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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

Suriya'n-Fantasy-World

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共に在る理由 -11-

共に在る理由 -11- (ハルヒ&芙裕美)

鏡夜がハルヒに連絡を取っていないことを聞きつけた芙裕美は、真意を聞き出すため、
再び鏡夜の元を訪れる。そこで知ったのは、ハルヒが今でも環の恋人だという悲しい事実。

 


* * *

芙裕美から依頼された贈与契約の締結も滞りなく進み、
そのお礼にと、ハルヒは芙裕美から食事に招待されていた。

当初は先週末の金曜日に誘われていたものだったが、
直前になってハルヒがキャンセルしたために、
週が明けた月曜日、もう一度設けてもらった機会だった。

食事の場所へと向かう道すがら、
彼に言ってしまった言葉と、
そして、伝えることが出来なかった思いが、
何度も何度も心の奥をちくちくと引っ掻いていく。

「もう、終わりにしよう。ハルヒ」

出来ることなら思い出したく無いのに、
彼の最後の言葉ばかり、何度も記憶に蘇ってくる。

今の精神状態で、
他人と会って食事をするなんてことはできれば避けたかったのに、
否応無しに時間は流れ、週は明け、仕事に出向く日常が始まる。

そして、芙裕美からの食事の誘いも、
一度、こちらの都合でキャンセルしたにもかかわらず、
また自分からキャンセルするわけにもいかない。

「ハルヒさん、お忙しいところ無理に誘ってしまってごめんなさいね」

現れたハルヒを芙裕美が気遣う。
ハルヒは沈んだ気持ちをなんとか整えて、
顔を上げて芙裕美を見ると、無理矢理笑顔を作った。

「いえ、こちらこそ先日は急にキャンセルしてしまって申し訳ありません」
「……ハルヒさん」

突然ハルヒに向かって、芙裕美からハンカチが差し出される。

「これ、お使いになって」
「え……?」
「だって、ハルヒさん。泣いていらっしゃるから」

指摘されて初めて、気が付いた。


強張った笑顔を突き破るように、
自覚無くぽたぽたと流れ落ちる、自分の涙に。


* * *

「ハルヒさん。お陰で助かりましたわ。
 書類はこちらで一度確認させていただきますわね」

ハルヒと芙裕美が初めて対面して二日後の水曜日の午後。

ハルヒは出来上がった契約書や、
必要な添付書類などを持参して、再び矢堂の屋敷に出向いていた。

「同窓とはいえ、自分に依頼を頂けて、
 こちらこそ色々勉強になりました。本当に有難うございます。
 何かご不明な点がありましたら、いつでもご連絡ください」

目の前の芙裕美は、とても綺麗で上品で、
落ち着いた大人の女性の雰囲気を持った人だなと思う。

年齢的には鏡夜よりは5,6歳上に見えるが、
こういうおっとりとした空気を纏った人が、
鏡夜の隣には似合う……そんな風にも思ってしまう。

いつまでも気持ちが定まらない、
こんな不安定な、子供っぽい自分なんかじゃなくて。

「では、お仕事の話はここまでとして。ハルヒさん、今日はどちらに参りましょうか?」
「え? どちらって……?」
「グルメマップの続きですわよ。
 この間紹介してくださったお店はとても素敵でしたわ。
 今日もハルヒさんが新しいお店を紹介してくださるのを楽しみにしてましたのよ?
 さあ、早速参りましょう!」

前言撤回。

お金持ちというのは、皆どうして、こう、
マイペースというか、子供じみた人ばかりなのだろうか。

仕方なく案内したフルーツパーラーで、
嬉しそうにガラスケースに並んだデザートを選んでいる芙裕美を見て、
ハルヒは、桜蘭高校ホスト部時代に、
散々部員達に振り回されていた自分を思い出していた。

突拍子もないことに気疲れすることも多かったけれど、
ホスト部で体験した出来事は、どれもこれも新鮮で、
同時に、いつも笑顔が絶えなかった。

そんな楽しかった経験も、
今、思い出してみると、ただ切ない感情が込み上げてくるだけ。

それは、思い出の中、どのコマを切り取ってみても、
全ての中心にいる環が……もうどこにもいないから。

固めてしまおう。

あの夢のようなひとときを、
綺麗な……宝物のようなイメージとしてだけ残しておくために。

楽しかった日々を全て固めてしまって、
遠くからただ眺めていよう、
二度と直接触れることはないただの綺麗な飾り物として。

「ところで、ハルヒさんは……須王環さんをご存じかしら」
「え……」
「須王環さん、桜蘭の理事長のご子息だった方よ」
「あの……その……」

テイクアウトの前にいくつか実際に味わってみたいということで、
店の奥に設えてある喫茶席に向かい合わせに座ったところで、
芙裕美が、まるでハルヒが今、思い出していたことを、
分かっているかのような話題を振ってきたので、ハルヒはかなり慌ててしまった。

「あ、あの……環先輩とは、桜蘭で、同じ部活に入っていましたが……、
 芙裕美さんも環先輩とお知り合いだったんですか?」
「ええ」

芙裕美はハンドバッグの中から、
折りたたんでいた地図取り出してテーブルの上に置いた。

「実は、この庶民グルメマップ、環さんと作成を始めたものですのよ」
「環先輩と? そうだったんですか」
「ええ。私の弟が、環さんと同級生だったものだから、
 私もご縁があって親しくさせて頂いていたの。
 環さん、庶民文化にとても興味がある方で、それに影響されて、
 すっかり私もグルメマップ作りが好きになってしまったんですわ」

ホスト部以外でも……こんなことをしてたんだ、環先輩。

周りで起こるどんな些細なことも、
彼の手にかかれば、何でも楽しいイベントに早変わり。

そんな環のポジティヴな行動が思い出される。

「環さんは、ちょうどハルヒさんの一つ上の学年ですから、
 もしかしたら、ハルヒさんとは、
 あまりお話されたことはないのかとも思いましたけれど、
 同じ部活ということは、ホスト部と言ったかしら?
 そちらにハルヒさんも入ってらしたのね。
 あ、でも、女の子だからマネージャーか何かかしら?」
「いえ、その色々あって、入部することになってしまって……」

出会った当初は男子生徒と間違われて、
そのまま学院生活でずっと男装していました、とは言いづらく、
ハルヒは微妙な笑顔でその場を濁すことにした。

「そういえば、矢堂さんの弟さんも環先輩と同じ学年だったんですね。
 自分は面識はないと思いますが……すみません」

当時の一つ上の学年の、
A組生徒の何人かは顔と名前が一致するけれど、
矢堂という名前は記憶になかった。

けれど、そもそも学生数があまり多くない私立学院だ。
もしかすると、芙裕美の弟とは学院ですれ違っていたかもしれない。

「まあ、私の弟のことはいいのよ。私が、ハルヒさんに聞きたいのは……」

注文したデザートが届いて、
芙裕美はそれを上品に切り分けていたのだが、
ふっと手を止めると、ハルヒの目を覗き込むようにして、こう尋ねてきた。


「ハルヒさんと環さんは、お付き合いしてらしたのでしょう?」


あまりに不意打ちな言葉に、ハルヒは愕然となる。

「なんて芙裕美さんがそのことを? ……それは、環先輩から聞いて……?」
「うふふ、まあ、そうですわね」

芙裕美は相変わらず、ゆったりと穏やかに受け答えしてくれていたが、
ハルヒの質問に対しては、あまりはっきりと答える気はないようだった。

「……付き合っていた、と言っていいのか判りませんが、
 環先輩が高校を卒業する前に、自分に告白をしてくれて、
 その時は、まだよく判らなかったんですが、
 ただ、環先輩の傍にいようと思って一緒にいた……そんな感じです」
「……去年の春……だったかしら。環さんの事故は」

芙裕美は遠くを見るような目つきをしている。
環のことを思い出しているのだろうか。

「もう、一年以上経ちますね」

そんなに時間が経ったのに。

芙裕美の質問に答えることが、
同時に自分に言い聞かせることにもなって、
ハルヒはあの日の自分の気持ちを思い出してしまっていた。

もう、一年以上もたつのに、
なんでこんなにも鮮明に思い出せてしまうんだろう。

あの悪夢を。

「環さんのことは、とても悲しい出来事でしたわね。
 ……でも、ハルヒさんは今は、お仕事もがんばってらっしゃるようだし、
 さすがにもう、気持ちの整理はついていらっしゃるんでしょう?」
「……整理?

芙裕美から発せられた言葉の最後の部分の意味を、
ハルヒは全く理解することができなかった。

整理する、とはどういうことだろう。

環のことを忘れるということだろうか。
それとも、彼への愛を、忘れるということだろうか。

「それとも、ハルヒさんは」

戸惑うハルヒに対して芙裕美の質問が続く。

「まだ環さんのことを、想っていらっしゃるの? 
 ……ハルヒさんには、もう、新しい素敵な彼もいるのに」

一貫して優しい印象だった芙裕美の口調の最後に、
なんだか棘のある言葉が添えられたように感じる。

見れば、物腰は至って穏やかな様子を崩していなかったけれど、
表情からはすっかり笑顔が消えてしまっている。
出会ってから、終始にこやかに微笑を絶やさなかった人物が、
急に笑顔を落としただけで、
なんだか怒っているかのような印象を受けるから不思議だ。

静かに変化した芙裕美の雰囲気に気押されてしまったハルヒは、
両手にナイフとフォークを持ったまま、それをテーブルの上に力なく下ろした。

「環先輩とのことは……」

うなだれたハルヒは、両手をぎゅっと握り締める。


「今でも消せない、とても大切な綺麗な想い出なんです」


* * *

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