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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

Suriya'n-Fantasy-World

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共に在る理由 -15-

共に在る理由 -15- (ハルヒ&鏡夜)

久しぶりに再会した鏡夜に、終始、素っ気無い態度をとっていたハルヒだったが、
彼の言葉に、「見え透いた嘘は要らない」と、徐々に感情を顕わにして……。


* * *


どうしてあの時、私はあなたの手を取ってしまったのでしょう。


* * *

鏡夜先輩。自分は……気付いてしまったんです。

鏡夜の言葉に答えている現実の自分の姿を、
心の中の別の自分が冷静に傍観している。

無理矢理車の中に押し込まれ、当てもなく走り出したその車内で、
一見、落ち着き払った様子で、ハルヒは鏡夜との会話に応じていた。

「俺の恋人はお前だろう? 
 ここ最近、連絡をしなかったことを怒っているのか?」

確かに鏡夜から連絡が無いことは、
仕事中も、家に居ても、ずっと気になっていたけれど、
そんなことを怒っているわけじゃない。

「大事な取引先の社長の娘をエスコートするのは仕方ないだろう?」

鏡夜の家の事情や、会社での立場は、
説明されなくても、十分判っていることだし、
自分は別に、変に勘違いをして、醜い嫉妬をしているわけじゃない。

「お前はさっきから何を言いたいんだ?」

生まれたときには誰も皆、言葉一つ分からないのに、
それから成長して、他人に自分のことを伝える手段として、
言葉を、感情表現を、少しずつ覚えていく。

もう、たくさんの言葉を覚えたはずだ。

それなのに、大事な人に向かって、自分の本当の気持ちを伝えたいと、
強く意識した瞬間に、きちんと覚えたはずの言葉が、
自分の手に負えない道具になってしまうのは何故だろう。
扱い方は、もうすっかり、身に付けていたと思っていたのに、
届けたいと願う感情は、強ければ強いほど、それを正確に伝えることが難しくなる。

あんなにたくさん持っていたはずの、
自分の心を示す言葉達は、一体、何処へ行ってしまったのだろう。


『伝えもしないで分かってもらおうなんて無茶な話です。
 はっきりした思いがあるのに先延ばしにする理由がどこに?』



高校の時に、ホスト部を訪れた不器用な恋人達が、
お互いの想いを上手く伝えられず、すれ違っていたとき、
自分は確かそう言って、二人を厳しく励ました。

けれど、あんな風に自信を持って言い切れたのは、
きっと、あの頃の自分には、
それほどまでに切ない想いを伝えたい相手がいなかったから。

だからこそ言えた台詞だろうと、今、振り返ればそう思う。

本当に大事な相手の目の前に立てば、
緊張して何も言えなくなったり、自分の心と違う言葉を発してしまう。

言葉は心を映すレンズであっても、決して心そのものではないから。

そのレンズにほんの僅かな歪みがあるだけでも、真実の姿は捻じ曲がる。
そして捻じ曲がった真実を修正しようと、いくつも言葉を重ねても、
レンズが重なれば重なるほどに、画像はどんどんぼやけていく。

何かを伝えたいから覚えたはずの言葉が、
その言葉を使うことで、どんどん歪んでしまって、
本当のことが一番大切な人に伝わらないなら。


言葉を連ねることに、何の価値があるのだろう。


「先輩は、自分に同情して『傍にいてくれ』なんて言ったんじゃないですか?
 私に対する愛情ではなくて」

理性で判断して、感情を制御しようとすればするほどに、
その無理な力を食い破って、ハルヒの言葉は無自覚に暴走していく。

そんなハルヒの言葉の端々に表れた不安や疑問を取り除こうと、
辛抱強く彼女に訴え続ける鏡夜の前で、
心に反した上辺だけの言葉を残したまま、
ハルヒの心はどんどんと深い闇の中へ沈んでいく。

鏡夜先輩、自分は、ただ、気付いてしまっただけなんです。

先輩が、さっきホテルの前で、見知らぬ女の人と二人でいたのを見たとき。
相変わらず済ました顔で、自分から見れば明らかに演技だとわかる、
ホスト部で接客をしていたときと同じような笑顔でいたから、
そして、それは自分の前でしてくれる無償の優しい笑顔とは違っていたから、
だから判っているんです、あれが建前だってことくらい。

でも、先輩。

先輩はあの時、手を引いていた、その相手の顔を見ていましたか?
素直に、鏡夜先輩に好意を寄せるその相手の顔を、先輩は気付いていましたか?

自分には出来ない。

自分の心は、今でも、環先輩のことを考えているから、
あんなふうに純粋な目で鏡夜先輩だけを見ることなどできない。

だから、思った。

「先輩だけを本気で愛してくれる人を、見つけるべきなんじゃないかって」

それが、あの女性だとか、そういうことを断定して言った訳じゃない。
ただ、あんな風に、鏡夜先輩の周りにはたくさんの女性との出会いがあって、
その中から、鏡夜先輩だけを愛してくれる人を、見つけることができる。


その現実に……気付いてしまった。



「お前が環を愛したままでも俺は別に構いはしない」

要らない、そんな優しさは。

「環の事を受け入れるというのは、本当の俺の気持ちだ」

聞きたくない、そんな偽善は。

「何故お前は、俺が何を言っても、それを嘘だと決めつける?」



そんな優しい見え透いた嘘は……もう聞きたくない!



「本当に許しているのなら、なんで鏡夜先輩は、
 あの時、あんなに辛そうな顔をしていたんですか!」

雷雨の夜に「悲しそう」と表現した、
ハルヒの前で見せたあの夜の鏡夜の表情は、
本当はとても辛そうで、そして同時にとても寂しそうで、
何かに怯えているようにも見えた。

あの夜、鏡夜先輩自身が震えていたことに、先輩は気付いていないんですか?

ずっと抑えつけていた感情は、
抑えられていた分だけ、激しく発露して、もう、止められそうにない。

「ハルヒ……だからあの時は……」
「あの時だけじゃないです!」

数日前に芙裕美から言われたこと。


『ハルヒさんが怖れているのは、その彼との今の関係を、
 壊したくないから、ではないかしら?』



激しく動き始めた感情の波の下に、指摘された言葉が蘇ってくる。

「この二ヶ月ずっと傍にいたけれど、二人で会っている時でも、
 先輩はいつも一人きりでいるみたいに、ずっと、寂しそうでした」

二人でいるときは、いつでも鏡夜は優しかったけれど。


『ハルヒさんが今の彼に遠慮をしてしまうのは、
 申し訳ないとか、そういうことではなくて、
 単に、このままじゃ彼が自分に愛想を尽かして離れていってしまう、
 そんな風に彼との関係が壊れてしまうこと、
 それを怖れているように思えてなりませんわ』



ふと気を抜いた瞬間に姿を現す、優しさの裏にある切ない感情の残滓。

「自分は気付いていたんです。そんな先輩の様子に。
 でも、先輩との関係が壊れるのが怖くて、
 先輩の温かさが無くなってしまうのが怖くて、
 ずっと……気付かないふりをしていたんです!」

凍えていた心は、鏡夜の温かさに触れて、溶けて、
そして、彼の優しさにただ甘えてしまってた、この二ヶ月の生活は、
甘く切ない……できることなら醒めて欲しくないひとときの夢。

「先輩は教えてくれたはずじゃないですか。
 無理をして自分の心を偽り続けることは、ただ苦しいだけだって。
 本当に環先輩のことを愛しているなら、ちゃんと向かい合えって、
 そう自分に教えてくれたのは先輩じゃないですか」

その、美しく偽られた二人の時間に浸って、
いつまでも鏡夜を独占していてもいいのかもしれない。
鏡夜が構わないと言ってくれるその言葉が、本当の気持ちであるのなら。

でも、その気持ちに、ほんの少しでも歪みがあるのなら。
一緒にいてもお互いに傷つけ合うだけ。

そして、鏡夜の気持ちの揺れに、ハルヒは気付いてしまった。

「鏡夜先輩は、今の関係に、本当に何一つ無理はないと言えるんですか」

例えば、目を閉じてしまえば、
どんなに不都合な世界でも見えなくすることはできる。
でも、自分の心の中から響く声は、
どんなに耳を塞いでも、聞こえなくなる事は無い。

だから、言わなくちゃ。

どんなに心が苦しくても。
どんなに胸が引き裂かれそうでも。
どんなに言葉が喉に詰まっても。

そして……この関係が壊れてしまうことになっても。

「鏡夜先輩は本当は、自分に……」

ハルヒはずっと抱えていた、鏡夜への思いをついに口に出す。


「鏡夜先輩のことだけ愛して欲しいって、そう思っているんじゃないんですか?」


二人の間を繋いでいた……音が消える。

「……」

音の無いその世界の中で、
黙ったまま隣に座って、自分を見つめているであろう鏡夜は、
一体、どんな表情で、この言葉を聞いているのだろうか。

「……先輩はさっき自分のことを……恋人だって言ってくれましたけど
 恋人っていうのは……お互いに同じだけ愛し合う、
 そんな人達のことを言うんだと自分は思います」

怖くて顔を上げることができない。

二ヶ月前に、自分の気持ち、環への想いに気付いたときに、
本当は一人でいることを選ぶべきだった。
そしたら、鏡夜の優しさを、ここまで利用してしまうことはなかったはずなのに。

「先輩がいくら私のことを愛してくれても、その想いが強ければ強いほど、
 自分はどんどん辛くなるだけです」

だから、もう、一人で行かなくちゃ。

あの初夏の陽射しの下で、鏡夜と結ばれた手。
その手は今、彼から離れて、ハルヒの膝の上でぎゅっと握り固められている。

二人で環に会いに行ったその帰り道で、
自分の心の真実を伝えようと、
一生懸命に言葉を紡ぎだした、あの道の上。


『自分は鏡夜先輩に、
 鏡夜先輩と同じだけの気持ちで応えることは出来ません。
 これから先も、それが出来るとは、とても言えません』



あの後、自分は、彼に別れを言わなければいけなかった。
その温かく優しい手を、振り払わなければいけなかった。

でも、ずっと自分を見守ってきてくれていた、
鏡夜の余りに大きくて深い愛情と、
それを抑えてまで「傍にいて欲しい」と、
それだけを願った彼の切ない心が、ハルヒの心に芯に響いて。

最後の最後の一言まで、迷っていて、
とうとう言うことが出来なかった、さよならの一言

でも。

「こんなに苦しい気持ちになるなら……」

固く握り締められた手の甲に、ハルヒの涙がはらはらと零れゆく。




「あの時、あなたの手を、取らなければ良かった……!」




* * *

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