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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

Suriya'n-Fantasy-World

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共に在る理由 -23-

共に在る理由 -23- (蘭花&ハルヒ)

やっとつながった電話は途中で途切れ、心配になってハルヒのアパートへ向かう道すがら、
蘭花は環の事故のニュースを知る。アパートに着いた蘭花が見たものは……。


* * *

「……蘭花さん」
「鏡夜君?」

部屋の奥に進んだ蘭花が見たものは、
鏡夜のシャツをぎゅっと掴んで、
彼に抱きつくようにして倒れているハルヒと、
壁際に腰を下ろして、壁に寄りかかりながら、
その肩をそっと抱きとめている鏡夜の姿だった。

「鏡夜君? ちょっと、何してるわけ!?」
「……蘭花さん……その……これは……」

大声を上げた蘭花は、
ハンドバッグと新聞を床の上に放り投げて二人の傍に屈みこむと、
ハルヒの腕を掴んで、鏡夜から引き離そうとした。

しかし、鏡夜の胸に顔を埋めているハルヒの表情を見た途端、
蘭花の動作は止まった。

「ハルヒ?」

泣き腫らした瞼をぎゅっと閉じて、憔悴しきった顔で眠る娘の横顔。

「すみません。放っておくとふらふらと歩きだして、
 その……暴れるものですから……仕方なく……」

さすがに蘭花の前で、
ハルヒを抱きしめていることに抵抗を感じたのか、
鏡夜はハルヒの身体を押しやって、蘭花の腕に預けようとした。

しかし、ハルヒの手は鏡夜のシャツをしっかりと掴んだままで、
無理やり剥がしたら起こしてしまいそうだ。

「ハルヒ、眠ってるの?」
「ええ、泣き疲れたみたいで」

答える鏡夜のほうも、かなり疲れた表情をしている。
前髪はセットも何もあったものではなく、ぐちゃぐちゃで、
ハルヒにしがみつかれているシャツはシワが出来てよれてしまっていた。

「すみません、こんなところをお見せして」
「こっちこそ、御免なさいね、つい……かっとしちゃって」

蘭花の背中越しに転がっている新聞に
ちらりと視線を向けて、鏡夜は呟いた。

「新聞、ご覧になったんですね」
「ええ。飛行機事故の乗客リストに
 須王環って名前が乗っていたけど、これって、環君のこと、なの?」

嘘であってくれればという小さな希望を抱いて
蘭花は問いかけたのだが、その願いは即座に裏切られた。

「昨日の十時過ぎくらいに、環の事故のことが分かって、
 それで、俺はハルヒにそのことを伝えようと思って……ここに来たんです」
「昨日の夜に、わざわざ都内からここまで?」
「……はい」

壁の時計は午後三時少し前を指している。
昨日の夜、到着したとして、もうかれこれ半日以上経つ計算だ。

「じゃあ鏡夜君、昨日からずっとここに?」
「本当は蘭花さんにすぐにご連絡しなければ、と思っていたんですが、
 ……とても、連絡できる状況ではなくて」

ハルヒからの電話。そして事故の一報。

昨日の夜から今日にかけて起こってしまった、
最悪のニュースの経過を鏡夜から聞いて、
その重みに、蘭花の心は締め付けられていく。

「なんで……環君がこんなことに……」

環の事故がニュースで流れた直後のハルヒは、
辺りも構わず絶叫したという。
いつもならとても信じがたい行為でも、
今の娘の様子を見れば、それが嘘でないことは判る。

「馬鹿ですよ、あいつは」
「鏡夜君?」

ハルヒのことばかり気になっていたから、最初は分からなかったが、
鏡夜の様子も、どことなくおかしい。
表向き冷静ではあったけれど、
言動一つとってみても、普段の上品さがやや欠けて、
蘭花には、普段通りの鏡夜の状態とは、到底思えなかった。


「ハルヒを置いていくなんて、あいつは本当に……馬鹿な男です」


震えた声だったが、彼の目に涙は無い。

「鏡夜君。君は大丈夫なの?」

かなり疲れていうのか、ぼうっとしていた鏡夜の目が、
一瞬だけ、大きく見開かれて、

「俺は……」

宙を泳いだ視線は、自然と目の前のハルヒに向けられていた。

「……少し混乱しているのかもしれませんが。
 何とか、大丈夫だと思います」

答える鏡夜の指先が、ハルヒの肩をぎゅっと握る。

その動きは意識してのものではなかっただろう。
とても小さな動作だったけれど、蘭花はそれを見逃さなかった。


『とても、連絡できる状況ではなくて』


彼はさきほどそう言った。

最初に聞いたときは、
環のことで我を忘れてしまったハルヒの状態のことを
言っているのだと思っていた。

でも、それだけじゃない。

きっと、同じだ。
今の鏡夜は、妻に先立たれた、あの時の蘭花自身と。


『おとうさん。もう、おかあさんには、あえないの?』


幼い日のハルヒの声が蘇ってくる。

琴子を救うことのできなかった自分なんて、
消えてしまえばいいとも思った。
琴子がいないのに、なんで自分は生きているんだろうと思った。
世界の全てを呪って、壊れてしまいたいと思った。自分を囲む世界ごと。

でも。


『おとうさんがいるから、さびしくないもん』


握れば潰れてしまいそうなほどに小さい華奢な手が、
寄り添ったその体温が、傍で微笑むその存在が、
その日から自分の生きる意味になった。


鏡夜君。君もこの子に救われた……?


「蘭花さんも来てくださったことですし、俺はそろそろ……」
「鏡夜君。ハルヒのこと、もうちょっと見ててくれる?」
「え?」

意外な申し出に呆気にとられている鏡夜を背に、
蘭花は部屋を見渡して、ハルヒのバッグを見つけると、
中に入っていた財布の中から、学生証を抜き出した。

「あたしは大学の事務局から卒業証書を受け取ってくるわ。
 だから、その子が起きるまで、傍にいてあげて」

動くとハルヒを起こしてしまいそうになるからだろう、
立ち上がることができない鏡夜に、
床に転がったハルヒの携帯電話を手渡して、蘭花はにこりと笑った。

「何かあったら連絡して。ハルヒのこと頼んだわよ」
「あの、蘭花、さん?」

うろたえる鏡夜を残して、外に出た蘭花は、
大きく肩で息をして、それから晴れた空を見上げた。


琴子。


鏡夜がハルヒを抱きしめているその姿を見たときに、
すこしかっとなってしまった感情の下で、本当は少し安心もしていた。


琴子、ちゃんといたわよ。あの子にも。
心が折れそうなときに、それを支えてくれる相手が。


すぐには無理かもしれない。
失うということはとても大きなことだから。
けれど、二人が、お互いのその存在とその価値に気付いたら、
きっとその先に進んでいけるはず……。

* * *

一年半前の卒業式の日、
ハルヒのアパートで二人を見たときに、
きっとこの二人なら、いつかお互いの心の隙間を埋め合って、
生きていけるだろうと、蘭花は、そう信じて疑わなかった。

そして、鏡夜がハルヒへ告白したことで、
二人の関係は、少しずつ前に進んでいっていると思っていた。

それなのに、鏡夜はハルヒに別れを告げたという。

「あんた、どうせ、まだ何も食べてないんでしょ? 
 久々にお父さんが何か作ってあげる」

無理矢理押しかけて、呼び鈴を連打した挙句、
なんとか外に出てきた心ここにあらずの娘を、
とりあえずリビングのクッションに座らせて、
蘭花は手際よく冷蔵庫のものを取り出して、食事の準備を始めた。

「とりあえず少しでも食べなさいね。食べないと、心にも良くないわよ」

テーブルに食事を並べて、強引に促すと、
ハルヒは、躊躇いがちに少しずつ手をつけ始める。
一晩中泣いていたのだろうか、娘の真っ赤な目をみて、
蘭花の心に沸々と、鏡夜に対する怒りがこみ上げて来た。

「どう? 美味しい?」
「……お父さん」
「ん?」

向かいに座って同じように食事を摂っていた蘭花に、
ハルヒが声をかけてきた。

「どうして、いつまでも、忘れられないのかな」
「それは……環君のこと?」

黙ったまま、こくりと頷くハルヒ。

「もしかして喧嘩の理由って、環君のことで?」
「鏡夜先輩が傍にいても、いつまでも忘れられないから……」
「でも、鏡夜君はそれでも良いって覚悟を決めてたみたいだけど」

そう、彼は自分に言ったのだ。

ハルヒのことを愛しているから、
環のことをハルヒがずっと忘れられなくても、
それでもいいと堂々と宣言していたはず。

なのに、この体たらくは何よ!

「口先だけだったなんて思いたくないけど」

むかむかとした気分をそのまま言葉に乗せた蘭花に、
ハルヒは首を横に振る。

「鏡夜先輩は悪くない」

食事は半分以上残っていたが、食べる気力もないのだろう、
ハルヒは箸を置いてしまった。

「鏡夜先輩が無理をしていることに気付いちゃって……、
 先輩はそれをずっと隠そうとしていたのに、
 そんな先輩を見ているのが辛くて、我慢できなくて、
 それを……先輩に……言っちゃって……」

ハルヒの言葉に、蘭花は大袈裟に溜息を吐いた。

「それで別れると鏡夜君が言い出した、ってわけ?」

お互い必要としているはずなのに、お互いのことを思う余りに、
その優しさが二人の関係を壊していく。
蘭花に言わせれば、不器用も甚だしい。

二人の心の傷を思えば、それも仕方ないことなのかもしれないけれど、
それでも、やっぱり許せない。

ハルヒが環のことで傷ついていて、
そこから抜け出すことが難しいことは、十分に判っていたはずで、
こういう事態も、全て覚悟していたのは鏡夜の方ではなかったのか。
それなのに、何故、彼がハルヒに別れを告げるのか。

「忘れられたら、楽だったのに」

鏡夜に対する怒りで一杯になり始めた蘭花の耳に、
ぽつりと呟いた何気ない娘の一言が飛び込んできた。

「環先輩のことを忘れられたら良かったのに」

突然の娘の発言に、
心の奥底に爪を立てられたような不快な気分になって、
蘭花は眉根を寄せた。


「『忘れてしまった』ほうが『幸せ』?」


急に非難するような調子に変わった蘭花の声に、
ハルヒはびくっと身体を強張らせた。

「本当にそうだと思う?」
「お父さん……」

蘭花はテーブルに頬杖をつくと
すうっと目を細めて、ハルヒの顔を凝視した。



「亡くなった人のことを、忘れなきゃ幸せになれないなんて、
 お父さんはそうは思わないわ」




* * *

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