『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
傷ついた鳥達 -1- (ハルヒ&鏡夜)
一番大切な人が、突然の事故でいなくなって一年。
ハルヒと鏡夜。残された二人の物語。
* * *
『ハルヒ、聞いてくれ』
携帯電話の向こう側、電波が悪く途切れがちな音声。
いつものような甘い声ではなく、
何だか妙に緊迫した雰囲気の、
今まで一度だって聞いたことも無いような切ない声で。
最後に、彼はハルヒにこう言った。
『愛しているよ。ずっと、愛してるから……だから……』
「環先輩! 待って……」
行かないで……!
* * *
泣きながら目を覚ますと、
そこはいつもの自分の部屋だった。
白い天井、白い壁。四角い箱の中に独りきり。
ハルヒは今年から新米弁護士として働き始めたばかりで、
仕事場に近い場所にマンションを借りて、
一人暮らしを始めて、はや数ヶ月になる。
仕事をしている間は良かった。
毎日が新しいことばかりで、とても忙しくて、
働いている間はどんなに辛いことでも忘れていられたから。
でも、家に帰って一人になると、
途端に『あの日』のことが思い出されてしまう。
あの日……そう、飛行機が墜落して、
誰よりも大切で愛しく思っていたあの人が、
自分の目の前から突然いなくなってしまった日のこと。
ハルヒよりも一年早く社会人になった環は、
須王グループの後継者として、毎日とても忙しそうにしていた。
ハルヒが大学を卒業することになった時も、
卒業式前日まで海外出張が入っていたにも関わらず、
ハルヒの卒業式には絶対に行くんだ、ハルヒの袴姿を見たいんだと、
忙しい時間をやりくりして、ハルヒの元へ向かっていた、その途中の突然の悪夢。
「環先輩……」
誰もいない部屋の中で、
無意識にハルヒが彼の名前を呟いた、その時だった。
ぶるるるる。
視線を音の方へ向けると、
ベッドの脇に無造作に置いてあった携帯電話が、
不規則に明滅、振動して着信を告げている。
涙をそっと拭って携帯を取り上げつつ置時計を見ると、
常夜灯の薄明かりの中、
時計の針が深夜2時を指しているのが見えた。
こんな遅い時間に一体誰だろ?
首をひねりながら、二つ折りの携帯電話を開く。
「鏡夜先輩?」
ハルヒは画面に表示されている名前を見て、
電話に出ることを躊躇った。
よりにもよって、環の夢を見た後に、
よりにもよって、鏡夜からの電話になんて……、
とても出る気になれない。
ためらう指先が通話ボタンの上を力なく滑る、
そのハルヒの手の中で、
携帯電話はかなり長い間振動し続けていたが、
しばらくそのままでいたところ、自動で留守番電話に切り替わり、
ようやくその震えが止まった。
どうやら鏡夜はあきらめてくれたようだが、
それにしてもこんな夜中にいきなり電話なんて、
一体、鏡夜はどういうつもりなのだろう?
静かになった携帯電話を、枕の脇に放り投げると、
ハルヒはベッドに体を横たえて、
間接照明の黄色い光が、
うっすら照らし出している無機質な白い天井を、ぼんやりと見つめた。
わかっている、本当は。
何時までも『この場所』にとどまってはいけないこと。
それでも、こうして独りっきりでいると、
どうしても環の笑顔を思い出してしまう。
あれは、環が桜蘭学院を卒業する間際の事。
お互い不器用ながらに付き合いだして、
大学に進んでからも、環が社会人になってからも、
一緒いた時間はそれなりに多かったはずだ。
なのに、思い出すのはどうして、
高校時代の、あのホスト部の活動で生き生きとしていた、
彼の姿なんだろう?
「環先輩……どうして……」
ハルヒは瞳をぎゅっと閉じて、顔を両手で覆った。
どうして、自分の前からいなくなってしまったんですか?
今にも泣き出しそうなほどに、感情が高ぶってきていた、その時。
ピンポーン。
「えっ!?」
突然、薄暗い部屋に響き渡ったインターホンの呼び出し音に、
びくりと体が反応する。
……何?
時は真夜中の二時過ぎ。
何かの間違いか悪戯だろうかと、
若干不安もあってそのまま無視していると、
もう一度呼び出しのベルが鳴った。
……こんな夜中に……はた迷惑な……。
こんな真夜中に玄関を開けたり、
インターホンで対応する気は全くなかったが、
あまりに酷いようであれば、
管理人室にでも連絡しようかと考えつつ、
ハルヒはベッドを抜け出して、
物音を立てないように、そおっと玄関の扉に近づいた。
一体誰がこんな悪戯を……。
「あっ」
ドアに取り付けられた小さな覗き窓から外を見ると、
意外にも、そこにいたのは『とてもよく見知った人』だった。
「きょ……」
鏡夜先輩……?
* * *
続