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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

Suriya'n-Fantasy-World

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共に在る理由 -19-

共に在る理由 -19- (鏡夜&ハルヒ)

鏡夜はハルヒの部屋の前までやってきたが、ハルヒは玄関の扉を開けてはくれなかった。
冷たい扉を隔ててそこに居る彼女。鏡夜は電話越しに静かに彼女に語りかける……。


* * *


俺の心はお前だけのものだから……たとえ、この先、進む道が別れても。


* * *

『すみません。今、自分はどんな顔をして先輩に会ったらいいか、
 わからなくて……』

鏡夜は漠然と、このハルヒの答えを予期していた。
最後の最後に彼女に向かい合えないことに、寂しさがないわけではなかったが、
けれど、面と向かってしまったら、決心が揺らぐかもしれない。

だから、このままでいい。

「それを、返しておく」

自分の指先から離れた小さな鍵が、
ポストの中へと落ちて跳ね返る音が聞こえる。

『ずっと持って……いたんですか?』

占いとか不確かなものなんて信じる性格ではないけれど、
あの日、お前が俺の傍に居てくれると決めてくれたから、
以来お守りのように、ずっと胸ポケットに忍ばせてきた。
お前がずっと傍にいてくれるように、ただ、それだけを願って。

「だが、もう、俺には不要なものだ」

ハルヒ。

あの日、この部屋で起こった全てのことを、
留めていたこの記憶の欠片は、ちゃんとお前に返しておく。

だから、この二ヶ月のことは、ただの夢物語として、
さっさと忘れてしまってくれていい。

「今まで、俺の勝手ばかり押し付けて、すまなかった」

驚くほど穏やかな気分だった。

「もう……終わりにしよう」

これが最後だと、夢から覚めようと決めてからは、
一気に視界が開けたように、
今、鏡夜の心の中はとても静かだった。

むしろ、ハルヒと一緒に居たこの二ヶ月のほうが、
彼女の傍にいられる嬉しさの反面、常に怯えていたのかもしれない。


彼女を失ってしまうかもしれないという、漫然とした恐怖に。


「ハルヒ、この二ヶ月お前が側にいてくれて、俺は幸せだった。
 だが、お前が言った通り、
 俺はただの偽善で、環のことを受け入れていただけで、
 本当はお前にずっと、俺のことだけ考えていて欲しかった」

聞いているのかいないのか、電話の向こうは沈黙のままだ。

今日、ロワグランホテルの前で会ってから、
いや、それよりもっと前、おそらくはあの青空の下で、
鏡夜を受け入れてくれて以来、
こういう結末はある程度予感できていたとも思う。

それでも実際に別れを決断して、それを伝えれば、
少なからずショックを受けもするだろう。

だが、ハルヒ。お前が気にすることなんて何もない。

お前が俺に対して言ってしまったことで、
今後、何一つ気に病む必要がないように。
お前の苦しみは、今から俺が全て持っていく。

「だが、お前はやっぱり環のもので、俺のものにはならないと、
 さっきお前に言われた言葉でようやく分かった」

さっき、車の中でお前に言われた言葉は、全て真実だと認めて、
俺に対するお前の心の負担は、俺が今日その全てを持っていくから。

「俺はお前を救いたかった。お前に笑っていて欲しかった。
 だから、一緒にいようと思った。
 でも、お前は俺といて苦しいんだろう?
 いつだって遠慮をしていて。俺の傍にに居ることが辛いんだろう?」

答えはもう分かっている。

『……それは……苦しかった……です……でも……』

か細い声がやっと聞こえてきて、
彼女がまだ電話を繋いでいてくれていることがわかる。

「俺は、お前を救うために一緒にいたんであって、
 あんな風な顔をさせて、あんな風にお前を苦しめるために
 一緒にいようとしたわけじゃないんだ」

ハルヒ、お前はこれ以上苦しむな。

「だから、もう、俺の傍にいる必要はない」

お前は俺と一緒にいることを確かに選んでくれた。
けれど今は、あの日、俺の手を取ったことを悔いている。
苦しさと切なさが混ざり合った感情に責められて。

それは他でもなく、俺の独占欲のせいなのだけれど、
それでも、お前は心を痛めるだろう。
こんな状態まで、お前を追い込んだのは俺だというのに、
環の事故の後、あいつに想いを伝えられなかったことを悔いて、
ずっと心を閉ざしてしまったお前だったら、
きっと、一度選んだ俺の手を、
お前から振りほどくことに、罪悪感を覚えるかもしれない。



だから、俺からその手を離す。




「お前はもうこの先、俺のことを一切考えなくていいから……」
『鏡夜先輩……』

ハルヒ。

苦しむお前に、俺が最後にできることは、
俺から別れを告げて、お前を解放してやることだけ。

「ハルヒ……だから……これで」

一瞬、鏡夜はぎっと歯を噛み締めて、それから最後の言葉を口にした。



「さよならだ」



そして、彼女の返事を待たず、鏡夜は携帯電話を切った。

電話を終えて目の前の扉を見つめても、
そのドアが開く気配もなく、
そして、その向こう側にいるだろう、彼女の姿も声も分からない。

鏡夜は小さく溜息をつくと、
これで良かったんだと、自分を納得させて、
ハルヒの部屋の前を立ち去った。

ハルヒ。

俺はお前のことが何よりも大切で、本当に心から愛している。
だから、お前が苦しんでる姿を、
このまま見ていることなど到底出来ない。
お前が俺といて辛いというのなら、この先、一緒にはいられない。

ハルヒ。

できることなら、俺が幸せにしてやりたかったけれど。



別れることでしか、お前を救ってやれなくて、すまない。



彼女の家を後にする、その車の中で、
鏡夜は一回、携帯電話を開くと、
アドレスから『藤岡ハルヒ』の名前を呼び出す。

今まで何度も何度も彼女に電話をかけ、メールを送った、
その慣れ親しんだ番号。

一瞬、躊躇した後で、きゅっと口を引き結ぶと、
鏡夜は彼女の名前をアドレスから完全に削除した。

彼女への自分の心に、ひとつの区切りをつけるために。

* * *

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