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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

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傷ついた鳥達 -2-

傷ついた鳥達 -2- (ハルヒ&鏡夜)

深夜に環の夢を見て泣きながら目覚めたハルヒ。
眠れない午前2時に、ハルヒの元を訪れたのは……。


* * *

鏡夜先輩……?


こんなに遅くまで仕事をしていたのか、
扉の向こう側には、
かっちりとしたスーツに身を包んだ鏡夜が立っていた。

ピンポーン。

どうやら、家に居ることはバレているらしい。
早く扉を開けろと、催促をするように再びベルが鳴る。

鏡夜の突然の来訪に困惑しつつも、
ハルヒはすぐに玄関の扉を開けることはせずに入口から離れ、
壁に取り付けられているインターホンの受話器を取った。

「鏡夜先輩……こんな遅くに、一体どうしたんですか?」
『どうした、は無いだろう?』

インターホン越しに小さな溜息が聞こえる。

『どうしてお前は、何度電話しても俺からの電話に出ない?』

環の事故の後、ハルヒの様子を心配してくれたのだろう、
鏡夜はハルヒの携帯に、ほぼ毎日のように電話を入れてくれていた。

初めの頃は、ごく普通にハルヒも電話に出て、
心配してくる鏡夜に「自分は大丈夫ですから」なんて、
強がりを言っていたものだ。

けれど最近は、徐々に電話を出るのが億劫になって、
それでも律儀に鏡夜が留守電に吹き込んでくれるメッセージでさえ、
ハルヒは全く聞いていなかった。

鏡夜の声を聞きたくなくて。

「だって……だって……」

環がいなくなってから、
ホスト部のメンバーはハルヒを励まそうと、
週末には皆で旅行を企画したり、
時には自宅でお茶会を開いたりと、
色々と気を使ってくれていた。

そんなメンバーの中で、
一番に自分の虚ろな心を見抜き、
その内側へ飛び込んでこようとしたのが、この鏡夜だ。

「前にも言ったじゃないですか?」
『まだ、環のことを忘れられないのか?』
「そう簡単に忘れられるわけがないでしょう!」


……ハルヒ……


先程までの夢の中。


……愛しているよ……


環の甘い声が記憶の中から追いかけてきて、
思わずハルヒの声は上ずってしまう。

「鏡夜先輩には会えません……他の皆がいるときなら別だけど」
『何故だ?』
「だって……」

だって、流されてしまう。

環がいなくなった後で、
ずっと自分を気にかけてくれていた、
そんな鏡夜の優しい言葉を、無防備に聞き続けていたら、
いつかその優しさに、自分は完全に囚われてしまう気がする。

そして、そのまま鏡夜の優しさに溺れてしまったら。


……ずっと、愛しているから……


自分はきっと、自分をあれほど愛してくれていた、
環のことを忘れてしまうだろう。

自分が愛しているのは、環ただ一人。
これまでも、これからも。

だから、環がいなくなったからといって、
自分だけが幸せになってはいけない。
あんなにも自分に愛をくれた、
彼を裏切るようなことはしてはいけない。
だから、一生、自分は環のことは忘れない。


たとえ、この先ずっと、独りきりでいることになっても。


『ここを開けろ』
「……嫌です」
『開けろ、ハルヒ』
「嫌です」
『開けろと言っている』
「嫌です!!!」

ホスト部の部員は皆、とても自分によくしてくれる。

天邪鬼に、いつも自分をからかうあの人達も、
無邪気な顔の裏で、本当は誰よりも周りを見ているあの人も、
無言で言葉は足りなくても、いつも優しく見守ってくれているあの人も、
皆が自分に好意を持ってくれていることはわかる。

とても優しくて温かい世界なのだ。

そんなメンバーの中で、
いつも冷めた表情で皮肉めいた事ばかり言ってくる鏡夜が、
事故の後、実は一番ハルヒに心を砕いてくれていることは、
ハルヒは十分に分かっていた。

だからこそ、鏡夜にだけは、
これ以上、近づかれてはいけないのだ。

「鏡夜先輩、わかってください。
 自分のことを心配してくださるのはありがたいです。……でも」

これ以上、自分に優しくしないで。
これ以上、この中に踏み込んでこないで。
これ以上、この心を覆った壁を壊さないで。


この壁が壊れたら、環先輩が本当にいなくなってしまうから。


そんなことは許されない。
決して許されないことなのだから。

堪えていた涙が再び溢れ出す。

「すみません。もう……帰ってください」
『ハルヒ、俺はお前を……』
「帰ってください!!!」

誰も、この心に触らないで。お願いだから。

ハルヒは鏡夜の言葉を遮ると、
受話器に向かって悲鳴にも近い声を叩き付けた。



 「自分は、環先輩のことを……忘れちゃいけないんです!!」




* * *

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