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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

Suriya'n-Fantasy-World

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共に在る理由 -14-

共に在る理由 -14- (鏡夜&ハルヒ)

八月第二週の金曜日の夜。雷の日の夜から一週間以上、連絡を取り合わなかった二人が、
ロワグランホテル前で偶然に再会し、二人の時は再び進み始める。砂時計の砂が落ちるように。

 


* * *

二ヶ月前、環の墓参りにハルヒと一緒に行ったその翌日、
鏡夜は出勤前の蘭花に電話をかけていた。
ハルヒがやっと環の事故のショックから抜け出すことができたことを、
すぐに報告するために。

そして……。

「僕はハルヒさんに告白しました」

こんな日が来ることを予想していたのだろうか、
蘭花の反応はいたって冷静だった。

『……それで、あの子、なんて?』
「環のことを愛してると」
『そう……』
「でも、それでもいいから、
 傍にいて欲しいとハルヒに……ハルヒさんに言いました」

この言葉はさすがの蘭花にも予想外だったらしい。

『……鏡夜君、それって……』
「環のことは一生忘れられないかもしれないけれど、
 それでもいいなら傍にいてくれると、彼女は僕に言いました」
『……』

蘭花の返事は、そこでしばらく途絶えたが、

『鏡夜君、判ってる?』

若干の間を置いて、ようやく蘭花の声が戻ってきた。

『きっと今、君が想像しているよりも、ずっと大変なことだと思うわよ?
 他の人を想う女性を、しかもその相手がもういない状況で愛し続けるのよ。
 亡くなった人の思い出は綺麗すぎるから、
 それを抱えていくことは、頭で思っている程簡単じゃないわよ』

蘭花の愛する人、つまりハルヒの母親は、
ハルヒがまだ幼い頃、病気で亡くなってしまっている。
だからこそ、蘭花は心配してくれるのだろう。
愛する人に先立たれる、その心の痛みを知っているからこそ。

『あの子が本当に環君のことを乗り越えられるのか、
 それは、いつになるかも判らないし、
 鏡夜君の気持ちは、一生、受け入れてもらえないかもしれない。
 それでも、あの子の側にいる、鏡夜君に、その覚悟はあるのかしら?』

眼鏡の下で目を閉じれば、
自分に真剣な眼差しで向かい合ってくれた、ハルヒの顔が浮かぶ。

「僕はハルヒさんを心から愛していますから」

別れを言われても仕方のない状況で、
それでもハルヒは最後に自分の手を取ってくれた。

環を愛し続けていても、これからも忘れられないとしても、
それでも一緒にいてくれると、あの時、自分を受け入れてくれた。

だから、何よりも大切な彼女のために、
自分がいくら身を削っても構わない。

『本当にいいのね。この道を選んで』

自分の心は全て、彼女に捧げる、その想いに何一つ迷いはなかったから。

「はい」

鏡夜はその時、自信を持って、自分の心に頷いたのだ。

* * *

ロワグランホテルの正面入り口前で、
数メートル離れた場所に立ち尽くす二人。

どうしてハルヒが、ここにいる?

「鏡夜……先輩?」
「ハルヒ?」

驚きの余り目を見張っていた鏡夜にゆっくり近づいてきたハルヒは、
そのまま無言で彼の横を通り過ぎようとする。

「おい、ハル……」
素敵な方でしたね」

鏡夜がハルヒの肩を掴んで呼び止めると、
ハルヒは正面を向いたまま、さらりと言い捨てた。

「見ていたのか?」
「ちょうど着いたときに、お二人で出てくるのを見ました」

ハルヒの言葉はなんだかとても機械的で、感情の起伏が全く感じられない。

「今のは取引先のご令嬢で、一緒にディナーをしただけだぞ」
「別に気にしてませんよ」

掴まれた肩から、鏡夜の手を振り払うように、
ハルヒは勢いよく腕を振った。

「別に鏡夜先輩に恋人がいても、自分には何も言う資格もありませんし

ハルヒは無表情ながら、少し苛立っているようにも思えた。

だが、「資格が無い」なんて、なんでそんなことを、
突然彼女が言いだしたのか、鏡夜は理解に苦しんだ。

「お前……何を、言っている?」

振り払われた手で、再び彼女の腕を掴んで、
ホテルの中に歩いていこうとする彼女を引き止める。

「俺の恋人はお前だろう? 
 ここ最近、連絡をしなかったことを怒っているのか?
 大体、お前はここに何をしに……」
「依頼人の方から食事に招待されたので」

相変わらず鏡夜を見ようともせずに、
つんとした表情のままのハルヒの回答が、鏡夜の勘に触った。

一週間以上も連絡も取れず、週末に会うことも出来ず、
どうしていいのか分からずにただ一人悩んでいて、
先程まで意に沿わぬ相手と一時間以上も食事までして、
そんな鏡夜の、溜まりに溜まったフラストレーションが、
ハルヒの素っ気無い態度に爆発する。

「……食事……だと?」

鏡夜はハルヒの手を握ってぐいと引っ張ると、
ハラハラと状況を見守っている橘の前で、
目の前の車にハルヒを無理矢理押し込んだ。

「ちょっと、鏡夜先輩!」

「橘、出せ」

後部座席に倒れこむように押されたハルヒに続いて、
鏡夜も車に乗り込んでくる。

「ちょっと、降ろしてくだ……」
「ふざけるな!!」

座席に手をついて上半身を起こし、
鏡夜の身体を押しのけて外に出ようとするハルヒを、
シートに押さえつけながら、鏡夜は彼女に怒鳴った。

「お前は俺が何度誘っても、こういうところには来ないくせに、
 依頼人に誘われれば、のこのこやってくるわけか?
 大体、ロワグランホテルなんて、依頼人が礼に誘うレベルの場所か!?」
「のこのこって、別に自分から好きで来た訳じゃないです。
 最初はお断りしたんですけど、どうしてもお礼がしたいって言われて、
 自分のことより、先輩こそロワグランホテルで、
 さっきの女の人と二人で、一体何をしてたんですか?
「……橘、さっさと車を出せ!!」
「は、はい」

怒りに満ちた鏡夜の、いまだかつて聞いたことがないほど恐ろしい声に、
震え上がった橘は、後部座席のドアを閉めると、
すぐに運転席に乗り込んで車を発進させる。

車が動き出したことで、やっと鏡夜はハルヒの身体から手を離し、
ハルヒも抵抗をすることは無駄だと感じたのか、
暴れるのをやめて、座席に座りなおした。

「大体、お前、さっきの言い方は一体なんだ?」
「さっきのって何か自分、間違ったことを言いましたか?」

ぷいっと横を向いてしまっているハルヒの顔を、
鏡夜はじいっと睨みつける。

俺に恋人がいても構わない、と言っただろう? 一体どういう意味だ」
「……今日はお見合いだったんですか?」

鏡夜の質問にも全く聞く耳を持たず、
ハルヒの手にはいつのまにか、
先ほど鏡夜が座席に置き去った見合い写真が握られていた。

「それは……今日、招いてくれた社長が勝手に娘を連れてきただけだ」
「二人っきりで、鏡夜先輩は優しく笑って、この女の人の手を引いて?」

恋人がいても構わないと言ったくせに、
ちくちくと無自覚に嫌味を言ってくるハルヒに、
鏡夜は苛立ちながらも、
なんとか自分の感情を平静に戻そうと苦労していた。

「大事な取引先の社長の娘を、エスコートするのは仕方ないだろう?」

ハルヒはお見合い写真を見つめながら、さらに皮肉を続ける。

「鏡夜先輩には、こういうお見合いの話、たくさん来てるんじゃないですか?」
「そんなのものはいくつ来ようと関係ない。俺が一緒に居たいのは……」
「鏡夜先輩は」

鏡夜がハルヒの手からその写真を奪おうとすると、
ハルヒはアルバムを持った右手をすっと窓際に動かして、鏡夜の指先をかわす。

「鏡夜先輩は、ただ自分に、同情をしているだけなんじゃないですか」

見合い写真に目線を向けたまま、冷たく突き放すように、
ハルヒが、突然、訳の分からない言葉を発したので、
鏡夜は言葉に詰まってしまった。

同情? ……なんのことだ?」
「鏡夜先輩が、自分と一緒に居たいというのは、
 ただ自分に同情しているからじゃないんですか
、と言ったんです」

お見合いがどうのという話をしていたはずなのに、
何の脈略もなく、話が内容が妙な方向に進み始めたために、
彼女を車に押し込んだ、当初の鏡夜の怒りは徐々に収まっていき、
怒りに代わって、鏡夜の中では、
自分の隣に座ってい彼女が、一体何をそんなに拗ねているのか、
その疑問の方が徐々に大きくなってきていた。

「お前はさっきから何を言いたいんだ? 俺には意味がわからん」
「ずっと怖がっていたけれど……、
 この際、もう、はっきりさせておいたほうがいいですよね」

ハルヒは独り言なのか、鏡夜に向かって投げかけている言葉なのか、
主語のない漠然とした言葉を呟くと、やっと鏡夜の方に顔を向けた。

「鏡夜先輩は……一年前の環先輩の事故で、
 私と同じくらい、いえ、それ以上に傷ついていましたよね。
 鏡夜先輩は、その傷に苦しむ気持ちがわかるから、
 だから先輩は、同じように苦しんでいた私に同情して、
 傍にいてくれ、なんて言ったんじゃないですか?
 私に対する愛情ではなくて」
「そんなことを考えていたのか、お前は」

ハルヒはどうやらまだ、鏡夜がハルヒのことを、
かけがえなく思っていることを信用していないらしい。

「そんな風に思う必要はなんてないだろう。
 俺はいつだってお前に愛していると言っているのに、
 まだ信じてもらえないのか?」

ハルヒがロワグランホテルに、
自分以外の人間に食事に誘われてやって来た、ということには、
まだ胸の奥でむかむかする気持ちは静まりそうにないが、
今日のハルヒが、何処と無く距離を置いた態度をするのには、
一週間以上連絡をとっていなかったことも影響しているのだろう。

「この一週間連絡もできなかったのは、この間の夜のことがあったからだ。
 俺も、少し……理性を失っていたし」

謝るという感情表現をすることは、鏡夜には一番苦手なことだった。
けれど、あの嵐の夜に、激情に駆られハルヒを押し倒したこと。


『お前がいくら環のことを愛していても。
 今、お前の目の前にいて、お前を抱きしめてやれるのは俺だけだろう!』



そして、あんな醜い想いをぶつけてしまったことは、
彼女の一言がきっかけだったとしても、
彼女を優しく見守ると、決意したことに背いてしまった自分に非がある。

「あの時は俺が悪か……」
「鏡夜先輩は知っているはずです」

鏡夜は、ハルヒとのぎこちない関係を元に戻そうと、
普段なら絶対にあり得ないことに、素直に自分から謝ろうとしたのだが、
それを最後まで言う前に、ハルヒに途中で遮られてしまった。

「鏡夜先輩は知っているはずですよね。
 自分が……環先輩のことを今でも……これからもずっと愛してるって」

鏡夜の視線をハルヒは逃げずに真っ向から受け止めている。


『……それは、悲しい恋ね』


そんなことは判っている。姉に言われるまでも無く。

彼女と行くと決めた、この道が辛い道だということ、
幸せへの単純な道筋ではないということ。
そんなことは判りきっていることだ。

「それはもう二ヶ月前に済んだ話じゃないか」

二ヶ月前に鏡夜が決意したのは、ハルヒの感情全てを受け入れること。

ハルヒ、お前は、環への罪の意識に、
すっかり心を喰われてしまっていたから、
無理に環を忘れさせようとしたところで、
お前の心の中に食い込んだ環という強い杭を、
無理矢理引き剥がしたところで、
既に強く穿たれた、お前の心は元には戻らないだろう。

だから、俺が取れる方法は、
お前の想いを丸ごと受け入れること、それだけ、たった一つ。

本当は閉ざされた空間から外の世界へ、
環のいないその世界へ、出て行けるのなら一番のこと。
けれど、俺には傷ついたお前の背中を強引に押すことなどできないから。
ただ、お前の側にいて、優しく見守っていることしかできないから。

これが、鏡夜なりのハルヒに対する愛の形で、
この想いは、ハルヒに全て伝えきったはずだと鏡夜は思っていた。

なのに、今さらその話を蒸し返す、ハルヒの真意が判らない。

「自分は、あの時、鏡夜先輩も同じくらい傷ついてたことが判って……、
 鏡夜先輩は、私の心の苦しみにも気付いてくれた人だから、
 その先輩が望むなら、自分で良いのなら傍に居ようと思ったんです。
 でも、この二ヶ月、一緒にいて、ずっと考えてました。
 悪いのは、環先輩のことを今でも愛してる自分の方なのに、
 鏡夜先輩があまりに優しくて、怖いくらいに優しすぎて……、
 その優しさに満足に応えることもできない、
 こんな自分を選んだことを……後悔してるんじゃないかって……だから」

ハルヒの声が段々と涙混じりになってきている気がする。

「鏡夜先輩は、先輩だけを本気で愛してくれる人を、
 見つけるべきなんじゃないかって、自分は思うんです」
「……なんだ、それは」

こんなにも一緒にいたというのに、
ハルヒは自分の価値をまだ判らないのだろうか。

どれほど鏡夜にとって、ハルヒが大事な存在であるか、
何度も伝えたはずなのに、全く理解してもらえてないということなのだろうか。

「信じられないなら何度でも言ってやる。
 お前は、そんなこと気に病む必要はない。
 お前以外の誰にも、俺は自分の心をくれてやる気もないし、
 お前が環を愛したままでも、俺は別に構いはしない

今度は鏡夜の言葉を最後まで聞いていたハルヒは、
その最後のフレーズを聞いて、疲れた表情で視線を膝元に落とした。

「だから、もう、そんな見え透いた嘘はいいですよ、鏡夜先輩」

あの雷の日にも、ハルヒは同じような言葉で自分を責めた。
確かにあの時は、仕事を無理矢理終わらせて駆けつけたにも関わらず、
仕事が意外に早く済んだ……などと、彼女に心配をかけないように説明したから、
それを嘘と言われるのなら否定はできない。

しかし、今話しているのはそれとは違う。

「嘘じゃない。この間は……確かに変なことを言ったが、
 環の事を受け入れるというのは、本当の俺の気持ちだ」

自分自身に誓いを立てた、絶対と決めた想いが、
その下に隠していたより大きな情熱に一瞬冒され揺らいだけれど、
だからといってその決意自体が嘘なわけではない。

全ては彼女のために決めたこと。

「自分には……自分が、環先輩のことを好きでいることを許せるなんて、
 鏡夜先輩が本気で言っているとは思えません

しかし、ハルヒは俯いたまま、頑なに笑顔一つ見せようとはしない。

「何故お前は、俺が何を言っても、それを嘘だと決めつける?」

これだけ言っても、堂堂めぐりするハルヒとの押し問答に、
何が不満なのかと鏡夜が聞き返すと、
ハルヒは膝の上に置いた写真のアルバムの端を握り締め、

「だって……もしも本当に……許しているのなら……なんで……」

視界に映るのは、項垂れるハルヒの横顔と、
彼女の震える唇と、今にも泣き出しそうな瞳。

その彼女の大きな瞳が、ぎゅっと瞑られて、
それからハルヒは心の奥から搾り出すように、感情を吐き出した。



「なんで鏡夜先輩は、あの時、あんなに辛そうな顔をしていたんですか」



* * *

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