『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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* * *
鏡夜のほうから握ったはずの手は、
何時のまにかハルヒのほうからも、しっかりと握られてしまっている。
鏡夜は握りあった彼女の手をそっと持ち上げると、
その手の甲に優しくキスをした。
* * *
ぶるるるる。
何処からか携帯電話の着信の振動が聞こえてくる。
電話……?
ハルヒが、まだ夢うつつな意識の中で、
おそらく枕元に置いていたはずの携帯電話を、
手探りで取ろうと腕を伸ばすと、何か違う感触のものが指先に触れた。
ん……?
違和感に驚いて瞼を開けると、
自分の左側、目の前に見えたのは……。
「鏡夜先輩!?」
寝ぼけていた意識は一気に覚醒し、
ハルヒは慌てて上半身を起こした。
鏡夜は、ハルヒの左側に、スーツを着たまま、
自分の右腕を枕に倒れこむ様にして眠っていて、
一方の左手は、ハルヒの左手を握りしめている。
「え、え?」
なにやらよくわからない状況が目の前に広がっているが、
どうやら鏡夜は、ハルヒの手を握ったまま眠ってしまったらしい。
ぶるるるる。
携帯の振動音は続いている。
ハルヒはすぐに、枕元に放置していた自分の携帯電話を確認したのだが、
特に着信している様子がない。
どうも、ハルヒの携帯電話が鳴っているのではないようだ。
ぶるるるる。
再び音が聞こえてきた方、ハルヒが視線を鏡夜に落とすと、
鏡夜のスーツの胸ポケットに、着信で光る携帯電話が見えた。
「鏡夜先輩、起きてください。携帯が鳴ってますよ」
「……」
最初、ハルヒはやや遠慮がちに声をかけたのだが、
鏡夜は熟睡してしまっているようで、まったく反応がない。
「鏡夜先輩、電話ですよ。起きてください」
今度は、若干大きな声で呼びかけてみたが、
鏡夜は一向に起きる気配がない。
仕方なくハルヒは、鏡夜の肩を右手で揺すってみることにした。
「鏡夜先輩、電話です!」
何度か揺すると、ようやく鏡夜の眉がピクリと動いた。
「…………電話…………だと?」
聞こえてきたのは、普段の数倍は低音部に下がった、
腹の底から搾り出すような、低く暗い鏡夜の声。
なんとも異様な雰囲気に、
謎の寒気に襲われたハルヒは、反射的に鏡夜の肩から手を離す。
「…………」
鏡夜はベッドの上で横になったまま、
ようやくハルヒの左手を離すと、
胸ポケットの携帯を引っ張り出し、通話ボタンを押したようだ。
「……俺が……寝ているときに……電話とは……いい度胸だな……橘」
くぐもった低い声でゆっくりと喋る鏡夜の様子は、
いつにも増して怖ろしい。
「…………わかって……いるな?」
それだけ言うと、鏡夜は携帯を切って、
それを、そのまま無造作にぽんと背後に放り投げてしまった。
「え? 鏡夜先輩、ちょっと!」
落ちた時の音からすると、絨毯の上に転がったようだから、
おそらく壊れてはいないだろうが、
それにしても鏡夜のこの様子は、一体どうしたというのだろう。
「先輩、仕事の呼び出しじゃないんですか? 大丈夫なんですか?」
「……」
「鏡夜先輩!」
「……五月蝿い……黙れ」
鏡夜は、突然、がばっと起き上がると、前髪の下からハルヒを睨む。
「大体、誰のせいで帰れなくなったと思っている?」
急に滑らかになった言動に、
ハルヒの背筋にぞくりと悪寒が走る。
「え、いや、あの、その……」
鏡夜の機嫌の悪さは今まで見た中でもトップクラスに全開で、
ベッドの上で後ずさるハルヒの腕を掴むと、
有無を言わさず、ハルヒを押し倒して……。
がくん。
次の瞬間、鏡夜の体から急に力が抜けて、
彼の全体重がハルヒの上に圧し掛かってきた。
「きょ……鏡夜先輩?」
ハルヒを押しつぶすように、倒れこんだ鏡夜からは
すーすーと寝息が聞こえてくる。
「……寝てる?」
そういえば……。
『鏡夜先輩とハニー先輩の寝起きは異常に悪い』
……と、ホスト部の皆が言っていたっけ。
とはいうものの、光邦の凶悪な寝起きの様子を、
部活動中に昼寝から起きる時に、何度か見たことがあったから、
鏡夜の寝起きが悪いといっても、
光邦ほど酷いことは流石にないだろうと、なんとなくイメージしていたのだが、
ここまでたちが悪いとは、ハルヒの予想を遙かに超えている。
それにしても……。
左手を掴まれているだけの状態ならまだしも、
ベッドの上で、ハルヒは長身の鏡夜に押さえ込まれる格好になって、
起き上ろうにも起き上がれなくなってしまった。
これは……どうしたら……。
横目で窓際の置時計を見ると、
時間は午前九時をとっくに回っている。
今日は週末、土曜日ではあったが、
土日も問わず忙しく働いている鏡夜のことだ、
今日もきっと朝から仕事が入っていたに違いない。
先ほどの電話も、なかなかハルヒの部屋から出てこない鏡夜を気にして、
意を決して、橘がかけてきたのだろう。
「どうするんですか、仕事は」
と、ぼやいてみても、
鏡夜はすっかり眠りこんでしまっていて、ぴくりとも動かない。
これはひょっとして……、
鏡夜先輩が起きるまで、このままなんだろうか。
さすがに困ったな、と思いつつも、
もう一度、鏡夜を起こしてあの不機嫌さを受け止める勇気もなく、
ハルヒは鏡夜の腕の下でやれやれと溜息をつくと、
起き上がることを諦めた。
「もう、知りませんよ」
鏡夜の腕の下で、仕方なく目を閉じると、
鏡夜の体温が伝わってきて、その温もりの中で、
ハルヒの意識も再び澱んでいき、
柔らかで温かい浅い眠りが、ふんわりとハルヒの全身を覆っていく。
そんな心地よい感覚の中で。
……ハルヒは、ひとつの夢を見た。
* * *
続