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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

Suriya'n-Fantasy-World

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傷ついた鳥達 -12-

傷ついた鳥達 -12- (ハルヒ&鏡夜)

鏡夜を、現実に引き戻したのはハルヒの悲鳴。
混乱し泣き喚くハルヒを、鏡夜はその腕に抱きしめて……。


* * *

鏡夜はずっとハルヒを抱きしめ、彼女の名前を呼び続ける。

* * *

粉々に砕けたガラスの破片が、
心と身体を容赦なく突き刺していく。

この破片は自分の心の破片か、
それとも、他の誰かのものか。

環……先輩……。

空を自由に飛んでいた翼はすっかり傷ついて、
落ちていく。深い、とても深いところまで。
この感覚は一度味わったことがある。
とてもとても昔の、まだ、自分がとても幼かった時の話。

あの時は、父親の大きな手が自分の手を握っていてくれた。
火葬場の煙が細く長く空へ消えていく様子を、
父の手にしがみついて、ただじっと見上げていた。

世界はとても冷たかったけれど、
繋がった手だけが唯一温かかった。

同じような深い場所へ、再び落ちてゆく意識。

ここは、とても暗くて、周りに何も見えなくなって、
そして、とても寒くて。全ての感覚は麻痺していく。

けれども、その寒さの中、ほんの少しだけ感じる、
自分の周りを包むこの温かさは、何?

今の自分の両手は、誰の手も掴んでいないのに、
幼い時と同じような深く冷たい森の中、
いきなり迷い込んでしまった自分の周りを、
なんだろう、仄かに、温かい空気が包んでいる気がする。

これは、なんのだろう?

陽の差し込まないその暗闇の中で、
すぐにでも凍えそうな身体が、その僅かな熱で護られている。


……ハルヒ。


誰かが自分を呼んでいる。とても優しい声で。
聞き覚えがある声だと思うのに、誰の声なのか思い出せない。

一体誰が自分を呼んでいるのだろう。

誰かが何処からか自分を呼んでいる。とても温かい声で。
聞こえてくるのは外からだろうか? それともすぐ近くから?

でも、外には出ていってはいけない。
この森の中に迷い込んだのは、全て自分の責任だから。

環先輩。

両足に繋がれているのは頑丈な足枷。
これをつけたのは、果たして自分なのか環なのか、
どっちだったのだろう。

環先輩、大丈夫ですよ。

自分は、ずっとここにいます。
ずっと忘れません。
一生、先輩のことを愛していますから。
だから、それで許してくれますか?

先輩の思いにずっと応えられなかった、こんな自分を。


……ハルヒ。


ああ、でもどうして、自分を呼ぶ優しい声が聞こえてくるのだろう。
ここから連れ出さないで欲しいのに。
自分はここに一生閉じこもっているべきなのに。

一体誰がこの暗闇を暴こうとするの?

耳にまとわりつく、低く優しい声。
すぐにでも身を委ねてしまいたくなるほど心地よい誘惑。

けれど、この声を聞いてはいけない。

暴かれてしまう、この暗闇。
流されてしまう、この感情。
これは、とてもとても危険な声だから。


だから決してこの声に、耳を傾けてはいけない。



随分と長い時間が経ったように思う。
もしかすると気を失っていたのかもしれない。
ハルヒがふっと目を開けると、
その目の前に、自分を抱きしめてくれている鏡夜の顔が見えた。

「鏡夜先輩?」

鏡夜の瞼は軽く閉じられていた。
どうやら少しばかりうとうとしていたらしい。

声をかけると、鏡夜はすぐに目を開けて、
ハルヒの名を呼んだ。

「ハルヒ」

ああ……この声だ。

深い闇の中に隠れていようと思っていた自分の元に、
ずっと、聞こえてきていたのは、鏡夜の声だったのだ。

「鏡夜先輩。もしかしてずっと……居てくれたんですか?」
「まあな」

部屋の床に座ったまま、
彼女をずっと抱きしめていたらしい鏡夜は、
いつものような冷めた口調で、短く答えると、
ハルヒの背中に回していた手を解いた。

「……自分は、その、どれくらい……」
「もう夕方になる」

鏡夜は壁にかかっていた袴をちらりと見やる。

「卒業式、結局出れなかったな」
「……そうですね」
「楽しみにしていたんだがな。あの馬鹿は」

ぽつりと呟いた鏡夜の声に、
昨日の深夜に彼から告げられた言葉と、
ニュースの音が記憶の中に戻ってきた。

「……環先輩は、本当に、いなくなってしまったんですね」
「…………ああ」

とにかく鏡夜から離れようと、
立ち上がろうとしたハルヒの手を鏡夜が掴んだ。

「ハルヒ。大丈夫か?」

熱い。

鏡夜に掴まれた部分が熱い。

この熱だ。この熱がずっと自分を包んでいた温もりの正体。

「自分は、大丈夫ですよ。少しは……落ち着きました」

この人から、離れなきゃいけない。
心の中を読まれてしまうから。

「もう、一人でも大丈夫ですから」
「本当に?」

鏡夜の鋭い視線が、ハルヒの心を暴こうとしている。

危険。

この人に、近づいてはいけない。
心臓が痛くなるのは、危険のシグナル。
もっと奥へ逃げ込まないと、見つかってしまうから。

逃げなくちゃ。
もっと、ずっと、深いところまで。

ハルヒは鏡夜に対して精一杯の笑顔を浮かべて見せた。

「まだすぐには、整理できないかもしれませんが……、
 現実は現実ですから……ゆっくり一人で考えます」

演技は上手いほうではないから。
強がりの嘘はすぐに見抜かれて、
もっと追及されるかとも思っていた。

「……そうか」

けれど、鏡夜は意外にあっさりと納得すると、
彼女の手を離し、立ち上がった。

「それじゃあ、俺は戻るが……、
 いつでも連絡してくれて構わないから」
「はい、本当に……わざわざありがとうございました」

これ以上、鏡夜の顔を見なくてすむように、
ハルヒは深々と頭を下げた。

「……」

玄関から外へ出る際に、
鏡夜はその場に少し留まっていたように思う。

けれども、ハルヒが顔を上げずにずっと下を向いていたら、
鏡夜はそれ以上何も言わず、外に出て行ってしまった。

……ぱたん。

玄関の戸の閉まる音を聞いて、ハルヒの心の緊張が切れた。

「う、うう……」

ハルヒは外に出た鏡夜に聞こえないように
声を押し殺して再び泣き出した。

これで、いいですよね? 環先輩。

温もりが消えていくのがわかる。
代わりに肌を切り裂くような冷たさが、
心の内側から全身を浸食していく。

でも、これでいい。

この痛みも、この寒さも、この苦しさも、
忘れてはいけないこと。


どんなに優しい温もりでも、自分から近づきさえしまければ、
その温かさに溺れてしまうことはないはずだから。



* * *

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