光邦の現状だった。
まあ、ここまで意欲的になっているのは、
各国の軍事演習に参加という名目で、
ヨーロッパの著名なパティシエのデザート巡りができるという、
裏の目的があったからなのだが。
「だから、最近のことは、あんまり詳しくは知らないけど。
ちょっと僕から鏡ちゃんに探りいれてみよっか?」
『うん、ちょっと僕らだと、
流石に鏡夜先輩にそのあたりのことは聞けないし。
ハニー先輩、お願い。何か分かったら教えて』
「うん、わかった。これから朝ごはん食べたら、鏡ちゃんに電話してみるね」
* * *
午後一時。銛之塚邸にて。光から崇への電話。
光からの電話が入ってきたのは、
丁度、崇が昼食を終えたときだった。
「光か?」
『モリ先輩。ねえ、ちょっと知ってたら教えてほしいんだけど』
返事をした早々に用件を言ってくるあたり、
社会人になっても相変わらずせっかちだ、と思ったが、
回りくどい言い方をされるよりは良い。
「何だ?」
短く聞き返すと、意外な質問が返ってきた。
『鏡夜先輩とハルヒって、最近何かあったとか、知らない?』
「いや、特に知らないが。どうしたんだ?」
『馨のところに、昨日、ハルヒのパパさんから電話があったらしいんだけど、
なんか鏡夜先輩のところに、パパさんが乗り込みそうな勢いだったって』
「ハルヒのことか?」
『恐らくね』
確かに、ハルヒの父、蘭花が、
いつも連絡を取り合っている鏡夜ではなくて、
敢えて馨に連絡をとったということは、
二人に何かあったのではないかと予想はできるし、
心配する光の気持ちもわからなくはない。
しかし、崇には、敢えて当事者以外が騒ぐ必要は無いようにも思われた。
「それなら、鏡夜がなんとかするだろう?」
『そうかもしれないけど、モリ先輩、心配じゃないの?
こんなの初めてじゃない。絶対ハルヒと何かあったんだって』
「仮に、二人に何かあったとしても」
光の、遠慮のない咎める口調にも、崇は冷静だった。
「それをどうするかは、鏡夜とハルヒが決めることで、
周りが何か言う必要はないと、俺は思う」
* * *
現地時間、午前八時半。(日本時間午後二時半)
ヨーロッパ某国、軍事施設内、控え室にて。ハニーから鏡夜への国際電話。
「鏡ちゃん、久しぶり~。今いい?」
『はい、構いませんが。どうしたんですか?』
電話口の鏡夜は、光邦の予想に反して、いつもと同じような調子だった。
「んとね、再来月の、十月の末頃に日本に帰るから、
また皆で集まりたいんだけど、鏡ちゃんの予定はどうかな?」
『再来月なら、今の企画も一区切りつきますので、大丈夫だと思いますが』
確か鏡夜が今手がけているのは、
大型リゾート施設のオープン準備だったはずで、
光邦も警備システムの導入などで、色々相談を受けていた。
十月に入ってからなら、身体も多少空くだろう。
「じゃあ、十月の最後の日曜日、二十八日はどう?」
『十月二十八日ですね』
カチャカチャとパソコンのキーボードを叩く音が聞こえる。
『ああ、この日は午前中にちょっと鳳関係の、
外せないパーティが入ってますが、午後は今のところ空いてますよ』
「じゃあ、そこ空けといてね。細かいことはまた後で連絡するよ」
『構いませんが……今度は一人につきホールケーキ一つ、
というのは止めてくださいね』
「えー美味しくなかった?」
『味の問題以前に、量が多すぎます』
にべもなく、ばっさりと否定してくるあたり、
一見、変わりない鏡夜の言動に思えたが、
しかし、光邦に対してここまで冷徹に言い切るというのは、
少し精彩を欠いているようにも感じる。
「うーん。じゃあちょっとその辺は考えておくね。
あ、そうだ~。ヒカちゃんとカオちゃんには僕から伝えておくから、
鏡ちゃんはハルちゃんに、このこと伝えておいてくれるかな?」
光邦の頼みを聞いた瞬間に、
ふーっという、鏡夜の長い溜息が聞こえてきた。
『……ハニー先輩、申し訳ありませんが、
ハルヒには先輩から連絡してもらえますか』
「どうして?」
『ハニー先輩には隠すことでもないので、言っておきますが。
俺とハルヒはもう別れたので。
ホスト部で集まるというなら俺は伺いますけど、
ハルヒがくるかどうかはわかりませんよ』
「え、鏡ちゃん、どういう……」
『すみません。こちらも色々立て込んでいますので、この辺で。
詳細が決まりましたら、またご連絡ください』
最後に早口で畳み掛けられ、ぷつっと一方的に切電されて、
光邦は携帯を握りしめたまま、立ち尽くしてしまった。
会話の最後に、ものすごく重大なことを、さらりと言われたきがする。
今、鏡ちゃん……ハルちゃんと『別れた』って言ったよね?
* * *
午後三時。再び銛之塚邸にて。光邦から崇への国際電話。
『……崇』
「光邦」
『聞いた?』
何の事を、誰からか、という言葉は必要なかった。
「鏡夜のことか」
『うん』
いつものふわふわとした明るい声ではなくて、
真剣に物事に向かい合っているときの光邦の口調に、
あまりよくない事態が起こっていることは予測できる。
「何があった?」
『今さっき、鏡ちゃんに電話した』
「……」
『鏡ちゃん、ハルちゃんと別れたって』
「……」
聞かされたのは想像していた中で、一番最悪な状況だった。
『二人が付き合い始めたってことすら、僕、知らなかったけど、
それから何があったんだろう。別れるって』
「それが、光が言っていたことの原因か?」
『ハルちゃんのお父さんのことでしょ。多分そうだと思う』
蘭花が鏡夜の会社の場所を聞き出したということは、
明日、月曜日にでも、会社に乗り込む気なのかもしれない。
「だとしても、俺達が何かしてやれる立場ではないだろう」
『それはそうかもしれないけど。
でも、僕はあの二人には幸せになって欲しかったのに』
「当人同士が決めたことだ」
『崇……』
光邦は不服そうだったが、こういうときは、
本人以外の人間が騒げば騒ぐほど、事態がこじれるということもある。
「今は黙って見守るしかないだろう」
以前の光と馨が、ハルヒをめぐって本気で兄弟喧嘩をしたときのように、
自分達を頼ってきたのなら支えてやればいいが、
言われもしないでこちらから、
ずかずかと踏み込んでいくのは度を超えていると思えた。
『カオちゃんに、状況が分かったら教えてって言われてるんだけど……』
「二人には何も言わないほうが良いと思う」
『どうして?』
「光も馨も悪気はないと思うが、
あの二人が動くと何かと事を大きくしがちだ。
今回は決着がつくまで黙っておいたほうがいいだろう」
『確かにねえ』
それにしても、今、光邦は海外にいて、
日本のことなんて構っている余裕はないはずだ。
自分よりは光邦の方が、
鏡夜の性格や考えを的確に理解しているのだろうが、
それでも、あまり雑念をいれて仕事に支障が出ることが心配だった。
「光邦。お前は今はそっちの仕事に集中しろ。
何かあれば俺から連絡する」
『そうだね。崇の言うとおり、状況を見守るしかないのかもね。
ごめんね……ありがとう、崇』
やっといつもの明るい声に戻った光邦に、崇はふっと笑みを零す。
『それにしても、今日の崇は割りと饒舌だね。もしかして眠いの?』
「……まだこっちは昼間だ……」
* * *
続