『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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傷ついた鳥達 -7- (ハルヒ&鏡夜)
ハルヒにとっても、鏡夜にとっても、環はかけがえのない存在。
そんな彼が突然居なくなってしまった日を思い出し、鏡夜はハルヒを抱きしめる……。
* * *
「環のことをずっと想ってくれていていい。忘れろなんて言わない。
ただ、傍に居てくれれば……それだけでいいから」
……え……?
「鏡夜先輩?」
……鏡夜先輩も……泣いてる?
抱きしめられているせいで、
鏡夜の表情を直接見ることはできなかった。
けれど、触れ合っている鏡夜の体が、
微かに震えているのが分かる。
その小さな震えが、深く傷ついた彼の心の痛みを伝えてくる。
「環の事故があって……それでも、
俺がなんとか俺でいられたのは、お前が居たからだ。ハルヒ」
「自分が……?」
「あの日、お前が居なかったら、俺はどうなっていたか分からない」
ハルヒの大学卒業式前日、
夜の九時を過ぎた頃だっただろうか。
卒業式に着る予定の着物と袴を準備して、
少し早めに眠ろうかと思っていたハルヒの元に、
突如、環からの電話がかかってきた。
かなり聞き取りづらい雑音混じりの声が、
何かが爆発するような、けたたましい音と共に不自然に途切れ、
あまりに混乱したハルヒは、咄嗟に鏡夜に電話をかけた。
他に頼れる人も思いつかなかったから。
あの日は酷く取り乱したせいで、
ハルヒが思い出せる記憶は断片的だ。
電話越しの環の最期の言葉。
無機質なニュースの映像。
淡々と読み上げられる環の名前。
心配してかけつけてきた鏡夜の姿。
全てはぐちゃぐちゃに混ざり合ってしまっていて、
ハルヒの記憶が、きちんとした時間の流れに繋がるのは、
日も変わって、翌日の、卒業式の日の夕方のことだ。
後になって聞いた話では、
ほぼ一日中、狂ったように泣き叫んで、
気を失うように倒れこんで、気がついたら再び泣いて、
何度も何度もそんな行為を繰り返していたらしいのだが、
そんなハルヒをずっと抱きしめてくれていたのが、鏡夜だったのだ。
「ハルヒ。俺には……環みたいな力はない。
傷ついたお前を……そこから引きずりだしてやれる力は……俺には無い」
あの日も今と同じように、優しく自分を抱きしめてくれていた。
あの時も鏡夜の肩は震えていただろうか?
「だが、もし、お前が俺の傍に居てくれるなら……」
鏡夜はハルヒの耳元で、低く囁いた。
「この俺の心は、全部、お前にくれてやる」
この鏡夜の言葉に、ハルヒは再び泣いた。
思い切り、大声をあげて泣いた。
鏡夜の広い胸にすがって泣き続けた。
傷ついて飛べなくなっていたのは自分だけじゃなかった。
自分の前では、いたって冷静沈着に、常に感情を押し殺していても、
目の前の鏡夜も自分と同じくらい深い傷を負っていた。
おそらく環だったら、きっと鏡夜のようには言わないと思う。
悲しみに押しつぶされるままに、
独り壁の中に閉じこもっているハルヒの姿を見たなら、
きっと力強く手を伸ばして、外へ連れ出そうとするだろう。
どんなに深い傷でも、外の世界に怯えずに再び飛び立つんだと。
でも、鏡夜は違う。
籠の中に膝を抱えてうずくまる自分を、そのままで良いと言う。
傷ついた自分が、この場所に留まるとなら、
気が済むまでこんな自分に付き合うと、そう言っているのだ。
「きょ……」
喉の奥に嗚咽が引っ掛かって、言葉が上手く出せない。
「きょ……や……せん……い」
何か言わなければいけないと、無理やり搾り出した声は、
すっかり掠れてしまっていたから、
彼に、きちんと届いているか不安になった。
「無理に喋らなくていい」
「きょう…や……せん……ぱい……」
「喋るな」
「でも……」
「いいから」
そんなハルヒに対して、
鏡夜は、抱きしめていた腕を解くと、
ハルヒの顔を覗き込み、前髪を優しく撫でた。
「いいから、今は、少し黙っていろ」
* * *
続