『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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共に在る理由 -epilogue-
手術の日が決まり、緊張しているのかと蘭花に聞かれた鏡夜は、
ハルヒが付いてくれているから大丈夫だと答える。そして、手術の日がやってきた。
* * *
あの日、私は第三音楽室の扉を開きました。
扉の向こうに広がっていたのは、
生まれて初めて体験する夢のような世界。
最初はあまり気乗りがしなかったけれど、
貴方達に出会って、同じ部に入って、沢山の貴重な経験をすることができて。
そして。
人生で最初にして最大の恋をしました。
その人が突然居なくなってしまってからは、
私はずっと心の扉を閉ざしてきました。
それはあまりにも大切な感情だったから、
あの人が作ってくれた、あの人の所へと続く扉が、
未だ閉ざされたままであることに変わりはありません。
けれど、最近分かったことがあります。
自分自身という狭い世界から、外の世界へ続く出口は、
おそらく、二度と開けることはないはずの、
固く閉ざしてしまった最初の扉以外にも、いくらだって存在するということ。
だって。
この壁を創りだしたのは自分自身。
それなら、出ていく方法もきっと自分が創りだせるはず。
そう自分に言い聞かせて、落ち着いて周りを見渡せば、
ずっと、越えることのできない高く大きな壁だと思っていた表面、
厚い蔓草に覆われたその下に、
本当は、無数の扉が付いていたのが分かる。
ちょっと前まで、居なくなってしまったあの人へと続く扉以外には、
何一つ見えなかったのに。
おかげで、あんなにも彼を待たせてしまったのに。
本当に不思議、今はこんなにもくっきり見える。
こんな近くにあったんだ。
ずっと、私が探していたもの。
こうなれば、必要なのはあと一つだけ。
その扉を、くぐり抜けて未知の世界へ進む勇気。
* * *
いよいよ、鏡夜の両目の手術の日がやってきた。
医者の話では、成功率の低い手術ではないということだったが、
ストレッチャーに乗せられ手術室まで運ばれていく途中、
やはり緊張しているようで、鏡夜は口元をきゅっと結んでいる。
手術室の中に入る扉の直前で、
ここから先は付き添いの方はご遠慮くださいと、
やんわり注意されたハルヒは、
「あ、ちょっと待ってください」
と、ストレッチャーを押す看護師さんを引きとめた。
「鏡夜先輩」
「ん、なんだ?」
「私は手術室の中までは入れません。だから、これを」
停止したストレッチャーの脇に寄り添っていたハルヒは、
病室を出るときから、こっそり手に握りしめていたものを、
鏡夜の左手に渡すと、
両手で彼の左手を包み、しっかりそれを握らせた。
「これは……」
手の平の感覚だけで、何を渡されたのか鏡夜には判ったらしい。
ハルヒは、手術前の彼の不安な心を励ますように、
彼の左手を包む両手に力を込めた。
「これはもう鏡夜先輩のものですから。一緒に連れていって下さい」
それは、一度は彼が手放したもの。
「ハルヒ」
それは、一度は彼女に返すと決めたもの。
「ありがとう」
感謝の言葉を述べた鏡夜の口元が、心なしかほころんでいる。
事故の直後の、長時間の手術の間、
ずっと見つめ続けた冷たい手術室の扉。
今日もこれから、あの時と同じように、
その銀色の扉が鏡夜とハルヒを隔てようとしているけれど、
ハルヒはもうそれを、怖いとは感じていなかった。
だって、あの日とは違う。
今度は私の心はあなたと一緒に居ることができる。
あなたのその手の中の、小さな銀色の鍵に形を変えて。
「じゃあ、行ってくる」
すっかり落ち着きを取り戻した彼の声を聞いて、
ハルヒはやっと安心して手を離すと、力強く彼を送り出した。
「はい。行ってらっしゃい」
* * *
こうして……。
嵐の中を手探りで迷い歩いた二人の恋は、
真っ暗な闇の中に溶けてしまっていた、
互いの本当の姿をやっと見つけだした。
この先、長い人生の道のりを共に歩んで行くこと。
喜びも悲しみもその全てを分かち合って、
この世界で誰よりも近くで生きていくこと。
それこそが、二人の「共に在る理由」。
一つの想いがゴールに辿り付いた時、
物語は一つの終わりを迎え、
ゴール地点で長い間待っていた、もう一つの想いと共に、
壁の向こう側、幸せの光の中へと続く扉の前に立つ、
そして……。
これからの二人の新しい物語は、きっとこう始まるだろう。
- 扉を開けると、そこは…… -
* * *
了
(初稿2007.10.21 加筆・修正2010.1.24)
以上で、「共に在る理由」本編は終結です。
(この後は、双子が主役の派生エピソードへと続きます)
今回の作品は、旧ブログで公開した時には、
連載期間二ヶ月という大変長期の連載だったのですが、
再公開にあたっては、流石に同じだけの時間もかけるのもどうだろうと思い、
毎日二話ずつ上げてたので、一ヶ月経たないうちに公開を完了することができました。
(途中、すこ~しサボりましたが《苦笑》)
初めて書いた作品も、それなりに長いと思ってたんですが、
今回はその倍以上の分量の連載ですから、
一気に振り返るとなかなか濃かったんだなあ、と、感慨深いものがあります。
とてつもなく長い連載でしたが、
ここまでお付き合い頂いた方には、
この場を借りて深く深くお礼申し上げます。
本当にありがとうございました。
2010.1.24 Suriya拝
(週明けからは、派生エピソード「春の光に風馨る」を公開予定です!)