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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

Suriya'n-Fantasy-World

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傷ついた鳥達 -6-

傷ついた鳥達 -6- (鏡夜&ハルヒ)

頑なに閉ざす扉をこじ開けて、強引にハルヒに近づく鏡夜。
環への想いに囚われたハルヒを救うため、鏡夜の口から出た言葉は……。


* * *

「環のことを忘れる必要はない、と言った」
「え……?」

全く、想像していなかった言葉だったのだろう。

「忘れなくて、いい?」

鏡夜から逃れようと強張っていたハルヒの腕から、
一気に力が抜けたのが分かる。

それを見た鏡夜は、右手をハルヒの手首から離すと、
その指先でハルヒの頬に触れて、彼女の涙を拭った。

「そう簡単に環のことを忘れられるわけがない。あいつは特別だから」

人の心の奥底を支配する闇を見抜き、
その人間を深淵から引き上げる強い力を持った男。

それが、須王環という人間そのものの魅力。

彼の強い力は不思議と人を引き寄せ、
近づいてきた相手を捉えて離さない。

それが、須王環が持つ力の危険な意味。

「それに、ハルヒ。お前だけが、
 環の言葉を最期に聞くことができたんだからな」

ハルヒの前で彼女の頬を撫でる鏡夜の表情が、
怒ったような無表情から、
徐々に憂いを帯びた表情に変わっていく。

「俺がお前から連絡を受けたときはもう、環は……」

鏡夜が環の安否を確認して、各方面と連絡を取っていた頃、
もう既に彼の乗った飛行機は墜落してしまっていた。

由緒ある家柄や財力がなんだというのか。

どんなに権力を持っていたとしても、
砕けたガラスを元に戻すことはできないのに。

環の葬儀は、須王グループの次期総帥のものとあって、
それはもう大掛かりなものだった。

当然、鳳家を代表して鏡夜も出席をして、
層々たる参列者相手に、
いつものような当たり障りない応対はしていたはずだ。

でも、実のところ、式場でのことは余り良く覚えていない。

信じられないと号泣する双子の姿と、
意外にしっかりとした表情で会場に現れた光邦の姿と、
自分の頭をぽんぽんと叩いて慰めてくれた崇の姿は
辛うじて記憶の片隅に残っている。

そういえば、あの日、ハルヒの姿を見かけただろうか?

環の葬儀の日の記憶の全ては、どこか不鮮明で、曖昧で、
まるで、モノクロの無声映画を見ているかのように、
実際自分の体験したことだとは思えないほど、客観的かつ非現実的だ。

その後、唯一の後継者であった環を失った須王グループ内では、
現総帥派と新勢力との間で、壮絶な権力争いが繰り広げられているらしい。

そんな内部のごたごたの隙に、
外資系ファンドが須王の買収を進めているとか、
経営体制強化のために、いくつかの事業の売却話が持ち上がっているとか、
色々と不穏な情報も、仕事柄、耳に入ってきていたが、
それらの全ては、もはや鏡夜にとっては、どうでもいい話題だった。


環のいない須王に興味はなかったから。


「俺にとっても、環は大事な人間だった。
 あいつが俺の前に現れなかったら
 俺はきっと一生何も気付かないまま、
 ただ与えられた世界の中で、
 当たり障りなく立ち回っていただけだっただろう」

生まれた時から狭い鳥籠に入れられて、
ただ与えられた餌を食べ、
籠の外から覗き込む人間に常に鑑賞されていても、
鳥籠の中の世界が全てと思っている小鳥にとっては、
大空の広さとその素晴らしさを教えてくれる、
野生の鳥の存在が必要だった。

鏡夜にとって、自分が無意識に閉じこもっていた狭い世界から、
外へ踏み出すための、一押しをしてくれた存在……それが、環だった。

そして、恐らくはハルヒにとっても。

「それなのに……ふざけやがって……あの馬鹿が……」

声が震えてしまうのは、
怒りのせいなのか、悲しみを堪えているからなのか。

「……先輩……」
「ハルヒ」

鏡夜は彼女の名前を呼ぶと、
突然、ハルヒの体をぎゅっと抱きしめた。

「ちょっと、先輩、離し……」
「俺の傍にいてくれ、ハルヒ」

ハルヒの小さな抗議を遮って、
鏡夜の腕が、肩が、胸が、ハルヒの小さな体を包む。


「環のことをずっと想ってくれていていい。忘れろなんて言わない。
 ただ、俺の傍にいてくれれば……それだけでいいから」


* * *

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