『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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傷ついた鳥達 -11- (鏡夜&ハルヒ)
鏡夜から環の事故のことを聞いても、信じられない様子のハルヒ。
しかし、彼の言葉を裏付けるように流れるニュースを聞いて……。
* * *
三月に入ってから、卒業式をまたずに、
既に一人暮らしを始めていたハルヒのアパートに、
やれ引っ越し祝いだのなんだのと、
理由をつけて押しかけたことは、
まだ引っ越してから数週間しか経っていないというのに、
すでに数回はあったと思う。
だが、一人で訪れるのは、今回が初めてだった。
いつも、自分の目の前には、環の姿があって、
周りにはホスト部のメンバーがいたから。
ここは、こんな景色だっただろうか。
車を降りて辺りを見回すと、
街灯が青白く照らし出す世界が、
今日は、なんだか酷く歪んで見える。
確かに踏みしめているはずの地面も、
ふわふわとした、もろく頼りない感触だ。
ハルヒの部屋の前まで来て、
呼び鈴を押そうとして、指先が震えているのに気付く。
俺は、どうして、ここに来た?
呼び鈴を押すと、目の前にハルヒが現れた。
何かを自分に言っているようだが、
一体、何を言われているのか、よく分からない。
そもそも。
俺は、今、ここで何をしているんだ?
「い、いやあああああああっ」
混乱する頭の中に、突然割り込んできた絶叫が、
鏡夜の心を一気に現実に引き戻した。
……ハルヒ?
鏡夜が部屋の奥を見やると、
ハルヒがテレビの前に座り込んでいるのが見える。
……ここは、ハルヒの部屋、か?
橘から、事故の報告を受けたあと、
車に乗ったところは覚えている。
ハルヒの家に向かえと命じた事も、
記憶の端にかろうじて残っている。
けれど、その他の記憶が、上手く整理できていない。
誰かに、
……ハルヒに?
何かを、
……何を言われた?
そして俺は、
……何を答えた?
鏡夜の耳に聞こえてくるのは、
ハルヒの泣き声とテレビのアナウンサーの淡々とした声。
目の前のテレビには、
やっと一報が入ったのだろう、
航空機事故のニュースが流されていた。
そうだ、俺は環のことをハルヒに伝えにきたんだ。
鏡夜の頭の中にかかっていた白い靄が晴れ、
目の前の景色が急速にクリアになっていき、
同時に、自分が今の今まで混乱し、我を忘れていたことに気付く。
感情のコントロールは、得意なほうだと思っていたのに、
自分の心が、自分で理解できなくなるほどに、
追い込まれていたことを自覚して、鏡夜はぞっとなった。
「こんなのは嫌ああああ」
「ハルヒ!!」
再び聞こえてきたハルヒの悲鳴に、
弾かれるように鏡夜は部屋に上がると、
ハルヒとテレビの間に割って入り、素早くその電源を切った。
「おい、ハルヒ!」
鏡夜は彼女の前に膝を付いて、
俯いて床の上に手をついている彼女の肩を掴み揺さぶったが、
ハルヒの視線は、ただ虚ろに宙を彷徨うのみ。
「まだ………な……い」
すぐ目の前で呼びかけているのに、
鏡夜の声はハルヒには全く聞こえていないようだった。
「ハルヒ?」
「まだ……伝えてない。
自分は……環先輩に……何も伝えてない……」
……ハルヒが卒業するまでに。
「愛してるって。自分も環先輩の事、愛してるって!
まだ、伝えていないのに! なのに、どうしてっ!」
……ハルヒの心を奪えたら、俺の勝ち。
いるはずのない環が、ハルヒの小さな体を包み込んで、
その腕の中に捉えてしまったかのようなイメージが、
フラッシュの閃光のように、鏡夜の脳裏をよぎる。
環、お前は……。
ハルヒがこんなにも我を忘れるなんて、
今までの彼女からは想像も出来なかった。
おそらく原因は、
環からハルヒにかかってきたという、最期の電話。
お前は……一体、ハルヒに何を言ったんだ?
「ハルヒ」
鏡夜は咄嗟に彼女を抱き寄せていた。
「鏡、夜、先輩……」
彼女は抵抗はしなかった。
ただ……抱き寄せられた反動で、
鏡夜のシャツを掴んだ手が、ぶるぶると震えている。
「環、先輩が……環先輩が……どうして!!」
抱き寄せた彼女の身体。
落ち着かせようと何度も撫でた柔らかな髪。
しゃくりあげるたびに大きくゆれる肩。
嗚咽をもらす唇。
大きな瞳から止め処なく流れる熱い涙。
自分の胸に添えられた震える指先。
「……ハルヒ」
鏡夜はぎゅっとハルヒを抱きしめて、
ただただ、彼女の名前を呼び続けた。
腕の中の、ハルヒという存在の実感、
彼の心を現実に繋ぎ止める唯一の糸を、
離すまいと、必死で手繰り寄せるかのように。
* * *
続