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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

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傷ついた鳥達 -17-

傷ついた鳥達 -17- (ハルヒ&鏡夜)

罪の意識から、心をずっと閉ざしていたハルヒ。
彼女の悲痛な叫びの中、真実の言葉に気付いた鏡夜は彼女にそっと口づけて……。


* * *

環がハルヒに伝えた言葉。
…なぜ、苦しむことがわかっていて愛を告げたのか。

ハルヒが鏡夜に告げた言葉。
…なぜ、耐え切れない痛みに泣き叫ばないのか。

それらの表面的な言葉の裏側に隠されていた真実。


「自分は、環先輩のことを……忘れちゃいけないんです!!」



夢中で叫んでしまった、
その言葉の裏側にあるのは環への罪の意識。

鏡夜はそれに気付いただろうか?


「環のことをずっと想っていてくれていい。忘れろなんて言わない。
 ただ、俺の傍にいてくれれば……それだけでいいから」



周りの人達が、早く忘れた方がいいよと、
それとなく忠告してくれていることは分かっていた。
いつまでも、環のことを考えていても仕方がないからと。

けれど、そんなことは他人に言われるまでもなく、
ハルヒ自身、よく判っていることだった。

それでも。

環のことを忘れてしまうのは怖かった。
環と過ごした時間の感触が薄れてしまうのが怖かった。

だから、自分を罰することにした。

自分を包みこもうとする暖かさから逃げ続けることで、
ずっと傷つき痛みを覚えたまま、罰を受け続けていられるように。

けれど、今夜、彼女の前に現れた鏡夜は、
そんな自分に向かって『そのままで良い』と言った。


「この俺の心は、全部、お前にくれてやる」


そう言って、彼はハルヒの唇に初めて触れた。

ただ触れただけの優しいキスなのに、
唇から伝わってくる温度がとても熱い。

「……」

彼が自分に触れていたのは、ほんの僅かなことで、
それからゆっくりと、鏡夜は顔を離してくれたのだが、
唇は離れても、伝わってきた熱は消えない。

「きょ…や先輩は、なんで……」

ハルヒはその感触に戸惑いながら、鏡夜に問いかける。

「なんで……怒って……いないんですか?」
「怒る? 何故だ?」

吐息が触れ合うほど近くに、鏡夜がいて、
ハルヒの頬や肩口の髪を指先で触れながら聞き返してくる。

「自分は……先輩に……酷いことを沢山……言いました」

一人で大丈夫です。
……その温もりに、甘えたらいけない。

先輩に心配される理由なんてありませんし。
……その声を、聞いてはいけない。

駄目です。そんなの駄目です。
……その温もりに、包まれてはいけない。

だから環先輩のこと、忘れるなんてできません。
……逃げて。もっと遠くまで。囚われないように。

先輩の気持ちは受け取れません。
……堕ちて。もっと深いところまで。二度と浮かびあがらないように。


自分は、環先輩のことを愛しているんです。
……凍ってしまえ! この想いごと。


始めから温もりを知らなければ、自分から遠ざけてしまえば、
温かさに浸った後の寒さに怯えることもない。

この一年、ハルヒはずっとそう自分に言い聞かせ、
鏡夜の心を頑なに拒み続けていた。

それなのに。


鏡夜は、なぜ、こんなに優しく自分に触れてくれるのだろう?


「……自分は……ほんとに……不器用で……」

掠れた声で、ハルヒは一生懸命言葉を紡ぐ。

「人の心に鈍感で……人を……失う恐さに怯えてて……」

これが本当の自分。

「た、環先輩の……思い出にいつまでも囚われてて……、
 抜け出す勇気も……なくて……」

ただ怯えているだけの、これが本当の心。

「こんな自分に、心をくれるだなんて……本気ですか?」

きっと、鏡夜がその気になれば、
いつまでも、いなくなった人間に囚われている、
こんな自分なんかを選ぶのではなくて、
それ以外の……常に傍にいてくれて、傷ついた心を癒してくれる相手を、
いくらでも、探すことができると思うのだ。

それなのに、こんな自分で良いなんて、到底信じられない。

「……お前な」

つい先ほどまで、ハルヒを抱きしめて声を震わせていた鏡夜は、
今は、すっかりいつもの落ち着きを取り戻していた。

聞きなれた心地よいトーン。

冷静で、低く、優しく、穏やかな……そして、奥に強い意思を秘めた美しい声。

「もう少し、自分の価値を理解しろ」

鏡夜はハルヒにそう告げると、眼鏡を外し、ふっと笑った。


「お前以外の誰に、この俺が、
 こんなみっともない姿を見せられるというんだ?」



そして、鏡夜は再びハルヒの唇を絡め取る。

先ほどよりも長く、そして深く。

ハルヒの感覚全てを飲み込んでしまうような、
強引で目眩がするほどの圧倒的な熱量で。

鏡夜先輩……。

体中が緊張で強張ったのも束の間、
ハルヒは自ら視界に帳を降ろして、力を抜くと、
全ての意識をその暗闇の中に委ねた。


今はただ、唇から伝わってくる彼の熱だけを、
素直に感じていられるように。



* * *

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