忍者ブログ

『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

Suriya'n-Fantasy-World

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


雨上がりの体温

共に在る理由番外編

雨上がりの体温 (ハルヒ)
 
かなり前に書いたちょっと良くわからない短編(笑)なのですが、
パソコンを整理してたら出てきたので、なんとな~く公開。
「共に在る理由」の、いくつかのシーン(例えば6話とか)の元になっている短編です。

1 気まぐれな雨

 
私の上に降りしきる、きまぐれな雨。
濡れる度に、少しずつ奪われていく体温。
 
傘は差さない。
 
このまま雨に打たれ続けることが、
私に与えられた永遠の償いだと考えていたから。
 
ああ、このままいっそのこと、
雨水に意識の全てが溶けてしまえたら楽なのに、
私は今日も存在する。
あの人が居ないこの世界に存在し続ける。
 
永遠に叶わない願いを胸に抱き、
失われてゆく熱に怯えながら、
冷え切った体を震わせて、
この場に立ち止まり、ただぼんやりと、
何も見えない黒い空を見上げている。
 
それが、かつての私の心の姿。
 

2 水も滴る良い女

 
夜中に大粒の雨が、
駅から家への道程をひた走る、
私の肩を容赦なく濡らしていく。
 
天気予報も大外れの、突然の夜中の豪雨。
今日は家から持っていく資料が多かったため、
いつも使用しているバッグとは別の鞄で通勤したのだけれど、
その際、うっかり、折りたたみ傘を入れ替えるのを忘れていた。
 
駅の改札を出て一分ほど歩いたところで、
唐突に降り出した雨を避ける術もなく、
スーツは水を大量吸って、びしょびしょだ。
 
こんな調子で雨が突発的に降り続くと、
まるで日本は熱帯にでもなってしまったんじゃないかって、
本気で考えてしまいそうになる。
 
そんなスコールのような大量の雨の滝が、
空から私、目がけて落ちてくる。
地上の音を、その水膜の内に全て飲みこんで。
 
数分走り続けて、マンションの前にやっと辿り着いた私は、
屋根の下で大きく背中を上下させて息を整えてから、
びしょ濡れの身体でロビーを進むと、
入って正面のエレベーターの、三角印のボタンを押した。
 
今日の雨はいつにも増して酷かった。
けれど、雷が鳴らなかったことだけは不幸中の幸いだ。
 
雷は嫌い。
 
自分以外の音を踏みつぶす、雷の大きな音。
暗闇を突然切り裂く、刃物のような青白い光。
 
物理的な雷の怖さも当然、雷嫌いの理由ではあったけれど、
何よりも、決定的なのは、
雷鳴が引きずり出す、ある思い出のシーンのためだ。
 
雷の日に、怯えて閉じこもっていた、
隠れ家の扉を、あの人が開けてくれて、
私はあの人の身体に、無我夢中でしがみついた。
あの夏の嵐の出来ごと、思い出してしまうから嫌い。
 
そんな大嫌いな雷が、雨と一緒に鳴り始めたら、
雨に濡れてしまうのに変わりはなくても、
きっと今ほどには平静を保っていられなかったと思うから。
 
程なく到着したエレベーターに乗り込むと、
狭い四角い床を覆う灰色のカーペットに、ぽとぽとと雫が染みる。
 
エレベーターの扉と、
ちょうど向かい側の壁一面には、
全身が映る大きな鏡が付いていて、
そこで、初めて濡れ鼠の自分の姿を見た私は、
思わずぷっと吹き出していた。
 
「これは、酷いなあ」
 
こういうの、なんて言ったっけ。……ああ、そうだ。
 
 
『水も滴る良い女』、かな?
 
 
生まれて初めての恋をして、
ずっとずっと大好きだったあの人に、
いつだったろうか、こんな言葉を言ってみたら、
あの人は一瞬戸惑って、目を丸くしていたけれど、
すぐに満開の笑顔になって、私の手を握ってくれた。
 
そうだ。確か、あれは文化祭の時のことだ。
 
あの時も、自分達は、
今日の私みたいにずぶ濡れだった。
 
高校の文化祭が開催された時、
あの人の周りには、
私には知らないところで、実に色々なことがあって、
それらを解決するために、あの人は誰にも言わず単身フランスへ帰ろうとしていた。
 
今、思い出せば、なんであんな無謀なことが出来たんだろうって、
自分自身の記憶を語っているはずなのに、
まるで信じられない、夢物語を騙っている気分になってしまう。
 
けれど、確かにあの日、
自分は空港へ向かうあの人を追いかけたのだ。

がむしゃらに二頭立ての馬車を走らせて、
お姫様みたいな白いシルクのワンピースドレスを着て、
「自分はホスト部が好きです!!」って必死で叫んで、彼を引き止めた。
 
あの日、私の心をいっぱいにしたのは、
「好き」という気持ちと、失いたくないという「焦り」。

実は、当時は気付いていなかった。
ホスト部のために、あの人をひきとめているだけなんだと思っていた。
 
でも、今はちゃんと分かってる。
 
私はホスト部を失うことだけ怖かったからじゃない。
あの人が……環先輩が、当たり前のように自分の傍に居てくれる場所、
それがなくなるのが嫌だっただけだ。
 
今でも私は時折、あの人に呼びかける。
一年前の春、私の前から永遠にいなくなってしまったあの人に。

 
3 送り続ける言葉

 
少し前までの私の、滑稽な姿を思い出してみる。
 
あの人が残してくれた優しい思い出にしがみついて、
ただその美しい輝きを、失くさないように、消えないように、
大事に両手で包んで、胸の奥に抱えて、深い森の中で独り眠っていた。
 
そうすることが、あの人と対話をする唯一の方法だと思っていたから。
 
でも、それは違った。本当は逃げているだけだった。
あらゆるものから……あの人の影から……そして。

 
私を支えてくれる、もう一人の『彼』の想いから。

 
隠れるために自分自身で作り出したのに、
今や入口がどこだったのか分からなくなるほどに、
すっかり入り組んでしまった迷宮から、
なんとか脱出できたのは、全て『彼』のおかげ。
 
ずっと眠り続けていた私を、
いや、本当はちゃんと起きているのに、
必死で目を瞑って、寝ている振りをしていただけの私を、
強引に肩を揺すって起こすのではなく、
ただ静かに、隣に寄り添ってくれた人。
 
鏡夜先輩。
 
彼のおかげで私の心の中に、再び爽やかな風が通り始め、
今、あの人のことを思い出しても、
以前のように暗いほうへ引っ張られることが少なくなった。
 
だからこそ、こんな雨の日には自然と、
あの人に呼び掛けてしまう。
あの日、あの人に伝えられなかった言葉を送り続けてしまう。
 
ぽんっと小さく柔らかい電子音が響いて、
一瞬、身体の周りの浮遊感が大きくなり、
その直後、反動で両足にかかった重みで、
エレベーターが目的地に着いたことが分かった。
 
扉が開いて廊下に足を踏み出し、
部屋の前へと向かいながら、
私は心の中であの人に呼びかけ続ける。
 
 
私はあなたを愛しています、と。
 
 
たとえ、これから先、
あの人の温もりを、感じることは二度となくても。
 
たとえ、これから先、
あの人以外の人の傍で、生きることを選んだとしても。
 
私はこれからもずっと、
あの人も大切に想い、言葉を送り続けていく。
 
 
あの人は私にとって、物語の『全ての始まり』の人だから。
 
 
4 想い出の循環
 
 
振り向くと、ぽたぽたと歩くたびに床に落ちていった水滴が、
足元、ずっと後ろまで、長く黒く繋がっているのが見える。
 
今は、くっきりとした軌跡を残しているそれも、
私が部屋に辿りついて、着替えを始める頃には乾き始め、
いずれ、跡形もなくなってしまうことだろう。
 
けれど、乾いた水は、何処かへ消えてしまうのではない。
ただその形を変えて、しばらくの間、見えづらくなってしまうだけ。 
再び地上に降り立つその日まで。

だから、この世界がある限り、私がここの生きている限り、
永遠に雨は降り続け、また同じ情景が繰り返される。何度も、何度も。
 
『雨』を、あの人の存在そのものに喩えるならば、
私を濡す『雨粒』の、一粒一粒は、
あの人と共に一緒に過ごした記憶の一欠片一欠片に置き換えられるだろう。
 
そして、無数の想い出のの欠片は、ちょうど今日の雨のように、
唐突に降り始めては、私の心の中に次々と染みていき、
心はそれにずぶ濡れになって、記憶の中に黒々とした痕を残す。

けれど、しばらくすると、
それらは自然と乾いて見えなくなってしまう。
 
そう、これも雨と同じこと。
決して私という世界の中から、無くなってしまうわけじゃない。
 
記憶という空気の中に、いつのまにか溶けてしまった想いは、
密やかに風に乗って空へと昇り、
やがて、結実した涙は唐突に地上に落ちて、何度も私の心に触れるのだ。
 
あたかも水が世界を循環し、幾度も雨を降らせるように。
 
それはつまり、この世界に私が居続ける限りは、
あの人の想いに、一生、触れ続けることができるということ。
 
だから、私はこの身を晒す。
 
私の心に降りしきる、あの人との思い出という名の、
スコールの中で、決して傘は差さず、ずぶ濡れになるまで。

 
5 雨上がりの体温

 
部屋の扉の鍵を開けて、一歩、中に入ると、
沈滞した空気が一気に私を酷い現状を思い出させて、
同時に、少し寒くなってきたような気もする。
 
私は一度、ぴくりと肩をすくめた。

夏の夜の雨は、他の季節に比べれば、
昼間の暑さを緩和してくれるという意味において優秀だったから、
それほど心地が悪いということもない。

けれど、夢中で雨に打たれ続けている時は忘れているのだ。
やがて時間が経って、水が乾く時には、
必ず同時に、この身体の熱を奪い去っていくということに。
 
雨が私を打つたびに、
雨粒が私を濡らしていくたびに
雨が空気の中へ帰っていくたびに、
私の体温は少しずつ少しずつ削られていく。

この雨が、心の中のあの人との想い出と重なるのであれば、
私があの人のことを思い出すと、
その度に、私の心の中の熱も、同じように攫われているということだろうか。

「あ、メール……」
 
身体を冷やしてしまわないように、
タオルで頭を拭きながら、
雨に濡れて色の変わったスーツを急いで脱ぎ捨てていると、
スーツのポケットに入れていた携帯電話に、
メール着信が来ていることに気がついた。
 
 
『急な雨だったが、無事、家に着いたか?』
 
 
とても簡潔な文章だったけれど、
メールの差出人の名前と、
こちらの帰宅時間を見計らったかのような、
タイミングぴったりな送信時間を見て、
なんだか雨に冷やされた身体が、
急速に温まっていくような心地がした。
 
雨ならば、一時、形を変えて見えなくなっても、
いずれまた同じような姿で、自ずから私の上に降り注ぐ。
 
けれど、一度奪われてしまった熱が、
自然と戻ることはないから、
奪われた分だけの熱を取り戻すためには、
新しくそれを作りだしていかなければならない。
 
ところが、一度、完全に冷え切ってしまうと、
この身一つで熱を新しく生み出すのは、とても難しい。

あのまま、ずっと迷宮の揺り籠の中で、
一人で過ごしていたとしたら、
どんなに寒さに震えて膝を抱えても、
この身体はどんどんと冷えていく一方だったことだろう。
 
 
でも、今の私の傍には『彼』がいてくれる。
 

だから、大丈夫。
 
雨上がりの空の下、次第に乾いていく水滴と共に、
たとえ、全ての身体の熱が奪われて、
自分の中から消えてしまうようなことがあっても、
失った温度は、きっと彼が取り戻してくれるから。
 
だから、もう怖くない。
 
冷たい雨が、どれだけ繰り返し降ろうとも。
重たい雨粒が、幾度も私を濡らそうとも。
 
どうか、その腕の中に、私を優しく包み込んで。
 
 
あなたが私の、雨上がりの体温。
 
 
PR
06 2025/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31

プロフィール

HN:
Suriya
性別:
女性

バーコード

<<雨上がりの体温 あとがき(と言う名の言い訳)  | HOME |  シャロンといっしょ ~シャロンルート22日:その3~>>
Copyright ©  -- Suriya'n-Fantasy-World --  All Rights Reserved
Designed by CriCri / Top-Photo by Suriya / Background-Photo by 壁紙職人 / Powered by [PR]
/ 忍者ブログ