傷ついた鳥達 -20- (ハルヒ&鏡夜)
目を覚ましたハルヒの横には、鏡夜が手を握って眠っていた。
寝起きの悪い鏡夜に溜息をつきつつ、ハルヒの意識は再び夢の中へ……。
* * *
「……ああ、あとで、ファイルを転送しておいてくれ。
報告書は早急に……それは、全部チェックする。
例のプロジェクト会議は明後日に……それで明日の予定だが……」
目を覚ますと、視界に入るのは見慣れた白い天井。
そして、少し遠くから鏡夜の話し声が聞こえてくる。
どうやら自分を起こさないように、玄関先で電話をかけているようだ。
「鏡夜先輩、おはようございます……」
ベッドを降りて部屋の奥から玄関の方に向かうと、
鏡夜は壁に寄りかかりながら、携帯の画面を見ているところだった。
「ああ、ハルヒ。起きたか」
眼鏡をかけて、いつものようにクールに答える鏡夜に、
本当は先に起きていたのは自分のほうだったのにと、
心の中で毒づくハルヒ。
きっと鏡夜のこの様子では、今朝のことは覚えていないだろう。
ハルヒがなんだかものすごく理不尽な気分になって黙っていると、
鏡夜はハルヒを横目で見ながらくすっと笑った。
「なんだ? 怖い夢でも見たか?」
「からかわないでください!!」
赤面して怒鳴るハルヒを見て、鏡夜はくつくつと楽しそうに笑っている。
怖い夢なんか見てません、と言い返そうとして、
すっかり夢の内容を忘れてしまっていることに戸惑うハルヒ。
あれ?
先ほどまで見ていた夢の中では、
なにかとても温かな言葉を、聞いたような気がするし、
ほんの数分前、起きた直後はしっかり覚えていたように思うのに、
今、思い出そうとしても、どんな夢を見たのか、
不思議なことに、はっきり思い出すことができない。
でも。
「よく覚えてませんけど、怖い夢というよりは、
まあ、どちらかというと、
優しい感じの夢でしたよ」
大きくて、温かくて、陽の光の下にいた時ような、
ほかほかとした感覚だけは、しっかり残っている。
「……そうか」
鏡夜は携帯のメールをチェックしていたようだったが、
やがて、ぱたんと携帯電話を閉じた。
「ところで、なんで鏡夜先輩は帰らなか……」
「ハルヒ。お前今日は特に依頼者と会う予定があるわけではないんだろう?」
「え? あ、はい」
ハルヒの質問は遮られて、その答えは貰えずに、
代わりに鏡夜の質問に答える羽目になってしまっていることに、
一抹の不公平さを感じながらも、ハルヒは素直に頷いた。
「月曜の審理の前にもう一度、
提出書類を確認しておこうかと思ってただけなので……」
「じゃあ、今日は俺に付き合わないか? 行きたいところがあるんだが」
「それは構いませんが、どこへ行くんですか?」
ハルヒがわずかに首を傾げると、
鏡夜から、ふっと小さな溜息が漏れた。
「……あの馬鹿の、
墓参りに、な」
……え?
あまりに突然の鏡夜の申し出に戸惑っていると、
鏡夜は柔らかな眼差しをハルヒに向けて、
もう一度、はっきりと、彼女の心を促した。
「一緒に環に会いに行こう」
* * *
続
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