『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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傷ついた鳥達 -18- (鏡夜&ハルヒ)
鏡夜の気持ちもお構いなしに、今まで散々酷い言葉をぶつけてしまった。
そんな自分を鏡夜が選ぶということが、信じられない様子のハルヒに、鏡夜は……。
* * *
「……お前な。もう少し、自分の価値を理解しろ」
そして、鏡夜は再びハルヒの唇を絡め取る。
高熱に侵されて、何もかもが、
混ざりあって溶けていくような感覚。
ずっと秘めていた愛情は、
彼女に触れて一気に激情に変わる。
このまま、奪ってしまおうか?
鏡夜の胸の中で理性と欲望が葛藤する。
ハルヒはようやく、鏡夜の気持ちを受け入れようとしている。
でも、それは環への想いが消えたからというわけではない。
それでもいいと言い切って、彼女を救うと決めたのは、鏡夜自身だ。
判っている。
やっと越えた高い壁の向こうで、
一人震えていた彼女の心の傷も癒えぬままに、
無理矢理自分のものにしてしまうことは、余りに性急だ。
今、自分がすべきことは、
傷ついた彼女の傍にいてやることだけ。
それだけ許してくれるなら……。
他には、何も要らない。
長い長いキスの後、鏡夜はやっとハルヒを解放した。
「……遅くに押しかけて悪かったな。お前、明日も仕事だろう?」
支えていないと倒れてしまいそうなほどに、
ぼおっと、夢見心地な様子のハルヒは、
鏡夜の言葉でやっと視線の照準が定まって、
彼の目を見つめ返して小さく笑った。
「……もう、今日ですけどね。
一応、休みですが、午後から事務所に行こうかと」
「じゃ、もう寝たほうがいいな」
「寝たほうがって、押しかけてきたのは、先輩のほうじゃ……」
ハルヒの真っ当な抗議には耳を貸さず、
鏡夜はハルヒを部屋の壁際のベッドに押しやって、
彼女に布団を乱暴に被せると、
自分はベッドの端に腰かけてハルヒを見下ろした。
「ちょ……鏡夜先輩、いつまでここにいるつもりですか!」
「お前が眠ったら、帰るよ」
「そんなこと言ったって、こんなの緊張して眠れないじゃないですか!
自分は大丈夫……」
「お前の強がりなんて通じないぞ、もう俺には」
お前の本当の心の声は、もうとっくに俺に届いているから。
「眠れないなら、添い寝してやってもいいが?」
「結構です!!」
鏡夜がからかうと、ハルヒは顔を真っ赤にして布団を目深に被った。
「今日は沢山泣いたから疲れただろう。もう休め」
鏡夜がハルヒの頭を優しく撫でると、
ハルヒは布団を両手でずり下げて、おずおずと顔を出した。
「わ、わかりました……けど、ちゃんと鍵は閉めていってくださいね?」
「……」
深夜に部屋の中で二人きり、
しかもキスまで交わした後だというのに、
このシチュエーションで言う言葉にしては、
余りにも色気のない、というか、
いかにも普段のハルヒが言いそうな率直な言葉に、
鏡夜は思わずくすくすと笑ってしまった。
「……判ったよ」
ま、いっか。
そのまま布団の中に引き入れられようとしていた、
ハルヒの左手を、鏡夜がすっと握りしめる。
その顔に驚きを浮かべたのは刹那のこと、
ハルヒはにこりと笑顔を浮かべて、鏡夜のその手を軽く握り返した。
それから、ハルヒは何度か目を瞬いて、
その都度、鏡夜のことをちらちらと見つめていたが、
かなり泣き疲れていたのだろう、
やがて、瞼がゆっくりと落ちていき、
間もなく、すやすやと小さな寝息を立て始めた。
ハルヒ。お前は知っているだろうか。
環の事故があったあの日、お前が俺を救ったことを。
無邪気な彼女の寝顔を眺めながら、
鏡夜は心の中で彼女に呼び掛ける。
環の事故の報告を橘から受けて、
鏡夜自身も、訳が分からなくなって、混乱していたあの日。
我を忘れていた鏡夜が、なんとか平静を取り戻せたのは、
あの日、鏡夜の腕の中でハルヒが泣き叫んでくれたことが、
彼の想いも代弁してくれていたからに他ならない。
だから、俺は壊れなかったんだ。
「ハルヒ、気付いているか?」
すっかり眠りに落ちている彼女に向かって鏡夜は囁く。
さっき、俺はお前に「俺の心をくれてやる」と言ったけれど、
元々、俺が俺でいられたのは、お前のおかげだ。
だから、あの日、お前の部屋で、
泣きじゃくるお前を抱きしめていたあの時から……。
この俺の心は、もうとっくに、お前だけのものなんだよ、ハルヒ。
「それにしても……」
寝息が規則正しいリズムを刻み、
安心しきった子供のように眠るハルヒ。
眠るのを見届けたら帰る、という話だったのだが、
鏡夜のほうから握ったはずの手は、
何時のまにかハルヒのほうからも、しっかりと握られてしまっている。
「これじゃ、帰るに帰れないじゃないか」
さすがに、これ以上ここにいると、
いつ理性が無くなるか保障はできないんだが、な……。
鏡夜は、仕方がないな、と諦め顔でハルヒを見つめたものの、
まだ素直に言葉では他人を頼ると言い出せない彼女が、
それでも、意識下では少しは自分を必要としてくれてる、
そんな様子が率直に嬉しくて。
鏡夜は握りあった彼女の手を、
彼女を起こしてしまわないように、そっと持ち上げると。
その手の甲に……優しくキスをした。
* * *
続