『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
傷ついた鳥達 -10- (ハルヒ&鏡夜)
環の乗った飛行機が墜落したとの報告を受け、呆然とする鏡夜。
混乱したまま、彼はハルヒの家に向かう……。
* * *
『鏡夜様、どちらへ?』
「……ハルヒの家に行く」
* * *
在学中に司法試験合格を決めていたハルヒは、
四月から始まる修習のために、
既に、司法研修所の近くのアパートに引っ越して一人暮らしを始めていた。
研修所といっても、そこに居るのは修習期間の最初と最後の二ヶ月だけで、
その後は各地の裁判所へ実務研修に行くことになるから、
地方の裁判所へ行くことになれば、アパートは引き払わなくてはならない。
だから、少し時間はかかるが、そのまま実家から通うか、
あるいは寮にでも入ろうかと思っていたのだが、
色々事情があって、個人的にアパートを借りることになった。
そのハルヒのアパートは、
都内の鳳の家からは、車で小1時間ほどかかる距離にある。
だから、ハルヒは玄関のチャイムが鳴って、外を覗いたとき、
まさか鏡夜がそこにいるとは思わなくて、驚いてしまったのだ。
「鏡夜先輩!?」
かなり急いできたのか、
細身のビンテージデニムに白いシャツという、
とてもラフな格好の鏡夜がそこに立っていた。
「電話が来ないから心配してたんです」
「……ああ、すまない」
鏡夜の声に力が無い。しかも素直に謝る鏡夜なんて……?
「環先輩に、何かあったんですか?」
「……」
ニュースはずっと見ていた。
インターネットのサイトも、何度もチェックした。
でも、飛行機の事故に関するニュースは全く流れていなかったから、
単に通信状況の問題なのだろうと、
若干落ち着きを取り戻していた矢先の、鏡夜の来訪。
鏡夜のただならぬ様子に、
ハルヒは恐る恐る環のことを聞いてみたが、
鏡夜から、はっきりとした答えが無い。
「とりあえず、中へどうぞ。狭いですが……」
ハルヒの言葉に促されて、
鏡夜はのろのろと玄関口まで入ってきたものの、
部屋に上がろうともせずに、その場にぼーっと立ち尽くしている。
「ああ、部屋履きですか? ちょっと待って下さいね」
ハルヒは玄関脇の下駄箱からスリッパを出し、
鏡夜の前に並べたのだが、それでも彼は全く動こうとしない。
「鏡夜先輩、どうしたんですか?」
「ハルヒ」
ずっと黙ったままで、俯いていた鏡夜が、
ようやっと彼女の名を呼んだ。
「ハルヒ。落ち着いて聞いてくれ」
そう言いながら、鏡夜は右手の指先で眼鏡を直す。
これは、いつもの見慣れた癖。
何かを隠しているときによく見せる彼の癖だ。
ホスト部時代の鏡夜が、この仕草で隠していた事といえば、
大抵、彼が部員に隠れて裏であれこれと巡らせていた、
数々の策略だったのだが……では、今日の鏡夜は?
一体、何を隠したいというのだろう。
「やっぱり、何かあったんですか?」
姿の見えない恐怖に、ハルヒの身体はぶるりと震える。
なんだろう? この、悪寒は。
「………た」
「え?」
鏡夜の声があまりに小さかったので、ハルヒは聞き返した。
「今、なんて?」
「墜落した」
「……えっ?」
「環の乗った飛行機が墜落した。乗客の生存は、絶望的とのことだ」
ハルヒは大きな目を、
これ以上無いほどに見開いて、鏡夜に聞き返す。
「嘘。そんなの……嘘ですよね? 鏡夜先輩」
鏡夜はハルヒの顔をまともに見ようとしない。
「そ、そうだ。これ、きっと……また環先輩の思いつきか何かなんでしょう?」
ぎこちなく笑顔を浮かべたハルヒは、
真実を問い詰めようと、鏡夜に近づいて彼の顔を見上げた。
「皆して自分を騙そうったって、そうはいきませ……」
違う。
前髪の下、眼鏡に隠れた鏡夜の瞳は、
今にも泣き出しそうに、真っ赤になっていた。
違う、これは、嘘じゃない。
「そんな……ニュースでは……何も……」
ハルヒは、環からの電話が途切れて以降、
付けっぱなしにしていたテレビの画面を振り返った。
時刻は深夜12時を少し回った辺り。
ちょうど深夜のニュース番組が始まるところだった。
『本日はまず、先ほど入ってきた
航空機墜落事故のニュースからお伝えします』
墜落事故のワードに反応して、
ハルヒは慌ててテレビの前に走り寄る。
鏡夜は、動かない。
『パリ発成田行、AFA272便が、日本時間で本日の午後9時50分頃、
航路の途中で緊急信号を送信後、行先不明になっていた事件で、
DGACフランス航空局の発表によると、
AFA272便とみられる機体の残骸が、ロシア国境付近にて発見された模様です。
事故の詳細はいまだ不明ですが、
機体は空中で分解し墜落したと見られており、
乗員乗客合わせておよそ250名の生存は、絶望的と見られています』
淡々と流れてくるニュースの声。
『現地からの情報など、入り次第お伝えします。
なお、日本人の乗客は56名。
今から確認されている日本人乗客の名前を読み上げます』
落ち着いた女性アナウンサーの声と共に、
テレビ画面に、日本人乗客の名前が次々と表示されていく。
そして。
『須王環』
紛れも無く、彼の名前がそこにあった。
「環、先、輩……?」
ハルヒの周りで、
リアルな世界が音を立てて崩れていく。
……墜落、した?
テレビから流れてくる音は、
ただ、ざあざあというノイズになって、
砕けた心の虚空に、吸い込まれていくばかり。
……生存は、絶望的?
身体ががくがくと震えだして、
足に力が入らなくなり、まともに立っていることもできない。
……環、先輩、が……?
そして、ハルヒの身体は、
その場にゆっくりと、崩れ落ち……。
次の瞬間。
「い、いやあああああああっ」
ハルヒの絶叫が、夜の静寂を貫いた。
* * *
続