『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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傷ついた鳥達 -16- (鏡夜&ハニー)
ハニー主催のパーティで、ハルヒと久々に再会した鏡夜。
強がり続けるハルヒに、鏡夜はついに自分の想いを告白したのだが……。
* * *
泣いているのか笑っているのか、
どちらともつかない表情で、ハルヒははっきりと言い切った。
「自分は、環先輩のことを愛してるんです」
それは絶対的な呪文。
その強力な魔法の言葉に、
何も答えられなくなってしまった鏡夜は、
彼女からゆっくりと手を離す。
* * *
「それじゃ、ハニー先輩。今日は美味しいケーキ、ご馳走様」
「モリ先輩も、またね。ほら、ハルヒ行くよ」
結局、食べ切れなかったケーキは、
お土産用に箱詰めされて、ハルヒの手にある。
「では、自分もこれで失礼します」
ハルヒは一度も鏡夜の顔を見ようとせず、
双子の車に便乗して、埴之塚邸を出て行ってしまった。
「光邦、また明日来る。鏡夜もまたな」
そう言って、崇も、隣の自宅に帰っていってしまったので、
その場には鏡夜と光邦が残された。
「俺もそろそろ行きますね」
いつものようにあっさり挨拶して、
鏡夜も送迎の車の方へと歩いていこうとした。
「鏡ちゃん」
そんな鏡夜を光邦が呼び止めた。
「鏡ちゃん。ハルちゃんに、ちゃんと気持ちを伝えられた?」
今回のケーキの件は、ハルヒと鏡夜を二人っきりにしようとした、
光邦の計画であることはさすがに理解できたから、
きっと、ハルヒとどうなったのかと、聞かれる予想がついていたからこそ、
さっさと退散しようとしていたのに、
光邦は、このまますんなりと鏡夜を帰してくれる気はないらしい。
人形のような、無感情な、凍りついた表情で、
あんな言葉で拒絶された身としては、あまり答えたくない質問だった。
けれど、鏡夜がハルヒへ抱いている本当の気持ちを、
知っていて、敢えて今日のイベントを企画してくれた光邦に、
事の顛末を話さないわけにもいかないだろう。
「本当は、言うつもりはなかったんですがね」
鏡夜はその場で立ち止って、
「……まあ……見事に振られましたよ」
光邦の方は振り返らず、
自分に言い聞かせるように、独り言ともとれる感じで答えた。
彼女を守りたいと、彼女を救いたいと、
ずっと気を使って我慢してきた結果が、
こんな無様な状況にしかならなかったことに、
鏡夜は俯いて自嘲気味に、力ない笑顔を浮かべた。
「ハルちゃんは何て?」
「……環のことを愛してるそうです」
「それだけ?」
鏡夜は眼鏡の位置を直しつつ、ゆっくり一度目を瞑る。
自分の前ではただの一滴も涙を零さなかった、
ハルヒの言葉が、頭の中を駆け巡る。
「……環のことが忘れられないんだと。
だから、俺の気持ちは受け取れないと、言われました」
「そう……なんだ……」
「すみません。折角、色々気を使って頂いたのに。
俺にはハルヒを救ってやることは出来ないようです」
「本当にそう思ってるの? 鏡ちゃん」
背後の光邦の声が、若干、厳しい口調に変わった。
「本当に自分には救えないって、そう思うの? 鏡ちゃん」
鏡夜が返事に困っていると、
光邦はさらに質問を重ねてきた。
「ハルちゃんは、たまちゃんのことが忘れられないから、
鏡ちゃんの気持ちは受け取れないって言ったんだよね?」
「……ええ」
「それなら、ハルちゃんは、
鏡ちゃんのことが嫌いだから断ったわけじゃないってことだよね?」
……!
ようやく鏡夜が振り返ると、
厳しい口調とは裏腹、とてもにこやかな笑顔を浮かべて、
優しく鏡夜を見つめる光邦がそこにいた。
「ねえ、ここからスタートじゃない? 鏡ちゃん。
どうしたって、時間はかかると思うよ。
たまちゃんがいなくなってから、
まだ、ほんのちょっとしか経ってないしね。
でも、少なくともハルちゃんは、
自分のすぐ近くで、自分のことを大切に想って、
自分のことを見守ってくれてる人がいるってことを
きっと、今日判ったはずなんだ。
だから、ハルちゃんが鏡ちゃんの気持ちを受け入れるかどうか。
それはこれからの鏡ちゃん次第じゃないかな?」
「……そうでしょうか?」
「うん。僕はそう思う」
なんの根拠があるかはわからないが、
妙に自信たっぷりに光邦に断言されると、
理屈なく信じようという気になってくるから不思議だ。
「本当は少し苛立っていたんです」
鏡夜がそう打ち明けると、
光邦は鏡夜の機嫌を伺うように小首を傾げ、
鏡夜の表情を覗き込んだ。
「僕、ちょっと、おせっかいだった?」
「俺は環とは違いますからね。
少なくとも、人が立てた計画に乗せられるというのは、
俺の性格上はありえないことなので。……ですが……」
一旦言葉を切ると、鏡夜は満足そうに、穏やかな笑顔を浮かべた。
「今日ここに来て良かったと、今はそう思ってますよ」
「……そっかあ」
その言葉を聞いて、光邦は鏡夜に無邪気な笑顔を返す。
「焦っちゃだめだし、諦めてもだめだよ。鏡ちゃん。
ハルちゃんの本当の声を、聞き逃さないようにね」
環がハルヒに伝えた言葉。
…なぜ、苦しむことがわかっていて愛を告げたのか。
ハルヒが鏡夜に告げた言葉。
…なぜ、耐え切れない痛みに泣き叫ばないのか。
それらの表面的な言葉の裏側に、
どんな真実が隠されているのか、今は、まだ分からないけれど。
いつか、その言葉の中の真実を、
自分は聞き分けることができるだろうか?
「そうですね」
年は一つしか違わないはずなのに、
昔から、この先輩にはなぜか頭があがらない。
「ご忠告、肝に銘じておきます」
鏡夜は観念したように息を吐き出すと、
光邦に向かって小さく頭を下げた。
* * *
続