* * *
鳳総合病院の特別個室の中。
「それで、ハニー先輩。何か悪い知らせでもあるんですか?」
鏡夜は、見舞いのために持参したはずの菓子包みを、
自ら開けてむさぼり食べている光邦の様子を、
脳内で想像しながら、そう問いかけた。
「悪い知らせ? どうして?」
「モリ先輩のことですよ」
病室の中には鏡夜と光邦の二人だけ。
さっきまで一緒にいたハルヒはここにはいない。
「わざとペットを連れてこさせたんでしょう?
ハルヒが居た場合に、外にいかせる口実作りのために」
「……さすが鏡ちゃん。僕の考え、バレてた?」
「人の見舞いに来ようというのに、
敢えて動物を連れてきたりはしないでしょう。いくらなんでも」
「あはは。それは確かにそうだよねえ」
鏡夜の見舞いに来た崇がペットを連れてきたために、
病院の中に入れず外のベンチで独り座っているのを気遣って、
ハルヒはついさっき、崇に挨拶するために出て行ったばかりだ。
「ハルちゃんは気付いてるかな?」
「おそらく大丈夫だと思います。で、首尾はどうですか?」
「う~ん、それがねえ」
ガサガサと、菓子の包装紙を折り畳む音が聞こえてくる。
「ちゃんと報告できることは何もないんだよね」
「何も? 俺の体調のことを気遣ってくださってるなら、大丈夫ですよ。
まあ、まだ起き上がることも、まともに食事もできませんけど」
「ハルちゃんが傍にいるからって余裕だねえ、鏡ちゃん」
「……
嫌みですか?」
「違うよ、僕は嬉しいんだよ。
やっとハルちゃんもスタートラインにたどり着いたなって思ってさ。
聞き逃さなかったんだね、ハルちゃんの言葉を」
「先輩に言われてましたからね。気をつけてたんですよ」
ここは最終地点じゃない。
ただ傷ついた彼女の傍にいて、
彼女の心が動き出すのを待っていた、
その段階から一歩進んで、
ようやく彼女は、壁の向こうへと続く扉の前に立ってくれた。
この迷いの森の中から、彼女を無事連れだせるかどうか、
扉を開ける勇気を与えられるかどうか、
それはこれからの自分にかかってる。
「で、話は戻りますが、本当になにも報告はないんです?」
「そうだね。悪い知らせを隠しているとかいうんじゃなくて……、
とにかくなにも無い状況なんだよねえ。これって妙だと思わない? 鏡ちゃん」
「なにも無い?」
「うん。変でしょ? 調べれば調べるほど何も出てこないの。
鏡ちゃんも独自に調査はしてたよね?」
「ええ、でも俺の権限だと限界もありますから……。
それにしても、ハニー先輩が探っても何も出てこないとなると、
確かに何か恣意的なものを感じますね」
「でしょう? 目撃者の一人の証言も取れないんだもん」
「軍の内部情報でも、収穫無しですか?」
「一応、僕は武術の指導者ってことで関与はしてるけど、
そうはいっても部外者だからねえ。
各国の機密事項にまでは踏み込めないけど、
でも、ちょっとした雑談にもその話題が全然出てこないんだよね。
お昼寝してる振りとか、フランス語が分からない振りしてみたりしたけど。
箝口令でも敷かれてるんじゃないかって思う」
「そうですか……」
「まあ、これからまたヨーロッパに戻るから、引き続き調べて見るよ。
一応、軍の中なら民間よりは情報量も豊富だからね。
とりあえず、今のところ僕が断言できることは……」
光邦は周りを窺うように、声を若干小さくして鏡夜に告げた。
「メディアで報道されてた、あの事故の原因ってされてることが、
今の段階では、それが
正しいとも間違ってるとも言えないってことだけかな」
* * *
了(続?)
……というか、ハニー先輩の名前が光圀になってましたね……orz(汗汗)
それって水戸黄門の……(略)
ほんと、ハニー先輩すみません。(他のところでも間違ってるかもしれない……随時直していきます)PR