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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

Suriya'n-Fantasy-World

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傷ついた鳥達 -15-

傷ついた鳥達 -15- (鏡夜&ハルヒ)

周囲の人間のお節介を、たまには受け入れてみようと決め、
鏡夜はハルヒへ会うために埴之塚邸へ向かう……。


* * *

ハルヒに会ったら、
俺は自分の心を自制することができるだろうか?

自問自答を繰り返す鏡夜を乗せ、
車は埴之塚邸へと向かっていく。

* * *

「これは、困りましたね」

と、言うのは、隣にいるハルヒ。

「そうだな」

と、応えるのは、鏡夜。

二人の目の前には、
小振りのホールケーキが置かれている。

生クリームたっぷりのベースに、
苺やら黄桃やら所狭しと盛り付けられた豪華なケーキは、
かなり高級なものであることは想像できたが、
いかんせん、それが、ハルヒと鏡夜の前に一つずつ置かれているのだ。

一人一つ食べるには、やや大きすぎる。

数か月ぶりになる、久々のホスト部の集まりで、
一同に介したメンバー達が、
互いに今の仕事のこととか、海外での出来事とか雑多に話し合い、
お茶を飲んで和んでいたところに、
埴之塚邸の使用人が、目の前に次々と、
ケーキを運んできたのが事の発端だった。

「え、ハニー先輩、これ、何?」

光が恐る恐るテーブルの上の八つのホールケーキを指差す。

「じゃ、じゃ~ん! 本日のメインイベント~スペシャルケーキだよ~。
 ウチのパティシエに特注で、皆に一個ずつ作ってもらったんだ~」

と、満面の笑みの光邦。

「確かに美味しそうだけど、これ、一人一個なの? 数が合わないけど……」
「光邦は三つ食べる」

当惑する馨に、崇がそう答え、光邦の前に三つのケーキを並べる。

「それじゃ~皆、食べよ~う。いただきま~す」

最初は面食らっていたメンバーだったが、
一口食べたところで、皆の頬が紅潮する。

「さすが、ハニー先輩んちのお抱えパティシエだけあって、美味いね」
「これなら、僕らでも食べきれるかも……さすがに、三つは無理だけど」
「光邦にとっては少ないくらいだ」
「食べ終わったら、うちの玩具メーカーの新作ゲームを、
 向こうの部屋に用意してあるから、皆で遊ぼう~!
 あ、そうそう。食べ終わるまでは、この部屋から出ちゃだめだからね~」

ホールケーキを一人で三つも食べているにも関わらず、
最初に食べ終わったのは、やはり、光邦で、
その後には双子が続き、それから崇も見事に平らげた。

「それじゃ、ハニー先輩が呼んでるし、向こうの部屋いってるよ」
「ハルヒ、鏡夜センパイ、がんばって食べてね」
「先に行く」

と、次々とメンバーが抜けていく中で、
甘いもの嫌いの二人が後に残されたというわけだ。

気付けば給仕達も全員部屋から出て行ってしまっている。

静かになった部屋の中で、鏡夜がちらりと左隣に視線を向けると、
ぱたりとハルヒと目が合った。

「と……とりあえず、食べましょうか。鏡夜先輩」

ハルヒは仕方ないという顔で苦笑いすると、
フォークを目の前のケーキに突き立て始めた。

「ああ、そうだな」

溜息をついて眺めていても、
目の前のケーキが無くなるわけもないので、
鏡夜も諦めて自分の前のケーキに手をつけ始めた。

フォークですくったケーキの欠片を、口の中に放り込むと、
生暖かい、ふわふわした甘さが広がる。
蜂蜜だとか、チョコレートとかの甘さはまだ良いのだが、
この生クリームの感触がどうにも慣れなくて、
それが鏡夜が甘いものが苦手な原因の一つでもある。

口の中の気持ち悪さを押し流すために、
飲み物に手をつける回数も増える。

「久しぶりに会いましたけど、皆、変わってなくて。
 なんだか安心しました。たまには、いいですよね。こうして集まるのも」
「修習は大変か?」
「そうですね、今は実務研修に入っていますから。
 研修地が東京だったのは助かりましたけど。
 まあ、自分は任官志望ではないので、
 成績はあんまりこだわってはいませんが、
 ……って、でもこれ、もう話しましたよね?」
「ああ、先週電話で聞いた」

そう、いつものような、当たり障りの無い話。

でも、こんないつでも聞けるような話を、
今、俺はお前から聞きたいわけじゃない。


胸の奥の棘が熱い。


ホールケーキは食べやすいように予め六等分してあって、
その内、ひとかけら分は、なんとか食べきったが、
その段階で、すでに胃がむかむかとし始めていた。

「やっぱり、これは無理じゃありませんか?」

ハルヒも同じ状況の様だ。

いくら美味しいといっても、
根本的に甘いものが苦手な人間に
ホールケーキを丸ごと一個食べろというのは罰ゲームに等しい。

まあ、ケーキのことはこの際どうでもいい。

それよりも、彼女の様子が普通すぎること、
あまりに普通を装いすぎていることのほうが、鏡夜の勘に触った。

「ハニー先輩に言って、タッパーか何かを借りて……」
「どうしてお前はそうなんだ?」
「え、だって勿体ないじゃないですか。持って帰れば、後で食べれますし」
「そういうことを言ってるんじゃない」

鏡夜はフォークを置いて口元をナフキンで拭う。

「今日もいつも通りの自分を演じているようだが、
 それは、お前の本当の気持ちではないだろう?
 見ていて、こっちが辛くなる」
「……平気ですよ」

また、それか。

鏡夜の視線は眼鏡のレンズを通り越し、
ぼんやりとテーブルの上に注がれている。

「自分は、大丈夫ですよ」

また、自分は大丈夫、か。

「あの日、俺がお前の部屋から出て行った後、お前は泣いてただろう?」
「……聞いていたんですか?」
「俺はずっとあのときお前の傍にいたのに、
 どうして、今更一人で耐えようとする?」
「だって、先輩にご迷惑はかけられませんし、
 自分は別に、一人で大丈夫ですよ」

また、一人で大丈夫、か。

「別に、俺は迷惑とは思っていないが」
「先輩が構わなくたって自分が気にします。
 自分には、別に、鏡夜先輩に優しくされる理由はないですし」
「……」


理由はない……だと?


鏡夜は横目でハルヒを睨んだのだが、
ハルヒは鏡夜のほうを見ようとはせず、
少しずつでも食べ進めようと目の前のケーキに視線を落としていたから、
鏡夜の強張った表情には気付いていないようだった。

胸に刺さった熱い棘。その痛みが一気に体中に蔓延していく。

「それに、自分は今でも環先輩のことを……」
「環は、もういない」

この数カ月、彼女をただただ気遣って、
言ってやりたい言葉の全てを心に封じ込めて、
徐々に酷くなる胸の痛みを、ずっと我慢してきたというのに。

「ハルヒお前は、今、俺に優しくされる理由はないと言ったな」

胸に刺さった熱い棘の痛みに耐えられない。
この熱は、誰のために生じたものか。


教えてやろうか?


たとえ、その衝撃で、
彼女の硝子の心が壊れることになっても。
その破片で鏡夜自身が、傷つくことになっても。

こんなふうに強がりつづけるお前の姿を、
もうこれ以上、黙って見ていられない。

「じゃあ、こうすれば、その理由が分かるか」

鏡夜は席を立つと、ハルヒが座る椅子の背後に回り、
そのまま背もたれ越しに彼女を後ろから抱きしめた。

「愛してる、ハルヒ」

ハルヒの手からフォークが滑り落ち、床の上に跳ねる。



「もう、ずっと前から、俺はお前のことを愛してる」



ハルヒの身体が震えだす。
環の事故を知った、あの夜のように。

「……駄目です」
「何が、駄目だ?」
「駄目です。こんなの駄目です。環先輩が……」
「環はもういないんだ!!」

鏡夜は怒りにまかせ、声を荒げると、
彼女を抱く腕に力をこめた。

「環のことをいつまでも、想っていても仕方ないだろう!」
「でも……環先輩は最期に電話で……、
 自分に向かって……愛してるって……言ってくれたんです!」
「……何?」

環が最期に彼女に告げた言葉。

「環が、お前に、最期に……?」
「そうです。ずっと……愛してるからって……」

ハルヒが苦しむことなんて、
環は絶対にしないと思っていたのに。

最期に一方的に愛の言葉を残すなんて、
それがどう残された彼女を苦しめるか、
わからないわけはなかっただろうに。


環、お前は、一体どういうつもりで……。


「だから自分は、環先輩のこと忘れるなんてできません」

今、自分の前には、確かにハルヒがいるはずなのに、
彼女の存在は、なんだか幻のようにも思えてしまって、
この手に抱きしめているはずの彼女の肌も、まるで実感がない。

このまますぐにでも、消えてしまいそうな夢幻。

「鏡夜先輩の気持ちは嬉しいです。
 自分は鏡夜先輩を尊敬していますし。
 でも、すみません。先輩の気持ちは受け取れません」

泣いているのか笑っているのか、
どちらともつかない表情で、ハルヒははっきりと言い切った。


「自分は、環先輩のことを愛してるんです」


それは絶対的な呪文。

強力な魔法の言葉に、
何も答えられなくなってしまった鏡夜は、
彼女からゆっくりと手を離した。

『卒業までに、ハルヒの心を奪えたら、俺の勝ち』


環……お前は……。


ハルヒの心を、どこへ連れて行く気だ?


気丈に振舞ってはいたけれど、
ハルヒの背中が小刻みに震えているのは分かった。

けれど、結局最後まで、
彼女はその瞳から、一粒の涙も零すことはなかった。

* * *

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