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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

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共に在る理由 -12-

共に在る理由 -12- (芙裕美&ハルヒ)

再び芙裕美の元を訪れたハルヒを、また、強引にグルメマップに付き合わせて、
その会話の中で、芙裕美は、彼女に向かって環の名前を口にする……。


* * *

「……それは、とても悲しい恋ね」

鏡夜の大切な人が、鏡夜の親友である環の恋人で、
環がいなくなった今でも、環のことを愛し続けている。

そんな事実を知って芙裕美は居た堪れなくなってきた。

「鏡夜さん、よろしければ今週、
 そうね金曜日あたりにでも、お食事でも一緒にいかが?
 なんだかここ最近、私、随分余計なことをしてしまったみたいだし、
 そのお詫びに……」
「それは嬉しいんですが、今週の金曜は先月提携した企業の社長から、
 直々にディナーのお誘いを受けていまして。
 夕方六時からロワグランホテルに行くことになっているんです。
 それに一ヶ月くらい先まで色々立て込んでまして、すみません」
「そう、それは残念だわ」

鏡夜に幸せになってもらいたいと、
弟を励ますために来たはずなのに、なんだか逆効果になってしまった。

「姉さん、あまり気にしないで下さい。
 俺もここ最近かなり焦っていた部分もあったんですが、
 もう少しゆっくりと様子を見ようと思います」

鏡夜に色々聞くはずだった立場が、
逆に慰められる立場に回ってしまっていて、
芙裕美は他にかける言葉もみつからなくて、早々に席を立つことにした。

「あまり無理はなさらないでね」

立ち去り際にそういうと、
鏡夜は少し意地の悪い笑みを浮かべて答えた。

「プライベートも、ですか?」

先週自分がからかい半分に発した言葉を、そのまま返されて、
芙裕美は一瞬びっくりしてしまったのだが、
そんな風に軽口を言える弟に少し安心もして、

「ええ、そうね。プライベートも、ですわよ」


と、笑顔を返した。

当人以外がどうこう言えるものではないかもしれないけれど、
弟の悲しい恋に、できることなら幸せな結末が訪れて欲しいと、
そのとき、芙裕美は心から願わずにいられなかった。

* * *

「それとも、まだ環さんのことを、想っていらっしゃるの? 
 ……ハルヒさんには、もう、新しい素敵な彼もいるのに」

少しきつい言い方だったろうか?

「環先輩とのことは、今でも消せない、とても大切な綺麗な想い出なんです」

そう答えるハルヒは、とても寂しそうに見えた。

「自分は、環先輩がいなくなってから、
 ずっとそれに向かい合うことから逃げていて、
 不思議ですよね。頭では環先輩がいなくなったこと、解ってるはずなのに、
 心はどんどん追い込まれていって、
 環先輩のことを必死で忘れちゃいけないって、思い込んで、
 自分がそうやって無理をしていることにすら気付いていなくて。
 でも、自分でさえ気付いていなかった、その心を見抜いてくれた人がいて……」
「それが、今の彼?」
「……はい」

鏡夜は彼女の苦しみをずっと見てきたはずだ。

一年という長い間ずっと事故の衝撃を引きずっていた、
彼女の傷はあまりに深くて、
そこに触れることは弟には出来なかったのだろう。

『彼女には環のことを忘れる必要はないと言いました』


だからこそきっと、弟は、彼女を見守るとを決意したのだろう。


あんなに悲しく切ない、そして行き場の無い想いを抱えて。


「その人の言葉で、やっと環先輩と心から向かい合うことができて、
 そして、自分は気付いたんです。
 無理をして自分の心を追い込む必要なんてなくて、
 自分は環先輩のことが本当に好きで、
 その綺麗な思い出では、おそらく一生消えることはないってことに」

環に対しては、芙裕美も弟のことを心配して、
何度も相談を持ちかけたこともあったし、
一緒に出かけたりするときの、自由で前向きで自信に満ちた考え方には、
九つも下なんて気にもならないほど、ある種、尊敬もしていた。

だから、ハルヒが環の愛を受けていたのだとしたら、
そう簡単に忘れられないという気持ちも、女として分からなくはない。

自分が、環と鏡夜とに公平な立場だったとしたら、
彼女に優しく接することもできただろう。

「今、一緒にいる人は、それも全部わかった上で、
 自分を受け入れるといってくれて、でもそれが最近少し辛くて……」

でも、自分は鏡夜の姉だ。
弟にはやはり幸せになってもらいたい。

今、この若い二人は、お互いを愛するという感情を、
お互いのことを考えること以外の、その他の色々な状況を絡めて、
無理に歪めてしまっている気がする。

迷うこともたくさんあるだろう。
時にはぶつかることもあるだろう。

どんなに愛し合ってる二人と言っても、
究極的には他人同士である男と女が、
一緒に居ようと決めるその過程に、
悩みひとつもないなんて、そんなことがあるわけがない。

けれど、それらの全ては付属的なもの。

人を愛するという気持ち、それだけをただ突きつめていけば、
それはそんなに複雑なものではなくて……むしろ、とてもシンプルなもの。

それを、芙裕美は気付かせてやりたかった。

「すみません。なんだか変な話になって……」
「綺麗なものを壊すのには、勇気ときっかけが必要ですわね」

俯いていたハルヒが、芙裕美の言葉に反応して顔を上げる。

「もしも、その後ろに、どんなに大切なものが隠れていても、
 それを壊さないと、いつまでたっても見つからないと思いません?」
大切なもの、ですか?」

漠然とした芙裕美の言い方に、ハルヒは釈然としない様子だ。

「私には弟がいる、という話をしたと思いますけれど」
「ええ、そう伺いましたが……」
「私の弟はね、ずっと自分を偽って生きてきた子なの。
 周りの期待に応えるように、自分の立場をわきまえて決して出過ぎないように。
 完璧な子供を演じてきて、本人もそれで満足なんて言っていたのだけれど、
 私はずっと思っていたわ。もっと自由に生きて欲しいって。
 それを壊せたのは、中学に入って、環さんが転入してきてたときからね。
 少しずつ環さんの生き方に感化されて、変わっていったのよ。
 今まで生きてきたその完璧に整えられた世界を、
 環さんとの出会いというきっかけがあって、そこから飛び出して、
 それから弟はとても生き生きとして、私、それがとても嬉しかった」
「……そうですね。環先輩は周りがどんなに止めても、
 自分の思うままに、どんどん前に向かって突き進んでいく、そんな人でした」

彼女はまだ、芙裕美の言葉の真意が分からないようで、
当たり障りない相槌を打ってくれている。

でも芙裕美は、環のことを伝えたいのではない。

先ほどからハルヒが「綺麗」と表現しているその想いが、
何のことなのか、何を隠してしまっているのか、
彼女にちゃんと理解してもらいたいと思って、話しているのだ。

「私、ハルヒさんのお話を聞いていて思ったのですけれど、
 ハルヒさんが本当に大切にしたいのは、
 綺麗なままで取っておきたいのは、環さんとの思い出のことなのかしら?」

オブラートな誘導に気づく素振りが全くないので、
仕方なく、直接的な、核心をついた質問を投げかけてみることにした。

「それは、どういうことですか?」

弟とは正反対な性格と思っていた彼女も、
恋の分野については、弟と同じかそれ以上に不器用なのかもしれない。

「今、ハルヒさんの近くにいてくださる、その彼は、
 あなたのことを大事にしてくださっているのでしょう?」
「……ええ、とても」

慎重に説明してあげる必要があると思った。

「でもハルヒさんはそれが辛いと感じているんですわよね」
「なんだか余りに優しくしてくれるので、それが少し怖くて」
「どうして怖いと思うか、ご自分でお分かりになる?」
「それは……やっぱり、
 環先輩のことを忘れられないことが負い目になっているから……」
「本当にそうかしら?」
「え?」

環のことを忘れられないから、
そんな状態で傍にいても、鏡夜のためにならないと、
鏡夜に申し訳ないと思っているということは、
話を聞いていてよくわかった。

だから彼女は苦しんでる。
苦しくて、辛くて、そして怯えている。

でもその感情は、鏡夜に対する遠慮の気持ちだけではない。
すべて真実はその裏返し。


「ハルヒさんが怖れているのは、
 その彼との今の関係を壊したくないから、ではないかしら?」



鏡夜は彼女の遠慮する気持ちを理解して、
それを振り払うために、彼女に尽くすけれど、
鏡夜が優しくして、尽くせば尽くすほどに、
彼女は、喜ぶどころかますます申し訳ないと思ってしまう。

互いのことを大切に想ってしていることが、
全て裏目に出て互いを縛ってしまっている、

なんて悲しく、そして不器用な二人だろう。 

「ハルヒさんが今の彼に遠慮をしてしまうのは、
 申し訳ないとか、そういうことではなくて、
 単に、このままじゃ彼が自分に愛想を尽かして離れていってしまう、
 そんな風に彼との関係が壊れてしまうこと、
 それを怖れているように思えてなりませんわ」

少し喋りすぎた気もする。

いくら環の知り合いであるとは明かしたとしても、
鏡夜の姉ということは隠しているわけだし、
ハルヒが今、付き合ってる人がいるということは、
前回初めて会ったときに雑談に混ぜて軽く聞き出しただけなのに、
余りに踏み込んだことをいうと、変に思われてしまうかもしれない。

「離れていってしまうのが怖い……どうでしょう……分かりません……」

けれどハルヒは、芙裕美がどういう人物か、ということには、
特に疑問を感じてはいないようだった。

ただ芙裕美から言われた言葉を反復して、
心の迷路に迷い込んでしまっている。

「……ずっとその人と一緒にいようと思うなら、
 今の関係がたとえ壊れることになっても、
 もっと遠慮をせずに、自分の気持ちをちゃんと伝えて、
 お互いの心に正直に向かい合わないと、
 本当に大事なものは、いつまで経ってもつかめないと思いますのよ」

一度負の方向に走ったスパイラルは、
小手先の力を加えても、ただ、落ちていく速度を上げるだけ。
その進行を食い止めるには、
その仕組み自体を壊して作り変えるしかない。

彼女は綺麗だと言った。消えることはないのだと言った。
でも壊さなければならないのは、彼女と環との「過去の」思い出ではない。

これは、過去を消せるかどうかという問題ではない。
彼女が本当に向き合わなければならないもの、
彼女が本当に壊さなければならないものは、
環との思い出の上に、今の鏡夜との関係があるのだと、
そう思い込んでいる二人の関係……鏡夜との「現在」だ。

彼女も無意識には自分がやるべきことは分かってる。
分かっているからこそ怯えてる。
一つ目のハードルは乗り越えた。彼女は少なくとも弟を受け入れたから。
今、彼女に必要なのは、次のステージに踏み出す勇気。


この壁を越えること。



「でも自分は……」

はっきりとした答えを返せないハルヒに、
芙裕美も、今日これ以上の結論を望むことは無理だと考えた。

「今日はこの辺にいたしましょうか。
 色々余計なことだったかもしれませんけれど、ごめんなさいね。
 なんだか年をとると、若い人につい口を出したくなってしまうの」
「いえそんな……自分のほうこそ、なんだか自分の悩みを
 聞いていただいてしまって、すみません」

芙裕美が巧みに誘導してこの話題になったというのに、
逆に芙裕美に謝ってくる純朴なハルヒを、芙裕美は本当に微笑ましく思った。

鏡夜のことを、鳳の一部としか考えない他家のお嬢さんよりも、
彼女が鏡夜とずっと一緒にいてくれるなら、
それが一番、弟にとって良いことだと思える。
なんとか、この二人のすれ違いを解消してあげたい。


壁の向こうに一人で行くのか、二人で行くのか。
どちらを選ぶかまでは口を出すことはできなくても。



「ハルヒさん、ところで、明後日の金曜日の夜はお暇かしら?」

店を出て、ハルヒの自宅まで送っていく車の中で、そう尋ねてみたら、
ハルヒはバッグから手帳を取り出して予定を確認しながら、

「金曜日ですか? ええと……午後は裁判所のほうで用事があって、
 ちょっとグルメマップのお手伝いはできないとおもいますが……」

と、おずおずと答えた。

一体こんなイベントに何回付き合わされるのか、といった様子を、
全く隠しもしない率直さも可愛らしい。

「いえ、グルメマップではございませんわ。
 ハルヒさんには二度もお店を紹介していただいたし、
 そのお礼に、お仕事の後にでも、
 お食事にお誘いしたいのですけれどご都合はいかが?」
「夜でしたら時間は作れると思いますが……、
 ただ、どんなに急いでも夜八時くらいまでは、
 事務所で仕事をしているとは思いますし……」
「では、ちょっと遅いかもしれませんけど、夜九時に待ち合わせならどうかしら。
 帰りはちゃんとお送りしますし。よろしいですわよね」

最初は、依頼人にそういうことをさせるわけにはいかないとか、
グルメマップのことなら気遣いは要らないと断られてしまいそうになったが、
仕事のお礼というよりも、せっかくこうして知り合えたわけだし、
いち友人として誘いたいのだと、しつこく誘い続けて、
ハルヒのマンションに着く頃には、どうにか彼女を納得させて約束を取り付けることができた。

「それでは、ハルヒさん」

マンションの前で車から降りたハルヒに、
半分ほど開けた窓越しに、芙裕美は念を押した。


「今週の金曜、夜九時に、
 ロワグランホテル最上階の展望レストランでお待ちしておりますわ」



* * *

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