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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

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共に在る理由 -20-

共に在る理由 -20- (ハルヒ&鏡夜)

自分が傍にいることで、余計にハルヒを苦しめてしまうと気付いた鏡夜は、
自ら彼女に別れを告げることを決意する。彼の言葉を聞いたハルヒは……。


* * *

小さい頃から、自分のことを男手一つで育ててくれた、
父に心配をかけないようにしなきゃ、と考えていたら、
知らず知らず感情は余り出さないようになってしまった。
いつの間にか刻み込まれていた習性だったから、
これまでそんなに無理をしてきたつもりも無かったけれど、
心にいくつもいくつも、耐えきれないほどの痛みを覚えて、気付いたことがある。

哀しいと感じた時に、恥も外聞も無く、
素直に大声で泣くこともできないのは、とても寂しい習性だ、と。

「これで、さよならだ」

最後に聞いた彼の言葉に、ハルヒが何か答える前に、
通話はぷつりと途切れてしまった。

今、追いかければ。

扉の向こう側。立ち去っていく彼。
その背中、その表情、その気持ち。
全てを想像して、咄嗟に玄関の取っ手に手をかけて。
でも、それに続く一歩が出ない。

今、追いかければ、まだ間に合う。

頭の中でシグナルは点滅しているのに、
指先にそれが上手く伝わらない。

今、この扉を開けて追いかければ間に合うのに、
どうして、この身体は動かないんだろう。

金縛りにあったように扉の前で硬直したまま、
時間だけが無情に経過していく。

大体、今更……追いかけたところで……。

取っ手を握り締めていた指先から力が抜けていく。


追いかけて、それから、どうするの?


一緒にいると決めて、手を取り合ったあの時、
僅かに、ほんの僅かに歪んでいて、
違う方向を向いていた二人の感情の線が、
前に進むに従って、やがてゆっくりと距離を離していった。

その距離を、知っていて気付かれないよう装っていたのが鏡夜で、
その距離に、気付いてしまったことに耐えきれず、はっきり口にしたのは自分だ。

追いかけて、追いついたとして、
その時、自分は彼に何を言えるだろう。

何も言えるはずがない。

曖昧な心のままで彼を受け入れて、
耐え切れなくなった思いをぶつけて、
そしてついに、彼に別れを言わせてしまった。

きっと、鏡夜には判っていたのだ。

恋愛に疎い自分が、その感情に初めて気づいたとき、
失ってしまったその相手に対して罪悪感に苛まれて、
強いと思っていた自分の心はいとも簡単に砕けてしまった。

自分の心はそんなにも脆いものだから、
そんな罪悪感をもう一度抱かせることのないように、
敢えて向こうから、手を離してくれたのだ。

それが、彼の最後の優しさ。

ハルヒはふらふらと部屋の中に戻り、ベッドの上に倒れ込むと、
手の指を開いて、中に光る小さな鍵を、ぽとりと目の前に落とし、
それをぼんやりと見つめながら、思った。


これで本当に全てが終わってしまったんだ、と。


限界に近づいていた心の負荷が、ここで一気に涙に変わった。

* * *

……朝?

カーテンの隙間からの光が白くなっていることで、
夜明けが訪れていることに気付く。

彼に言われた言葉と、言ってしまった言葉が
何度も何度も思い出されて、結局、ほとんど眠れていない気がする。

昨日の夜の鏡夜は、ハルヒが言ったことを全て受け止めてくれた。
そして、その上で別れることを選んだ。
だから、ハルヒにとっては、
自分が引き起こした結末を受け入れて、自分の心を納得させたら、
それで、全て済んだことだったのかもしれない。

けれど、頭で理解していても、
まだ状況は自分の心に消化しきれていない。

今日、仕事が休みで良かったと思う。
流石にこの状態では起き上がる気にもならないから。

一緒にいてあんなにも苦しかったのに、いざ別れを言われて悲しんでる。

矛盾している、とも思いながら、
ハルヒはベッドの上にただ寝転がり、
昨日の夜のことを、ただただ思い返してしまっていた。

ぶるるるる。

気力を失って、抜け殻のように倒れていたハルヒの元に、
お昼を過ぎた頃、携帯電話の着信が入ってきた。
一瞬、胸がどきりとしたが、画面に表示されている名前は、
頭の中をちらりと過ぎった名前とは別の人物だった。

『やっほーハルヒ』

聞き慣れたハスキーボイスが聞こえてくる。

『今日は土曜日でお休みでしょ?
 昨日、お得意様から美味しい苺ケーキもらったから、
 甘さも控えめだしハルヒも食べるんじゃないかと思って、
 これからお父さん、そっちに行ってもいい? お邪魔じゃなければだけど』

電話の主は、今は別々に暮らしている父、蘭花だった。

「……おと……さん……?」

ハルヒは何事もないように装って返事をしようとしたが、
昨日からずっと泣いていたこともあって、
上手く声を出すことができなかった。

『あら、どうしたのハルヒ。声が掠れてるけど、風邪引いた?』
「………かぜ…じゃ………なく……て…」

温かな父の声が、今日はやけに心に染みる。
心配はかけまいと、いつも通りに蘭花の言葉に答えようとしたが、
いつも通りと思えば思うほど、涙が喉を塞いでしまう。

『何、ハルヒ。あんた、もしかして泣いてるの?

悟られない様に必死で押さえていたはずなのに、
気づかれてしまったようだ。

『どうしたのよ、何があったの?』

父親から優しい言葉をかけられれば、
もう涙を堰き止めるものは何も無い。
ハルヒは布団を被ったその下で、
携帯電話を握り締めて、泣きじゃくり始めた。

『仕事で何か辛いことでもあった?』
「……」
『それじゃ……そうだ、鏡夜君と喧嘩でもしたとか?』

蘭花の指摘に、受話器の持つ手がびくりと震える。

「なんで……きょ………い……とのこと……知っ……」
『そりゃ、父親ですもの。
 鏡夜君から、貴方とのことはちゃんと報告受けてるわよ』

蘭花はいつものように軽い口調で、
ハルヒの照れた返答を期待しているようだ。
けれど、今、一番聞きたくなかった名前を指摘されて、
ハルヒには返せる言葉がない。

『でも、本当に喧嘩なの? 何があったの、鏡夜君と』

徐々に強く、そして真面目な口調に変わっていく父の声。

「きょや、先輩、………て」
『え?』
「鏡夜、先輩……自分とは……もう別れるって」
『…………なん……ですって?』

蘭花が電話の向こうで息を飲んだのが分かった。

『ちょっと、どういうことよ、それ。
 別れるって、それ鏡夜君が言ったわけ?』

でもね、違うの。お父さんが怒る必要なんてない。

「……違う……」

悪いのは、自分。

『何? ハルヒ、何て言ったの?』

鏡夜先輩は、悪くない。

「……鏡夜先輩は……何も……」

鏡夜先輩は、何も悪くない。ただ、優しく接してくれていただけ。

『ハルヒ? 鏡夜君がどうしたの? ハルヒ、聞こえてる?』

その優しさを利用して、二人の関係を壊させたのは、自分だ。

『ちょっと、聞いてるの?』

鏡夜への想いはいくらでも沸きあがって来るのに、
どれも全く言葉にならなくて、
ハルヒは今の状況を全く説明できないまま、
ついに唇をきゅっと結んでしまった。

『あーもう!』

何度、心配そうに呼びかけられても、
全く答えを返さないでいると、
電話の向こうで蘭花が苛立った大きな声を出した。


『とにかく! これからお父さんそっちにいくから、
 ハルヒ。あんた、そのまま部屋に居なさいよ!』



* * *

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