『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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傷ついた鳥達 -8- (鏡夜&ハルヒ)
環の事故によって、傷ついていたのはハルヒだけではなかった。
そのことに気付いたハルヒは、鏡夜の腕の中で号泣する……。
* * *
……卒業式までに、ハルヒの心を奪えなかったら。
「いいから、今は、少し黙っていろ」
鏡夜はそう言って、初めて、愛しい彼女の唇に触れた。
……その時は、お前の勝ちだ、鏡夜。
ああ、そうだ……思い出した。
「で、奪えなかったらどうなるんだ?」
ハルヒが大学を卒業するまでにハルヒの心を奪う!
……という勝負事を、突然持ちかけてきた環に、
鏡夜は皮肉交じりに聞き返した。
「俺がハルヒの心を奪えなかったら、その時は、お前の勝ちだ、鏡夜」
「勝負というからにはそうなんだろうが、
で、俺が勝ったとして、どうだというんだ?」
「鏡夜」
環の顔から笑みが消えている。
こういう真面目な表情をしているときの環は恐ろしい。
環はいつもこの眼差しで、他人の心を見抜くから。
「鏡夜……お前もハルヒのこと、好きなんだろう?」
「……!」
まさか……気付かれていた?
「……何を寝ぼけたこと……」
「いーんだ。とぼけなくて」
誤魔化そうとする鏡夜の言葉を遮り、環は一方的に喋りだす。
「確かに俺も最初はハルヒのこと、全然、無自覚だったし、
それで鏡夜には色々迷惑をかけたよな?
でも、俺だって流石に今は分かってるつもりだぞ。
お前もハルヒのことが、ずっと好きだったんだって。
でも、鏡夜は優しいから、俺に遠慮して、
ハルヒに自分の気持ちは伝えないつもりなのだろう?」
鏡夜は返事に窮していた。
彼が、環の言葉に絶句するのは……、
もちろん、突拍子もない言動に飽きれての無言という意味であれば
それはもう数え切れないほどにあったのだが、
心の奥底にひた隠す思いを不意に突かれて言葉を失うのは、
今回で二度目だった。
『何もせずに諦めているのはお前のほうだ』
……だったか?
出会ったばかりの頃に、随分な言われ方をした気がする。
ただし。
それは紛れもない真実だったけれど。
「俺はハルヒを愛している。当然、手放す気もないし、
鏡夜。お前が相手でも譲る気はない。
でも、ハルヒの心は強制できないだろう?
だから、もし俺がハルヒの心を奪えなかったら、お前の勝ちだから……」
環は、真剣な眼差しで鏡夜を見つめ、
「だから、その時は……俺に遠慮することはないんだぞ、鏡夜」
そう言って、にっと笑った。
今から考えてみれば、
これは環の宣戦布告だったのかもしれない。
鏡夜にとって、ハルヒみたいな女性には初めて出会ったし、
この先、同じような女性に出会えるかと言われれば、
その可能性は極めて低い気がしていた。
鋭いんだか鈍いんだか、よく分からない性格の彼女ではあったが、
その純粋で裏のない感情は、とても心地よくて、いつも驚かされて、
そんな彼女を、愛おしく思っていたことは事実だった。
だが、彼は既に決意していた。
環がいる以上、それを押しのけてまで
自分の想いをハルヒにぶつけることはするまいと。
環は、特別だから。
須王と仲良くしておけば利益になるとか、
鳳の三男坊は須王の腰巾着だとか、
そんな周囲の雑音ははっきりいってどうでもいいことだった。
周りがどう思おうと、鏡夜にとって、
環はこの世に二人といない存在なのだ。
だから、その環がハルヒを選ぶというなら、
自分の想いを封じ込めて二人を祝福するくらい
鏡夜にとっては造作もないことだった。
ハルヒは確かに愛おしいが、
環という人間そのものも、とても大切だったから。
「いいだろう。その勝負に乗ってやろう」
鏡夜はコタツの布団に、ごろごろと寝転がりながら
満面の笑顔を浮かべる環に微笑みかえした。
「期限は来年、ハルヒが大学の卒業式までだ。
それまでに、ハルヒの方からお前に『愛している』と言わせてみろ。
お前が勝ったら……、
せいぜいお前らの盛大な結婚式にでも呼んでもらうとするよ」
「うむ。まかせておけ!!」
まだキスもしたことないくせに、とも思ったが、
環が余りにも自信満々に、楽しそうな顔をしているので、
それ以上からかうのをやめて、鏡夜は小さく笑いながら眼鏡の位置をなおした。
「ま……期待してるよ」
この勝負に負けたら……そうだな。
ハルヒの「お母さん」役として、
結婚式当日に、環をからかって遊ぶことにしよう。
それくらいは許されるだろう?
そう、他ならぬ環だからこそ。
ハルヒが連れて行かれても………俺は、満足だ。
それが鏡夜の、紛れもない本心だった。
一本の電話が、彼の元にかかってくるまでは。
* * *
続