『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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* * *
扉の向こう側から、
少し言い合うような荒っぽい声が聞こえた気がして、
中に入った方がいいのだろうかと迷っているところへ、
鏡夜が病室から出てきた。
扉を出てすぐのところで待っていた蘭花を見つけると、
予想通りといった調子で、目を若干細めた後、軽く頭を下げる。
「あら、もう時間なの?」
「ええ。どうしても代理を出せない仕事がありまして。
とりあえず、今日は入院して様子を見るようにとのことですので、
申し訳ありませんが、ハルヒさんをよろしくお願いします。
蘭花さんもちゃんと検査を受けていってくださいね」
「でも仕事が終わったら、付き添いに来るんでしょ?」
当然の確認事項だと思っていたのに、鏡夜は何故か首を振った。
「いえ。面会時間内には終わりそうにもありませんので、
僕は明日くることにします。
まあ……ハルヒさんが僕に来てほしいかどうかは分かりませんが」
嘘のつきかたの巧妙さでは、
娘と彼には格段の違いはあっても、
素直な感情表現が下手という意味では、
蘭花からみてハルヒと鏡夜とは、それほど差は感じられない。
「それでは、蘭花さん。時間も押してますので、お先に失礼します」
こと、ハルヒに対する態度に限定するならば、
鏡夜の態度もこれはこれで分かり易いもので、
一連の言動を考慮するに、鏡夜はどうやらひどく怒っているようだ。
若干諦めというか、虚しさの残る雰囲気も織り交ぜて。
そりゃ、自分に黙って、部屋で独り、愛する相手が倒れてたら、
心配を突き抜けて怒りたくなる気持ちもわからなくもないけれど、
ハルヒを担ぎこんで来た時の彼の雰囲気から、
一変して、妙にイライラして見えるのは何故だろう?
遠ざかる彼の背中を見送りつつ、病室の中へ戻ったら、
こちらはこちらで、蘭花が居た時とは明らかに違う、
酷くどんよりとした澱んだ雰囲気が、ベッドの周りに漂っている。
「……ハルヒ、起きてる?」
「……」
布団を不自然に被っていた娘は、
蘭花が声をかけると、そこから顔を出してくれた。
熱のせいか、はたまた先程の言い合いのようなもので興奮したからか、
うっすらと真っ赤になった頬に加え、
若干涙ぐんでいるようにも見える。
「……これは鏡夜君にお仕置きが必要な状況ってことかしら?」
今度またハルヒのことを泣かせたら承知しない、
という鏡夜との約束を思い出し、
蘭花が思わず呟いた言葉に、ハルヒは微かに首を横に振る。
「鏡夜先輩のせいじゃないの。ただ、自分が情けなくて……」
「一体、どうしたっていうのよ」
ベッドサイドの丸椅子に腰かけると、
ハルヒは申し訳なさそうな、力のない笑顔を浮かべた。
「鏡夜先輩に……風邪のこと伝えなかった、
『本当の理由』……言えなくて」
「本当のって……もしかして、遠慮して心配かけたくなかった、
ってだけじゃないってこと?」
「……うん」
頷いたハルヒは、下唇をちょっと噛むような感じで口を閉じて黙り込む。
本当に話したくないと本人が思っていることなら、
たとえ娘のことであるとしても、興味本位で詮索する必要はない。
でも。
本当は話したくて、誰かに聞いて欲しくて、
なのに、何かが歯止めをかけて、
なかなか素直に言いだせずに、心がもがいているのなら、
父親としては、それを聞いてやることが役目だと思っている。
たとえ、母親の代わりにはなれなくても。
娘を想う気持ちは、アプローチの仕方は多少違っても、
男親であろうと女親であろうと、
どちらが上だとか、どちらがより強いとか、
そう比較するものではないはずだから。
とにかく、ハルヒがどういうつもりなのか様子を窺おうと、
本当の理由とやらを追求する素振りは一切見せずに、
ハルヒに付き添って、おでこを撫でたりしていると、
「ねえ、お父さん。ひとつ聞いていい?」
ようやく、話してみようという気になったらしい。
「改まって、なあに?」
「お父さんが前に私に言ってくれたこと、本当かなって思って」
「ん? あたしが前に言ったこと?」
「うん……ねえ、お父さん、本当に……」
右手の指で涙をぬぐったハルヒは、
蘭花の目をじっと見つめて、こう言った。
「本当に……忘れなくても幸せになれる?」
* * *
続