『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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傷ついた鳥達 -3- (鏡夜&ハルヒ)
深夜、突然マンションにやって来た鏡夜に混乱するハルヒ。
ドアを開けろと迫る鏡夜に、ハルヒは帰ってくれと叫ぶが……。
* * *
『自分は、環先輩のことを……忘れちゃいけないんです!!』
冷たく閉ざされた扉の前で、
あきらめ混じりに引き返そうとした鏡夜の表情が、
彼女の声を聞いて驚きのそれに変わる。
ハルヒ……?
インターホン越しに、
微かにハルヒの嗚咽が聞こえてくる。
環が自分たちの前からいなくなって、数ヶ月。
ハルヒはまさに抜け殻のようだった。
ホスト部の皆がハルヒを励まそうと企画した色々なイベントで、
彼女の姿を見かける度に、
皆の前で無理矢理作り笑いをしている姿が痛々しかった。
そんなハルヒを見るに見かねて、
とあるイベントの折り、
ついに鏡夜は今まで秘めてきた想いを彼女に伝えてしまったのだが、
今から思い起こせば、それはいささか性急な行為だったのかもしれない。
『鏡夜先輩の気持ちは嬉しいです。
自分は鏡夜先輩を尊敬していますし。
でも、すみません。先輩の気持ちは受け取れません』
泣いているのか笑っているのか。
なんとも分からない表情で、ハルヒはそう言い切った。
『自分は、環先輩のことが忘れられないんです』
それから彼女の態度は急に余所余所しくなってしまって、
以来、ホスト部で集まるイベントが企画されても、
ハルヒは、ぱったりと姿を見せなくなってしまったので、
鏡夜ができることと言えば、何度もハルヒの携帯に電話をかけて、
根負けして電話に出てくれる彼女に、
このままで良いのかと、問い詰めるくらいしかなかった。
そうすると決まってハルヒは、鏡夜の言葉にこう答えるのだった。
『環先輩を忘れるなんて出来ません』
それは、魔法の呪文だった。
環のことを話題に出されれば、鏡夜は黙って引くしかない。
このままじゃいけないと、分かっていたとしても。
あの時、お前は俺にすがったのに。
航空機の墜落事故の報道で、
乗客リストの中に環の名前が読み上げられた瞬間、
鏡夜の前で彼女は泣き崩れた。
事故の情報を掴んで、慌ててハルヒの元に駆けつけた鏡夜は、
半狂乱に泣き叫ぶ彼女を見て、
ハルヒが壊れてしまったのかと思った。
いつも飄々としている彼女が、
あそこまで感情をむき出しにして泣き喚く姿を、
鏡夜はそれまで見たことが無かったし、想像することさえ無かったからだ。
もちろん鏡夜だって、環の事故の一報を聞いた時はかなり混乱していた。
けれども、必死に自分にしがみついて泣く彼女に驚いて、
ハルヒが落ち着くまで、鏡夜はずっと彼女を抱きしめていた。
ただ、彼女の名前を呼び続けながら。
あの時、腕の中の彼女の温もりのおかげで、
鏡夜は、自分自身も取り乱すという醜態を晒すことなく、
彼女を支え続けることができた。
だから、その日以来、自分こそがハルヒを守るのだと、
そう決意して彼女の心に近づこうとしていたのに、
ハルヒは一向に彼を受け入れず、
しかも傷ついた心を癒そうとしないまま、
冷たい壁の中で一人過ごし続けているのだ。
彼女をどうにかして救ってやりたい気持ちは日々募れど、
しかし、鏡夜も心のどこかでは、
彼女の頑なな様子を、仕方ないことなのだとも思っていた。
環の強い存在感は、事故から一年経ってもなお、
ハルヒの心の中だけではなく、
鏡夜の心に、そしてホスト部のメンバーの心の中に確かに残っている。
今日のように無理矢理彼女の家に押しかけたところで、
結局は、どうしようもない冷たい壁に阻まれて、
溜息をついて帰るしかないと、覚悟はしていた。
でも、ハルヒは今、鏡夜に向ってこう言った。
『自分は、環先輩のことを……忘れちゃいけないんです!!』
忘れては『いけない』。
鏡夜には、彼女のこの言葉が、
傷ついた心が、本当は誰かに救って欲しいのだと、
悲鳴をあげているように聞こえた。
そういうことか、ハルヒ。
環のことを忘れられないからという理由で、
ずっと彼女に拒まれてきた自分。
どうしようもないのかと思っていたその絶対的な理由。
でも、それは違った。
忘れられないんじゃない。
忘れてはいけない、という贖罪の思いが、
彼女の周りに強固な壁を作り出し、
砕けたガラスの破片を深く胸に突き立てたまま、
その傷を癒されるのを恐れてる。
忘れてはいけない。
そうか。ハルヒ、それが……お前の本音か。
* * *
続