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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

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共に在る理由 -21-

共に在る理由 -21- (蘭花&ハルヒ)

立ち去る鏡夜を追いかけることもできず、ハルヒは眠れぬ夜を過ごす。
翌朝、気力を失って茫然としていたハルヒの元に、父、蘭花から電話がかかってきて……。


* * *

「本当に良かったの? お父さん」

埼玉の司法修習所近くに借りていたアパートを引き払うため、
引越しの準備をしている娘のもとに手伝いにきて、一休みしていると、
娘、ハルヒが冷えたウーロン茶をグラスに注いで運んできた。

「就職先の事務所は都内だし、またそっちに戻ろうと思ってたのに」
「ん~」

グラスを渡しながらそう聞いてきた娘を見て、
けだるそうに蘭花は返事をした。

いつもは完璧なメイクと派手なスーツできっちり決めているのだが、
今の蘭花といえば、頭に白いタオルを巻いて、
胸に「父」と大きくプリントされた白いTシャツを着ている。

「あそこは元々、幼稚園が近くって、静かな住宅街ってことで探したから、
 あんまり駅に近くないでしょ? 
 琴子もあそこから事務所に通ってたけど、結構大変だったみたいだし」

蘭花は、差し出されたウーロン茶を、
ごくごくと美味しそうに飲みほすと、
手の甲で口を拭って、ふうっと大きく息をついた。

「だから、お父さんも一緒住めるところを探そうって言ったじゃん」
「確かにあそこはオンボロ安アパートだけど、
 住めば都ってね。あたしはあの家で十分なの」

引っ越したくない本当の理由は。

「ま、これからあんた社会人になるんだし、
 いい機会なんじゃない? 親元から離れるのも」

亡き妻との思い出が沢山詰まっている、とても大切な場所だから。

けれども、本当の理由を目の前の娘に教えてやる気はない。
正直、今のハルヒに、いなくなってしまった人のことを想い続ける姿を、
連想させるようなことは、極力言いたくなかった。

「でも……」
「ハールーヒ!」

しゅんと俯いて隣に座っているハルヒのおでこを、
空になったグラスの底で小突く。

「あたしのこと心配してくれるのは嬉しいけど、
 お父さんは一人でも大丈夫だから。それに……」

本当は一年前に環君がいなくなったときに、気付いたことがある。

「それに?」
「え、あ、うんうん、それにね。
 いい加減あたしも、子離れしないとダメかなって、そう思ってるの」
「何、慌ててるの?」

きょとんとした目で自分を見ている娘をみて、
蘭花は、はっと気付いて手を横に振った。

「慌ててなんて、全然、そんなことないわよ? お父さんいつも通り~」
「ふうん。なんか変なの」

そう言ってくすくす笑う娘の笑顔は、
一見以前と変わらないように見える。

でも、本当は知っている。

その笑顔も、何気ない仕草も、ただの演技。
ふとした瞬間に、娘の視線が遠くを見ていることに、
蘭花はとっくに気付いていた。

「さて。あともうちょっとで、細かいもの以外は終わりそうね。
 ひと段落したら、何か美味しいものでも食べにいこっか」
「うん、そうだね」

グラスを受け取って流しに片付けにいく娘の後ろ姿を見ながら、
蘭花はハルヒに聞こえないように小さく溜息をついた。

一年前のあの日以来、ハルヒの時間は止まったまま。

もともと感情の起伏が少ない子ではあったけれど、
その中でも特に恋愛感情については、
全くと言っていいほど疎かった、あの子が……。


「失う」ということで、やっとその感情を知った。


一度その感情を覚えてしまえば、望むにしろ望まないにしろ、
きっといくらでも翻弄されてしまう、それが恋愛の恐ろしさ。
それまで経験したことのない、その心の痛みに、
一人になりたい夜も、これからいくらだって出てくると思う。

そんなときに、あんな小さなアパートに、
いつまでも父親と一緒に暮らしてたら、
周りの人間のことを、無意識に気遣うハルヒことだ。

一人で泣きたいほど辛くなっても、
きっと、素直に泣くこともできないだろうから。

母親の琴子が逝ってしまった時は、自分が支えてやることも出来た。
支えられていたのは、厳密に言えば自分のほうだったかもしれないけれど。
でも、おそらく、今、娘が感じている心の痛みは、
母親が亡くなったときと同じようにみえて、けれど異質なもので、
それは、父親が癒してやれる類のものでは無い。

それを癒すことができるのは……。

「じゃあ、お父さんはそっちお願いね」

戻ってきたハルヒに促され、蘭花はにっこり笑って、
Tシャツの袖を肩まで捲り上げると、自信ありげに頷いた。

「わかったわ。お父さんにまかせなさい!」

再び片付けを始めた蘭花は、
押入れの下段の荷物を表に出していたのだが、
その手が、押入れの一番奥に入っていた平べったい包みに触れた。
ひっぱりだしてみると、和紙で出来たその白い包みは、
端っこが3箇所、紐で留められていた。

これは……着物の包み?

気になって紐を解くと、中には、薄紅色の着物とそして袴が一式、
きちっと畳まれて納められていた。

* * *

大学四年間を無事修了し、
今日、娘がいよいよ大学を卒業する。

三月。うららかな春の良き日に、
天気は快晴で絶好の卒業式日よりだ。

卒業式の会場に一緒に行くということになって、
大学の門の前で、蘭花はハルヒと待ち合わせをしていたのだが、
主役の娘がなかなかやって来ない。

普段の仕事用の派手なスーツではなく、
モノトーンのシックなスーツに身を包んだ蘭花は、
時計を見ながら腕組をして、娘、ハルヒの到着を待っていた。

「遅いわねえ。一時に正門の前で待ち合わせって言ってたのに」

最初、卒業式に着る袴はレンタルでと考えていたところ、
常陸院の双子達が、ハルヒの卒業式に来れない代わりに、
特注で着物と袴を、卒業祝いに一式プレゼントしてくれたと聞いた。

娘の晴れ姿、もとい、袴姿はさぞかし可愛いだろうと想像しながら、
蘭花は人ごみに目をやるが、ハルヒの姿は見当たらない。

多少の遅刻はこの人ごみなら仕方ないにしても、
待ち合わせの時間から二十分ほどが経過して、
流石に心配になった蘭花は、ハルヒの携帯に電話を入れることにした。

とぅるるるる。

「おかしいわね」

電波は入っているらしく、コールは繋がるものの、
一向に出る気配のない呼び出しを一旦切る。
もしかすると、電車で移動中なのかもしれない。
蘭花は五分程待ってから、もう一度、娘の携帯電話にかけてみた。

とぅるるるる。

今度もダメかと思っていると、
五回目か六回目のコールで、電話口にやっと相手が出た。

「あ、ハルヒ? お父さんよ。あんた今どこにいるの? もう、私は大学の前……」
『蘭花さん』
「え?」

ハルヒの携帯にかけたはずなのに、帰ってきたのは男の声で、
一瞬、蘭花は顔を顰めたが、
聞いたことのあるその声の主に、すぐ思いあたった。

「もしかして……鏡夜君?」
『はい』

鏡夜からはハルヒが桜蘭学院に入ったころからよく電話をもらっていて、
いつでも落ち着き払った様子で話してくれるのが好印象だったのだが、
今、電話から聞こえくるのは、内緒話でもしているかのように小さな声だった。


「どうして、ハルヒの携帯に君が?」


* * *

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